滝藤賢一が語る「アイリッシュマン」|個性派俳優が見つめた名優たちの細かな芝居、目指すはジョー・ペシ

ロバート・デ・ニーロが主演、マーティン・スコセッシが監督を務めた「アイリッシュマン」が、Netflixで全世界独占配信されている。

「タクシードライバー」「レイジング・ブル」など、映画史に残る傑作の数々を生み出してきた盟友が、24年ぶり9回目のタッグを果たした本作。今回、2人が題材に選んだのは、戦後アメリカの裏社会を暗躍した実在の殺し屋フランク・シーランの壮絶な人生だ。明らかに善人とは呼べない人物が晩年に語ったある未解決事件の真相が明かされる。

映画ナタリーでは、青春時代にデ・ニーロから影響を受け俳優を志したという滝藤賢一に本作を鑑賞してもらいインタビューを行った。この日もデ・ニーロを意識した私服で取材に応じてくれた滝藤。映画・ドラマの第一線で活躍する個性派俳優の彼が、演者ならではの視点で語った映画「アイリッシュマン」の魅力とは。

取材・文 / 奥富敏晴 撮影 / 入江達也

3時間半は全然長いと思わない

──今回、滝藤さんにはNetflixで「アイリッシュマン」をご覧いただきました。

インタビュー直前まで観てましたよ。昨日は家のテレビで字幕で観て、今日もう1回吹替で取材のギリギリまで観てました。

──2回もご覧いただきありがとうございます! 本作は配信サービスであるNetflixオリジナルの映画なわけですが、「映画は映画館で観るべき」といった考えを持っている人もいます。滝藤さんはいかがですか?

滝藤賢一

それは一切ないですね。それぞれの都合で観に行けない方はたくさんいるでしょうし、僕なんかはまったく映画館に行く時間がない。子供が4人いて、休みの日に映画を観に行きたいなんて絶対に言えない。奥さんに休んでもらわないと。だから僕が一番映画を観てるのは、車の中のモニターですよ。マネージャーに運転してもらってるときに後ろの席で観るんです。むしろそっちのほうが見やすくなってきた(笑)。

──とても意外です。

映画館にあまり行かないと言うたびに、“だから映画の仕事が少ないんだね”と言われますけど、気にしません(笑)。

──では普段からNetflixを頻繁に利用されているんですね。

Netflixはマズい。中毒者出てますよね、きっと(笑)。この間もセリフを覚えないといけないのに、海外ドラマを観始めちゃって止まらなかった。今回のために「タクシードライバー」「グッドフェローズ」を観直したときも、これもあるの?これも?とどんどん観たい映画が増えていく。本当にマズい(笑)。

──マーティン・スコセッシがNetflixで新作を撮る、と最初に知ったときはどう思われました?

アカデミー賞のときにNetflixの「ROMA / ローマ」がいろいろな議論を呼んでましたよね。配信作品に賞を与えていいのか、みたいな。でも映画の可能性が広がるなら、Netflixで撮るという選択はありだと思います。

──監督もNetflixとの映画製作について「これまででもっとも自由度が高かった」と発言しています。

あのクラスの人たちでも不自由なんて状況があるの?

──確かに(笑)。ですが通常の映画配給会社やスタジオに本作の企画が断られた経緯があるようで、Netflixが製作費を含めて助け船を出してようやく完成に至ったとのことです。

「アイリッシュマン」の長さは209分。スコセッシがこれまでに手がけた劇映画の中でも最長となった。

Netflixのほうが作りやすい作品ってあるんでしょうね。特にこういう長い映画は、Netflixの自由度があったほうがいいのかな。僕はかじりつくように観てたから、3時間半を全然長いと思わなかった。だって83歳で死んだ人の人生を3時間半で観てるわけでしょ。それは長くない、だって映画は83年のいいとこ取りじゃない。人生の面白い部分が凝縮されているわけだから、やっぱり全然飽きずに観れましたよ。

──なるほど。

スコセッシが組んだなら、Netflixで撮りたい人はもっと増えていきますよね。「ハウス・オブ・カード 野望の階段」だってデヴィッド・フィンチャーでしょ。「全裸監督」もとても話題になっていましたし。

スコセッシとデ・ニーロの相思相愛感を感じた

──滝藤さんは、過去のインタビューでもデ・ニーロからの影響を公言されていますよね。

滝藤賢一

デ・ニーロはそりゃね。逆に俳優を目指しててデ・ニーロの影響を受けてない人がいるんですかね? 僕なんか今日、完全にデ・ニーロ風ですよ。こんなサングラスかけて、モロこの映画の影響(笑)。

──晩年のフランクがかけていたサングラスと形が似ていますね(笑)。魅了された理由はなんだったんでしょう。

今でさえ「タクシードライバー」が「ジョーカー」で引き合いに出されたりしますけど、初めて観た高校生のときはやっぱりかっこいいということだけですよ。だってかっこいいと思って、この世界に入ってるから。僕の中での最強デ・ニーロは「ケープ・フィアー」なんです。全身刺青でオールバックにしたストーカー。内容は置いておいて(笑)。

──滝藤さんは、デ・ニーロの代名詞である肉体改造を映画やドラマの役作りのためにされたこともありますよね。

今だと肉体改造というとクリスチャン・ベールとかが有名なんでしょうけど、僕は彼らと違って主役じゃなかった(笑)。でもそれが逆に面白くないですか。連ドラのたった1話のゲストなのに1カ月で10kg痩せるとか。普通やらないでしょ? “こいつバカじゃねえの”と思われたいんです。

──なぜそこまでストイックな姿勢を保てるんでしょうか。

初めて何かを勉強したいと思ったのが俳優だったんです。塚本晋也監督のオーディションに、そして無名塾に受かってしまったから、俳優の難しさと魅力に取りつかれた。医者にもなれなかったし、弁護士にもなれなかったし、政治家にもなれなかった。でも俳優やってたら全部やれる。何回死んだかわかんないし、何回殺したかもわからない。そういうことがとても面白い職業じゃないですか。苦しいですけどね。

──映画にはデ・ニーロをはじめ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテルというレジェンド級の豪華キャストが集いました。

ニューヨーク映画祭でのワールドプレミアの様子。左からジョー・ペシ、アル・パチーノ、マーティン・スコセッシ、ハーヴェイ・カイテル、ロバート・デ・ニーロ。

4人がそろったフランクの表彰式のシーンは圧巻でしたね。あの場にいるほかの俳優はたまらなかったと思う。まさに夢の共演ですよ! これで(レオナルド・)ディカプリオが出てたら僕は気絶してしまう。日本で言うなら、役所広司さん、渡辺謙さん、真田広之さん、佐藤浩市さん、中井貴一さんが同じ会場にいるみたいな最高の現場。そこに僕がポツンと(笑)。

──スコセッシとデ・ニーロは1995年公開の「カジノ」以来、24年ぶりのタッグなんです。

スコセッシは演出するうえでデ・ニーロをどうやって導けばいいか、どうしたら最高のパフォーマンスができるか、わかってると思うんです。お互いの癖も。その関係性はうらやましいですよね。

──本作の企画はデ・ニーロがスコセッシに持ち込んだそうです。

僕も数日前に撮り終わったドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」が古舘寛治さんと一緒に企画した作品なんですが、僕らの場合はこの監督がいいと言っても引き受けてもらえるかはわからない。当然ですが、監督にも選ぶ権利がありますから。でもデ・ニーロに持ってこられたら、たぶん誰でもやりますよね。そこでデニーロは盟友のスコセッシを選ぶ。すごい信頼関係ですし、2人の相思相愛感を「アイリッシュマン」からは感じました。