映画ナタリー Power Push - テラヤバい!映画「テラフォーマーズ」大解剖
三池崇史編
出自がバラバラなキャストたち
──ほかの方々はいかがですか?
山下くんは、ずっとジャニーズの中から世間を見てきたわけです。一方で菊地凛子は、ハリウッドで「パシフィック・リム」に出ていたやつが、今度は火星に行きます!みたいな。滝藤(賢一)さんに至っては、無名塾出身ですからね! 無名塾が火星行っちゃマズいでしょう(笑)。虫になって大活躍ですよ。篠田(麻里子)さんも出自が全然違う。ケインさんなんか本当に変わっていますし……。一番役者らしい成り立ちなのは、意外と山田孝之なのかもしれないですよね。武井さんも、そういう意味では王道と言えば王道なのかな。小栗旬も非常に変わっていますよ。まだ15、16歳の頃、ドラマの役がほぼ決まっていたんですが、彼は最終オーディションにモヒカンにして行ったんです。要は、こちらから断るわけにはいかないけど、向こうが断るなら仕方ないですよね?って言う理屈で。モヒカン頭で非常に生意気にしゃべったら、案の定違う人に決まった。「今はまだその役はやりたくない」って、そういう意識でやっていたんですね。
──皆さん、本当にバラバラです。
みんな映画俳優ってひと括りにしてしまえば同じなんですけど、役者をやっている人間たちも全員バラバラなんですよ。それをこの台本の役に当てはめて、「この人が演じるんだからこういう言い方がいい」とか、相手が言いたいことを先に見抜く。つまり、その人が作品に抱いた夢を共有できるんです。さらにスタッフたちの夢も背負うわけですから。いろんな人の思いを自分のものにして力に変えていけるのは、映画監督の面白いところだと思いますね。
作品の奴隷になる
──三池監督は海外からも高く評価されていますが、この作品で海外の視線を意識することはありましたか?
いや、むしろあまり気にしない。日本人にしかできないSFというか、SFの域を超えた活劇というか……そういう日本人にしかできない作品というものがもっともグローバルな作品だと思うので。それに、これまでの体験からして、どの作品でも結局海外のことは意識しないんですよね。地方の孤独な青年に向けて作っていたVシネマが、ある種の人たちからすると非常に珍しいものに見えて、自分を海外の映画祭に連れていってくれたんだと思います。外側じゃなくて内側ばっかり見て、自分が一番知っている正直なことを描く。それを作ると世界中で通用しますよね。国も制度も全部違っても、どの時代の人にも同じ哀しみと苦しみと喜びという呪縛があって。どんなに環境が変化しても、人間は変わらないもんなんだっていうのがわかる。
──「テラフォーマーズ」も同じ考え方で作っているんでしょうか?
核になる部分をみんなと共有できるかどうかっていうことですよね。例えば登場人物たちはこうしたいだろうなとか、原作者はこういう映画を求めているんじゃないかとか。「自分はこうしたい」っていうより、この作品の奴隷になるわけですよ。自分のことを考えず、無我夢中で何かのために働くっていうのは、けっこう悪いことではないと思うんです。「自分らしさ」とかって言うやつはあまり信用できない。「“自分らしく”は自分で勝手にやってればいいでしょ」って。
美しいものがいつまでも美しくあるわけではない
──自分のカラーを作品に反映するのではなく?
そこに自分があっちゃ邪魔じゃないですか。多くの監督には自分というものがあって、それでプレッシャーを感じたりするわけです。「前はこれだけ評価されたから、今回は少なくとも同じか、超えなくては」という気持ちが。でもそれは自分勝手な欲で、映画にとっては邪魔になる。監督の思いなんかどうでもいいから、この作品はこうなりたいし、役者はこうなりたいんじゃないの?っていう。そういうやり方の自分からすると、「よくぞこういうマンガを描いてくれた!」って原作者たちに感謝するし、支持している多くのファンの人たちにも感謝したい。この「テラフォーマーズ」は、“自由”とか耳障りのいい言葉の、夢を見ているみたいな感覚を打ち砕いてくれる。美しいものがいつまでも美しくあるわけではないし、がんばったからと言って何もかもが報われるわけでもない。そこが非常に好きです。
──原作ファンの方々の思いは、どのように受け止めていますか?
今、けっこう危険視されていると思うんですよ。「大丈夫か!?」「監督、三池かよ!」って不安を抱いているだろうなと。俺でも不安に思うだろうし(笑)。でもその不安に思う力も、大きければ大きいほうが「ちょっと確かめてみよう」ってなるんじゃないかな。それで「なんか違うぞ!?」「いや、イケてるみたいだぞ」とかって、バラバラの人たちが劇場に集まって、それぞれの思いの中でこの映画を楽しんでもらいたい。筋書きが作れない、フォーマットにはまらないのが「テラフォーマーズ」だと思います。
- 「テラフォーマーズ」2016年4月29日より全国公開
- 「テラフォーマーズ」
あらすじ
21世紀、地球の人口は爆発的に増加し、人類は火星地球化計画を実行。苔と“ある生物”を火星に送り、気温を上げることで地球化させようとした。それから500年の歳月が過ぎ、生物を駆除するため15人の隊員が火星へ派遣されることに。簡単な仕事のはずだったが、そこにいたのはヒト型に異常進化を遂げて凶暴化したテラフォーマーたち。出発前に特殊能力として昆虫のDNAを授かった隊員たちは、変異して超人的なパワーを発揮。人類と異常生物による生き残りを懸けた戦いの火蓋が切って落とされる。
スタッフ
- 監督:三池崇史
- 原作:貴家悠、橘賢一(週刊ヤングジャンプにて連載中)
- 脚本:中島かずき
- 主題歌:三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE「BREAK OF DAWN」
キャスト
- 小町小吉:伊藤英明
- 秋田奈々緒:武井咲
- 武藤仁:山下智久
- 蛭間一郎:山田孝之
- ゴッド・リー:ケイン・コスギ
- 森木明日香:菊地凛子
- 堂島啓介:加藤雅也
- 大張美奈:小池栄子
- 大迫空衣:篠田麻里子
- 手塚俊治:滝藤賢一
- 連城マリア:太田莉菜
- 榊原:福島リラ
- 本多晃:小栗旬
©貴家悠・橘賢一/集英社 ©2016 映画「テラフォーマーズ」製作委員会
三池崇史(ミイケタカシ)
1960年8月24日、大阪府八尾市出身。今村昌平、恩地日出夫らに師事し、1991年にオリジナルビデオ「突風!ミニパト隊」で監督デビュー。1995年の「新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争」で劇場公開映画の初監督を務め、以来ジャンルを問わず多種多様な作品を次々に手がける。ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ローマ国際映画祭のコンペティション部門に監督作が出品されるなど、日本国内のみならず海外でも高い評価を獲得。主な作品に「殺し屋1」「愛と誠」「悪の教典」「神さまの言うとおり」「極道大戦争」など。木村拓哉が主演する「無限の住人」が2017年に公開されるほか、生田斗真主演「土竜の唄 潜入捜査官 REIJI」続編の制作も決定している。
2016年4月25日更新