映画ナタリー Power Push - テラヤバい!映画「テラフォーマーズ」大解剖
三池崇史編
二流の外国人より一流の日本人
──脚本はどういうコンセプトで作っていったのでしょうか?
いくつかの選択肢はあったんですけど、シンプルに描くということですね。そのほうが、登場人物たちのイメージと役者そのものの魅力が自然に出るんじゃないかなと。役柄の人間味みたいなものが出ないと、敵が未知なので物語になりえない。戦いようがないんですよ。台本で作り上げるものより、役者に演じてもらった結果何が見えてくるか、仕上げてみないとわからないというのが面白いんですよね。
──実写化にあたり、原作から変えなければならない部分もたくさんあったと思います。
この作品というわけじゃないですけど、原作ファンの方たちはよく“改悪”という言葉で表現しますよね。でも改悪せざるを得ないものっていっぱいあるわけで。一見改悪に見えても、結果的に「変更してよかったね」っていう形に持っていくのが、我々のやるべき仕事だと思うんですよ。変えることさえ許さないという極端な人も確かにいますが、それは観てもらって判断してもらうしかない。そういう人たちも納得させるものを作っているつもりです。
──例えば原作では主要キャラに外国人がたくさんいますが、映画では全員日本人に変更されています。
一番大きな変更点です。全員日本人であるべきだと。ケイン(・コスギ)さんは微妙なところですが(笑)。正直に言うと、日本の我々に与えられているバジェットと時間の中で最善の方法を取ると、やはり力のある日本人の俳優で役を再構築していくほうがいいものを作れる。要は、二流の外国人より一流の日本人。日本人しか出てこないハリウッド映画ってあまり観たいと思わないじゃないですか。それと同じで、日本人が出てこない日本映画って意味がないと思うんですよ。
──なるほど。
アメリカ人をキャスティングしたとして、「アメリカ人ならきっとこう考えて、こう動くだろう」っていうのが表面的にしかわからない。映画で得た知識とかしかないから。それではさすがに演出できないですよ。1人くらいだったらまだ大丈夫、「ほんとに腑に落ちてる? こんなセリフ言うの?」ってその人に聞けばいいわけですから。それが大勢で、いろんな国にまたがると、今度はその国を僕らが勝手に解釈して「インド人ってこう言うよね?」とか、「中国の人ってこんな反応するよね」ってステレオタイプで考えてしまう。それもつまらないじゃないですか。そういうのをきちんと描こうとするのはなかなか難しい。不可能ではないと思うんですけど。
伊藤英明は動物的、武井咲は嫁さんにすると大変かも(笑)
──日本人だからこそ描けるものを描くという思いもありますか?
日本のやり方で勝負するというのはありますね。予算が少ないとか、そういう欠点があるからこそできることもあると思うんですよ。ないものをうらやましがってないで、今あるものでもっと加速させて作っていったほうが楽しいんじゃないかなと。役者も欠点がある人が大好きなんですよ。そもそも、万能でうまくやるような人は主役級になれない。日本映画の主役って、魅力はあるけど決して芝居がうまいわけじゃないですよね。もちろん鍛錬はするんですけど、例えば海外を目指して英語を勉強する人もいれば、まったくしない人もいる。考え方もバラバラだし、演技にもバラつきがあって当たり前。今回のキャストも、1人ずつ見てみるとまったくキャリアが違いますから。
──確かに多彩な顔ぶれです。キャストはどのような基準で選ばれたんでしょうか?
無茶苦茶ですよ(笑)。普通やんないだろうっていう人にとりあえず声をかけてみたくなって。
──本作のキャストにも欠点はあるんでしょうか?
欠点を生かして生きてますよね、役者っていうのは。欠点を売っているというか。または、その欠点を隠そうとして何かを作り上げている。ある種のコンプレックスですよ。監督の立場で冷静に見ていると、応援というよりも利用したくなるんですよね。
──伊藤英明さんとか山下智久さんとか、コンプレックスを感じているようには見えないメンバーですが……。
伊藤英明はあまり感じていないかな(笑)。でもね、「なんで人生ってこんなに切なくて短いんだろう?」っていう核が伊藤英明にはある。その恐怖というか、畏れが彼の根っこにあるのは確かです。子供の頃に病弱だったのもあって、健康について意外と神経質に考えている。人にはそういうところを見せないんだけど。その中で、彼の動物的な感覚は非常に参考になります。技巧派で演技が上手というよりも、「これがカッコいいんだ」という思い。そういう彼のセンスが、自分にないところを埋めてくれるんです。動物ですよ、伊藤英明は。
──「愛と誠」以来、久々にご一緒された武井咲さんはいかがですか?
武井さんは、前に仕事したときからすげえなと思っていて。なんと言うか、「自分自身を超えて、何か超人的なことがしたい」というような夢を持っていない。今日ここで、全力で精一杯演じ切るという覚悟がある。輝いていて素敵なんですけど、どこか迫力がありますよね。怖いですよ。嫁さんにすると大変なタイプかもしれない(笑)。相手にはしてくれないでしょうけど、すごく頼りになる女優ですね。
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- 「テラフォーマーズ」2016年4月29日より全国公開
- 「テラフォーマーズ」
あらすじ
21世紀、地球の人口は爆発的に増加し、人類は火星地球化計画を実行。苔と“ある生物”を火星に送り、気温を上げることで地球化させようとした。それから500年の歳月が過ぎ、生物を駆除するため15人の隊員が火星へ派遣されることに。簡単な仕事のはずだったが、そこにいたのはヒト型に異常進化を遂げて凶暴化したテラフォーマーたち。出発前に特殊能力として昆虫のDNAを授かった隊員たちは、変異して超人的なパワーを発揮。人類と異常生物による生き残りを懸けた戦いの火蓋が切って落とされる。
スタッフ
- 監督:三池崇史
- 原作:貴家悠、橘賢一(週刊ヤングジャンプにて連載中)
- 脚本:中島かずき
- 主題歌:三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE「BREAK OF DAWN」
キャスト
- 小町小吉:伊藤英明
- 秋田奈々緒:武井咲
- 武藤仁:山下智久
- 蛭間一郎:山田孝之
- ゴッド・リー:ケイン・コスギ
- 森木明日香:菊地凛子
- 堂島啓介:加藤雅也
- 大張美奈:小池栄子
- 大迫空衣:篠田麻里子
- 手塚俊治:滝藤賢一
- 連城マリア:太田莉菜
- 榊原:福島リラ
- 本多晃:小栗旬
©貴家悠・橘賢一/集英社 ©2016 映画「テラフォーマーズ」製作委員会
三池崇史(ミイケタカシ)
1960年8月24日、大阪府八尾市出身。今村昌平、恩地日出夫らに師事し、1991年にオリジナルビデオ「突風!ミニパト隊」で監督デビュー。1995年の「新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争」で劇場公開映画の初監督を務め、以来ジャンルを問わず多種多様な作品を次々に手がける。ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ローマ国際映画祭のコンペティション部門に監督作が出品されるなど、日本国内のみならず海外でも高い評価を獲得。主な作品に「殺し屋1」「愛と誠」「悪の教典」「神さまの言うとおり」「極道大戦争」など。木村拓哉が主演する「無限の住人」が2017年に公開されるほか、生田斗真主演「土竜の唄 潜入捜査官 REIJI」続編の制作も決定している。
2016年4月25日更新