そういう見方でよかったんですよね?(堂前)
──まずは率直な感想をお聞きしていいですか?
堂前透 ……率直に言うと、普段は観ないタイプの映画で難しかったですね(笑)。
──そうですよね。ほかの3人もうなずいてらっしゃいますが、本当に変わった作品で。ストーリーもあるにはあると言った具合で「よくわからない」というのは確かにそうだと思います。
堂前 でもパリの街を突然戦車が横切ったり、公園に天使が現れたりとファンタジー要素もあって。要所要所の映像の見せ方が面白いシーンはたくさんありました。そういう見方でよかったんですよね?
辻 僕は必要最低限のセリフしかないのが新鮮でした。主人公がほぼしゃべらない。「ナザレ」と「パレスチナ人だ」のたった二言だけでしたよね。そこに驚きました。
ケツ 僕は普段そんなに映画を観るほうじゃないのもあって、ちょっと異質な作品だなと感じました。でも映像の美しさに引き込まれたし、音楽のテンポも心地よかった。特に公園で女性がベビーカーを押しているシーンは音楽と合っていて作り込まれているなあと。
兎 全体を通して会話らしい会話もなければ、登場人物の名前もほぼ出てこない。あまり観たことがないタイプの映画。でも笑かす部分が多くて、ちょっと難解ではありますけど楽しめました。これって一応コメディなんですかね? パレスチナの情景をニューヨークやパリに落とし込んで、その日常描写の中で「面白いでしょ?」ということをやるのは、コメディだけど皮肉めいてもいましたね。
──おっしゃる通り、風刺的な要素もあります。何気ない日常描写の積み重ねの中に、紛争や政情の不安が止まないイスラエル・パレスチナ問題を想起させる鋭い描写を差し込むのがスレイマン監督のスタイルでもあります。
兎 街を戦車が走ったり、スーパーの人が銃を持っている描写は、ファンタジーだけど直接的でもありますよね。
辻 いきなり車からロケットランチャー出したり。
兎 そうそう。公園で椅子を取り合うシーンなんかも、余裕がないから他人に分け与えることができないということなのかなって。みんなニューヨークやパリで当たり前に自由な暮らしをしているけど、その風景の中にパレスチナの生活を落とし込むとこんなに皮肉めいた笑いになるのかと驚きました。
CGだと思っていたら……(ケツ)
ケツ スレイマン監督自ら主演もされていますが、毎回自分の作品に出ているんですか?
──そうですね。主に表情や動きで演技するということもあって、作風としてはバスター・キートンやチャーリー・チャップリン、ジャック・タチといった巨匠たちに通ずると言われている監督です。
一同 へー。
兎 途中でしゃべったとき、しゃべった!と思ったし、意外とかわいい声だった。案外渋い声じゃなかった。
堂前 確かに(笑)。
──小津安二郎監督のカメラワークに影響を受けている部分もあったり、演劇的な要素も取り入れたり、いろいろ計算して作り込むタイプの監督でもあって。例えば「写真で一言」のお題にもした、小鳥が監督の部屋に迷い込んでくる場面は、何十匹もの小鳥からオーディションで選んだ2羽を出演させたそうです。こだわりが強いですよね。
一同 えー!
ケツ CGだと思っていたら……。
兎 あ、あと戦車も本物ですよね? 戦車が通るたびに店の窓に影が映っていたのが見えたので、これは本物使ってるなと!
──戦車はCGです。
一同 違ったわ!(笑)
辻 隣の庭で枝切りしてたおじさんいたじゃないですか。あれもさすがにCGですよね?
──(笑)。
ケツ ちゃうわ。CGだったらそれはそれでおもろいけど。
堂前 めっちゃ演技してたから(笑)。
辻 違うかー。でも相当こだわりが強い監督なんですね。知れば知るほど面白くなっていきます。
でも5分ネタ作れないでしょ?(辻)
──セリフなしでも笑いを起こせるというのはコントにも通ずる部分があるのかなと思うのですが、皆さんの視点から見てどう思われましたか?
辻 僕らのネタは、変な人がおったら普通はツッコむと思うんですけど、基本的にセリフを省いているので共感するものがありましたね。例えば変な店員がおってもお客さんはツッコまないじゃないですか? だから「この人がリアルにおってもそれに対するセリフはないだろうな」と思うのをそのままやっていて。スレイマン監督も日常に沿ったリアクションをしていたように見えたので、映像は不思議だけど、演出はリアルを求めてはるんやなと思いました。
堂前 僕ら2組とも、セリフがないっていう縛りのネタは得意なほうだと思うんです。“ない”部分の間をお客さんに想像してもらうというか。お客さんも、自分でいろいろ想像できるのが気持ちいいのかなって。
辻 (セリフを)極力なくした賞レースだったら優勝できるかも(笑)。
──その賞レースにスレイマン監督も参加できますかね?
辻 あー、でも5分ネタ作れないでしょ?
堂前 小鳥と一緒に出られたらヤバいな。
辻 小鳥とコンビはエグい。
ケツ 芸歴も長いですしね。
兎 でもめちゃくちゃおもろいと思うわ。
──ほかに芸人目線での発見は何かありましたか?
辻 主人公の隣人のおじさんが「鷲がヘビ目がけて急降下した」という話をする場面で、日本語字幕の一人称がややこしくないように「おら」になってたのが面白かった。ネタが作れそうだと思いました。鷲の話をしているのに一人称も「わし」でどっちの話をしてるかわからないっていうネタ。
一同 (笑)
辻 そのおじさんが息子と喧嘩するところも印象的です。「悪ガキ」「親の教育」とか「チンピラ」「元締め」と交互にののしり合って。オウム返しじゃないですけど、連想ゲームみたいにとっさに何か言い返すっていう会話のコントもできそう(笑)。
まずは観て、それから話そうや(兎)
──それでは最後に、皆さんなら本作をどのようにお薦めするか教えていただけますか?
堂前 最初からストーリーを理解しないで観るほうがいいかもしれないです。定点撮影の場面が多かったじゃないですか。自分の目線で見ている景色の中を、いろんな人が出入りしていく感覚が面白かった。そういうふうに、なんだか楽しい映像として観るのもありだと思います。
ケツ 映像として見応えがあるから、僕も薦めるポイントはそこですね。
辻 昼間に酒飲みながら観たらさらに入り込めそう。優雅な時間として過ごせるんじゃないかな。
兎 スレイマン監督の作品を知っている人は映画の見方がわかると思うけど、なんの情報もなしに観たときの一発目の感想は気になりますね。「まずは観て、それから話そうや」という感じで薦めたいです。
ナザレ出身のエリア・スレイマン。これまで手がけた長編は「消えゆく者たちの年代記」(1996年)、「D.I.」(2002年)、「時の彼方へ」(2009年)のわずか3作品ながら、世界の映画ファンをうならせてきた。最新作「天国にちがいない」も第72回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞に輝き、スレイマンはスペシャルメンションを受賞した。
スレイマンは劇中で自らの“分身”を演じるところから、現代のバスター・キートンあるいはジャック・タチなどと評されることも。彼自身はほとんど話すことなく、街や人々が不条理に変化していくさまをただ観察することで、ある平凡な人間が世界の混沌に巻き込まれていくさまを監督・役者の両面から表現する。
これはスレイマンが本作のタイトルに込めた意味。劇中で彼はどこか新しい場所を探して異国を訪れるが、世界の至るところに抑圧、占領、取り締まりといった問題が存在し、皆が探し求めている“天国”などどこにもないということを知る旅路となる。