エントロピー増大の法則
劇中では、研究者のバーバラが「エントロピーが減少すると、時間が逆に進んでいるように見える」と説明する。エントロピーとは“ある条件下での変化の不可逆性”を示す指標であり、「自然の変化は全体のエントロピーが増大する方向にしか進まない」という法則がある。コップにお湯を入れて放置すると自然に冷めて周りと同じ温度になる変化などが、エントロピーの増大に当たる。つまりその逆方向の変化、一度冷めたお湯の温度が自然に上がること(=エントロピーの減少)は起こり得ない。仮にそれが起こると、我々の感覚では時が戻ったように見えるだろう。またニールのセリフには「陽電子は時間をさかのぼる」という説明もある。陽電子とは、電子と同じ質量でプラスの電荷を持つ粒子のことで、物理学者リチャード・P・ファインマンらはこれを「時間を逆行する粒子」と例えた。ただしバーバラが「頭で考えないで。感じて」と言っているように、これらについては突き詰めずとも、劇中のルールさえつかめば映画を楽しむことができる。
アルゴリズム
何世紀も先の研究者が作り出した、物理的形態を持つ“ある手順”を指す。世界全体の流れを逆行させることができるが、それを実行すると地球上のすべての生物が一瞬で消滅してしまう。開発した研究者は、この事実を知ったのちに自殺。世界滅亡を望まない未来の人々はアルゴリズムを9分割し、過去のあらゆる地点に隠した。その1つが、名もなき男とアンドレイ・セイターが奪い合う“プルトニウム241”。
回転ドア
未来から送られてきた、時間を逆行するための装置。ドアをくぐり抜けた先で時間の進行方向がUターンするため、過去へ進むことができる。時間の逆行には、以下のようなルールがある。
- ドアに入る際は、必ず検証窓の向こうに逆行(もしくは順行)する自分の姿を見る必要がある。自分の姿が見えない状態でドアの中に入ると、出られなくなってしまう。
- 逆行している間は、外気を肺に取り込めないため、酸素ボンベなどを使って呼吸する必要がある。
- 防御スーツを着用せずに過去の自分と直に接触すると、粒子の対消滅が起きてしまう。
- 逆行中は熱が反転するため、火は氷に変化する。名もなき男が、逆行中に高速道路でガソリン爆発に遭い、低体温症になったのはその理由から。
- 逆行中は、摩擦と風圧抵抗も逆になる。
- 逆行すると、傷の進行も逆に進む。名もなき男たちが、撃たれたキャットを回転ドアに乗せて逆行させたのもそのため。ただし傷が深いとその分治癒にも時間を要する。
スタルスク12
劇中に登場する架空の地名。地図にも載っていないシベリアの秘密都市を指す。ソビエト連邦によって建設され、1970年代は人口20万人を誇り、核関連の軍事研究施設が並んでいた。セイターの出身地であり、クライマックスの戦いの舞台でもある。
「TENET」
直訳すると、主義・教義。劇中においては、世界滅亡を阻止するための作戦でありコードネーム。回文構造が示すように、時間の前と後ろからの挟撃作戦を意味する。名もなき男が船上でフェイから教えられた両手を組むジェスチャーも、“挟み撃ち”を指している。
名もなき男
特殊部隊の一員としてオペラハウスでの偽装テロ事件に潜入する。拷問でも口を割らずに、自らの死を選んだことで、TENET作戦遂行のためのエージェントとして“合格”する。謎に包まれた何者かの意志により、未来で起こることも詳しく聞かされないままミッションに身を投じていく。なお劇中で名前を呼ばれることはなく、日本では主に“名もなき男”という通称が用いられているが、英語版クレジットではprotagonist(主人公)と表記されている。
本作では、時間の順行に関するものは赤、逆行に関するものは青で表現されている。回転ドアを使うシーンでも、順行している部屋と逆行している部屋は、床の線や光の色で区別される。名もなき男が今どちらの方向に進んでいるのかは、そういった点からも見分けられる。
ニール
名もなき男の相棒としてともに任務に挑みながら、どこか飄々としているニール。中盤、彼がもっと前からこのTENET作戦に関わっていたことが発覚する。
- ニールはリュックに赤い紐のついた硬貨のお守りを付けている。冒頭の偽装テロとクライマックスの戦いにも、このお守りを付けた人物が登場している。
- ニールはムンバイのホテルで、名もなき男のためにダイエットコークを注文。初対面であるはずにもかかわらず、男が任務中は酒を飲まないと知っていた。
- ニールは鍵開けの名人。オスロ空港の金庫へ侵入する際も、名もなき男をフォローしていた。
アンドレイ・セイター
未来の悪人に雇われ、アルゴリズムを集めて組み立てるという役目を請け負っている。セイターはすでに8個のパーツを集めていて、プルトニウム241が最後の1つ。末期の膵臓がんを患っており、自らの人生とともに世界を終わらせるつもりでいる。
セイターが着けている腕時計は“デッドマンスイッチ”。アルゴリズムが組み立てられたとき、セイターが死ぬとそれが作動し、世界が消滅する仕組み。
キャット
美術品鑑定師として、トマス・アレポという人物によるゴヤの贋作を、偽物と知りながら査定した過去を持つ。その証拠を落札した夫セイターから「逆らったら美術品詐欺で警察に通報する」と脅されている。証拠である絵をセイターから盗み出してもらおうと、名もなき男たちにオスロ空港の金庫の情報を教えた。
かつてベトナムの海上でセイターとやり直そうとしたキャットは、仲違いし一度船を離れる。そして息子とともに戻ってきたとき、船から飛び降りる謎の女性を目撃。そのときのことを、キャットは「彼女に嫉妬した。あんなふうに自由に飛び込めたら」と振り返っていた。
※特集公開時、本文の一部に脱字がありました。お詫びして訂正します。
2020年9月25日更新