それぞれの登場人物が、時間を超えてつながっている
──「ダンケルク」では新人俳優フィン・ホワイトヘッドの大抜擢がありましたが、今回は主人公の“名もなき男”を「ブラック・クランズマン」のジョン・デヴィッド・ワシントンが演じています。彼も日本ではまだ、誰もが知っているほどの知名度はありません。
そうですね。“名もなき男”は特殊部隊員の役なので、まず体作りという面でそのプロ意識は尊敬に値します。この作品はずっと不穏な空気が流れているんですが、主人公が持つ独特の雰囲気とマッチしていました。アップになったとき、彼の白目がずっと血走っているので、それも意味があるのかなって勝手に勘ぐってしまいました(笑)。ビジュアル的な部分でも映画の緊張感をリードしてくれていたと思います。
──ほかに印象的だった登場人物はいますか?
メインになってくる人物は意外と絞られていて、あと3人くらいですよね。(ケネス・ブラナー演じる)悪役のアンドレイ・セイター、(エリザベス・デビッキ演じる)その奥さんであるキャット、あとは主人公の同僚である(ロバート・パティンソン演じる)ニール。ずっと夫に飼い殺しにされていたキャット目線で観ても、爽快なストーリーになっていました。ニールもただの同僚ではなく、あとあと明かされていく秘密があって……。それぞれの人物が時間を超えて主人公とつながっていて、すごく複雑な関係にある。最後にはそれがすべてすっきりするのも見どころです。
ヒントを与えるとしたら“マスク”
──「インセプション」のように、本作は何度も観ることで理解度や満足度が増していくタイプの作品だと思います。岩田さんが2度目の鑑賞をするとしたら、どこに注目しますか?
登場人物の話すワードは、1回目以上に丁寧に拾いたいと思います。あまりセリフが多くはなく、説明っぽい映画ではないところがいいんですが、だからこそちょっとしたキーワードを聞き逃さないようにしたいです。例えば逆再生の流れを生む装置“回転ドア”がどこに何個あるのか……そういう細かいところを見て、時間軸を整理したいですね。
──多くの伏線が張られている本作ですが、初見の人の理解を助けるために、注目すべきポイントやヒントを与えるとしたら?
うーん。意外と、マスクですかね? 時間を逆行している間は、マスクをしていないといけないから。
──ポスタービジュアルにも描かれているマスクですね。どの人物が逆行しているのかを見極めるアイテムであり、マスクの中身が誰なのかもポイントになってきますよね。
最初の1時間は理解できなくてもいい、最後にすっきりしますから
──ノーランファンは、どんな部分を楽しみに公開を待つべきでしょうか?
絶対にノーランファンの皆さんの期待を裏切らない作品になっていると思います。「インセプション」「インターステラー」のように、毎回素晴らしい発想から難解なストーリーを作り上げてきた監督ですが、今回はまさにそれの上位互換。いい意味で一番複雑で、ノーランらしさの詰まった、ノーランにしか撮れない映画です! 映像のすごさはもちろん、ストーリーを回収していくさまは圧巻でした。変な話、最初の1時間は全部を理解することができなくてもいいんです。後半にすっきりしますから。こんなに難しいテーマでも、最後に納得させてしまう説得力を持つエンタテインメント作品なので、そこを楽しみにしていてほしいです。
──過去のノーラン作品に詳しくなくとも、SF好き、スパイ映画好き、ミステリー好きの方々も楽しめる要素満載ですよね。
そうですね。予告だけ観たら「難しそう」と感じてしまう人もいるかもしれませんし、一言で説明できるタイプのシンプルな映画ではありません。でも最初から最後まで、謎解きのドキドキと極限の緊張感が続くので、映画の世界に没頭して楽しんでもらえると思います。あまり先入観を持たず映画館に来ていただければ、ものすごい体験ができること間違いなしです。
──では最後の質問です。ノーラン作品の魅力の1つとして、鑑賞後に映画の感想や考察を語り合う楽しみもあると思います。岩田さんがこの映画をお薦めしたい人、一緒に語りたい相手を挙げるとしたら?
僕のプライベートの友人で、すごく映画好きな同級生がいるんです。彼もノーランの大ファンで、僕以上にノーラン作品を何回も観ていて、1つひとつのシーンを事細かに説明できるくらい詳しいんですよ。僕はこうして彼より先に観る機会をいただけたので、絶対にうらやましがられるだろうな(笑)。彼も確実に映画館に観に行くと思うので、語り合えることが楽しみです。やっぱり同じ温度感で話せる人がいると、より楽しいですよね!
──今、その方より岩田さんが1歩リードしているということですね。
そうです! 「先に観たんだ、いいだろ!」って今すぐ自慢してやりたいです(笑)。
2020年9月17日更新