「ダークナイト」シリーズや「インセプション」「ダンケルク」などで熱烈なファンを持つクリストファー・ノーランの監督最新作「TENET テネット」が、9月18日に公開される。本作は、第3次世界大戦を防ぐミッションを課せられた特殊部隊員“名もなき男”の姿を描くタイムサスペンス大作。“TENET”という謎の暗号や“時間の逆行”というキーワード以外、いまだ多くが謎に包まれている注目作だ。
今回、ノーラン作品の大ファンであり、監督と対面経験もある岩田剛典(EXILE / 三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)が、本作をいち早く鑑賞! 映画ナタリーでは彼のインタビューを通して、映画の魅力を紐解いていく。岩田は本作の感想を「“時間の移動”を描く前代未聞の映画」と語ってくれたほか、逆再生映像の詳細やノーランの才能について熱弁。後半には、複雑な本作を理解するためのヒントも紹介している。
取材・文 / 浅見みなほ 撮影 / 須田卓馬
スタイリング / 桶谷梨乃(W) 衣装協力 / YSTRDY's TMRRW、vendor
ノーラン監督にもらったサイン入り脚本が、今や家宝に
──まずは試写をご覧いただいたばかりということで、率直な今の心境を伺えますか。
本当に……度肝を抜かれたという感じですね。言葉が出なくなりました。一言では説明できない映画体験だったので……でもそれをなんとか説明しないといけないんですけど(笑)。時間という概念について、普通の映画とは違う描き方をしているので、すごく革新的だと思いました。
──ありがとうございます。詳しくはのちほど伺いたいと思います。岩田さんは2017年の「ダンケルク」公開時に、オフィシャルアンバサダーとしてクリストファー・ノーラン監督とイベントに登壇されましたね(参照:岩田剛典がノーランにハグ!プレゼント贈られ大感激「童心に返りました」)。改めて、ノーラン作品のファンになったきっかけから教えてください。
きっかけは2008年の「ダークナイト」ですね。最初に観て以来、取材で好きな映画を聞かれると、ずーっと「ダークナイト」一点張り(笑)。そこでクリストファー・ノーランというすごい監督がいることを知ってから、新作のたびに楽しみにしていました。「インセプション」は何回観たかなあ……。間違いなく映画館で5回以上は観ていると思います。ヒーローものである「ダークナイト」は勧善懲悪という軸の中で人生のリアルな厳しさ、シビアさを感じさせる作品だったと思いますが、「インセプション」はまた違った難しさがいいんですよね。1回観ただけですべて理解できる人は少ないと思いますし、僕も理解するために何回も観に行きました。そして「ダンケルク」公開時には監督に直接お会いする機会をいただいて、サイン入りの脚本をプレゼントしてもらったんです。それをずっと家に飾っていて、家宝にしていますね。
──監督との対面が決まった際のコメントで、岩田さんは「ノーラン監督は“この人の頭の中を見てみたい”と思う人ナンバーワン」とおっしゃっていましたよね。実際にお会いした印象はいかがでした?
なんだかすごく……家族思いな方だなと(笑)。ご家族で来日されていて、プライベートな瞬間も垣間見ることができました。監督としては、偶然に頼らず、すべて緻密に計算しながら映画作りをしているとお話ししていたので、やっぱり本当にすごい方だなと。発想やセンス、才能も大きいと思うんですが、ノーラン監督は1つのアイデアを作品として形にする、その実現力・実行力を含めて素晴らしいと思うんです。多くの映画好きに夢を与えてくれる監督です。
──もしこのタイミングでまたノーラン監督に会えるとしたら、「TENET テネット」の感想をどう伝えますか?(※後日、岩田はノーランとオンライン対談で再会を果たした。参照:岩田剛典がノーランとWeb上で再会、「TENET」は「時空の歪みに入っていく感覚」)
もう「天才です」としか言いようがないです。それくらい素晴らしいです。ありきたりな質問ですが、何年前から構想していたんですか?と聞きたくなります。最近思いついたのではなく、ずっとこれを描きたかったんじゃないかな、というロマンや熱量を感じました。
「TENET テネット」というタイトルにピンと来た
──「TENET テネット」は世界的に見てもまだあまり多くの情報は出ていませんよね。
映画館で少し本編映像が流れているくらいですよね。
──はい。ノーラン監督の過去作上映に合わせて約6分の冒頭映像がスクリーンにかけられているので、熱心なファンはそこから情報を得ています。まず「TENET」の公開が発表されたとき、岩田さんはどんな部分に期待しましたか?
例えば「ダンケルク」だったら戦時中のダンケルクの戦いをテーマにしているとか、「ダークナイト」だったらバットマンとジョーカーが出てくるとか、予告編を観ればなんとなくわかりましたよね。でも「TENET テネット」は「インセプション」と同じで、正直なんの映画だかわからなかったんですよ。パッと見のビジュアルでは、どういう世界観なのか、主人公が何者なのかもわからない。だから「どう来るんだろう?」とワクワクさせられました。
──発表当時「インセプション」のような作品なんじゃないか?という憶測も盛り上がりましたね。
はい。どれが一番近いかと言うとやはり「インセプション」だと思います。あと「しんぶんし」の回文じゃないですけど、「TENET」というタイトルは逆から読んでも同じなんですよね。だからタイトルを見たときに「絶対にギミックを効かせてるな」とピンときたんです。意味のないタイトルなんて絶対に付けない監督ですから。映画を観たら、やはりその回文構造がポイントになっていました。
最高の映画体験ができる、劇場で観るべき作品
──本作では「未来の敵と戦い、第3次世界大戦を防ぐ」というミッションを、突然与えられてしまった主人公の“名もなき男”の奮闘が描かれています。先ほど岩田さんには、「時間の概念について、普通の映画とは違う描き方をしている」という感想をいただきました。
はい。目に見えない時間という概念を、実写映像として扱うって相当難しいと思うんです。「ドラえもん」に、机の引き出しにあるタイムマシンが出てくるじゃないですか。じゅうたんに乗って暗闇を移動していく感じ……あの“移動”を実写で描いているんです。
──なるほど。時間をさかのぼっていく過程自体を映像化していると。
はい。普通のタイムトラベルものって、過去や未来に移動したあとからストーリーが始まりますよね。でも「TENET テネット」は“時間の逆行”という新しい映像を使って、その移動を表現してしまったという、前代未聞の映画なんです。シンプルに逆再生映像を使った映画はこれまでにもありましたが、逆再生と通常の動きが同時進行で、これほど複雑に絡み合っていくような表現って、まだ誰も挑戦したことがなかったと思うんです。そんな表現が全編にまんべんなく盛り込まれているうえ、どう考えてもCGではない映像がたくさんあって、「どうなってるんだ、これ!?」と興奮しました。
──未来では“時間を逆行させる装置”が完成している、という設定が鍵となっていましたね。実際に撮影時は、通常の動きで演技する人と、逆の動きで演技する人が入り混じっていたそうです。
現場もすごく面白そう! 周りが逆再生の動きをしている中、自分だけ普通に歩いてみたいですよね(笑)。「ダンケルク」の絵コンテを見せてもらったときにびっくりしたのは、ノーラン監督の作品って、“なんとなく”撮っているカットがただの1つもないんです。顔の表情だけでも何カットも割っていて、絵コンテの段階で「こう動いてこう止まる」とガチガチに決めている。今回も絶対にそうなんですよね。あと、後半の銃撃戦は、映像として半端なかったです。いい意味で、わけがわからない!(笑)
──主人公の“名もなき男”たちが敵と大規模な銃撃戦を繰り広げるシーンですね。
ビジュアルとしては戦争モノなんですが、激しいアクションの中、通常の時間の流れで動いている部隊と逆再生の流れで動いている部隊が、同じ空間にいるんです。今まで見たことがないような映像でした。特に、あるタイミングで大爆発が起こるんですが……本当にどうやって撮ったんだろうって、今でも考えてしまいます。
──ノーラン監督と言えば、なるべくVFXを使わない撮影にもこだわっています。「インセプション」で無重力を表現するために30mに及ぶ廊下のセットを回転させたり、「ダークナイト ライジング」で実際にスタジアムを爆破させたり。今回もジャンボジェット機が空港に突っ込むシーンは、ボーイング747の実機を購入して爆発させたそうです。
あれ、ヤバいですよね!(笑) どう見ても実際に突っ込んでましたもんね。本当、めちゃくちゃですよ。そういう「そこまでやらなくていいでしょ!」ってこっちが笑っちゃうくらいのことをしてしまうのも、ノーラン監督のすごさだと思います。改めて、映画って自由だなと思いますね。
──世界7カ国でIMAXカメラを用いて撮影している本作は、劇場の大きなスクリーンで観てこそ監督の望んだ画を体感できると思うのですが、先ほどお話いただいた銃撃戦も特に見応えがありそうですよね。
銃撃戦はもちろんですが、さっき話に挙がった、“逆の動き”をしている人と“正の動き”をしている人のアクションはぜひ映画館で観てほしいですね。劇中にそういったシーンがまんべんなく出てくるので。単純に映像として笑ってしまうくらいすごいのですが、なぜ戦っているのか?という謎解きの面でも、細かく注目すべき情報がたくさん詰め込まれていて見応えがあります。冒頭、オペラハウスでのテロのシーンからいきなり引き込まれますし、音と映像による最高の映画体験ができるという意味で、とにかく劇場で観るべき作品だと思います。
次のページ »
それぞれの登場人物が、時間を超えてつながっている
2020年9月17日更新