台湾映画・ドラマがさらなる躍進のとき! 「2022 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」|アジアのコンテンツビジネスの祭典で見た“台湾の本気” 「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」ジャン・ルイジー&「流星花園~花より男子~」アンジー・チャイのインタビューから探る台湾エンタメの魅力

アジアのコンテンツビジネスの祭典「2022 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ」が11月3日から13日まで台湾・台北にて開催された。このイベントは、台湾・文化部(※日本の文科省に類似)によって創設された台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)が主催したもの。台湾文化コンテンツの産業化、国際化を促進するTAICCAでは、台湾作品、クリエイターを積極的に支援している。

映画ナタリーでは台湾現地にてTCCFを取材。またBLドラマ「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」の監督ジャン・ルイジー、「流星花園~花より男子~」のプロデューサー、アンジー・チャイという台湾のトップクリエイター2人にインタビューを実施。台湾エンタメの今を探った。

取材・文 / 金子恭未子

世界市場に本気で打って出る!
台湾映画・ドラマの今が熱い

TCCF クリエイティブコンテンツフェスタとは?

台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)が主催する世界のコンテンツ産業のための展覧会と見本市。主に「PITCHING(提案大会)」「MARKET(コンテンツ取引市場)」「INNOVATIONS(クリエイティブ・エキシビション)」「FORUM(国際トレンドフォーラム)」という4つの異なるプログラムで構成されている。

PITCHING、MARKET、INNOVATIONS、FORUMって何をやっているの?

参加クリエイターが、アニメーション、ドラマ、長編映画に分かれ、金馬創投会議(台北金馬映画プロジェクトプロモーション)と共同で企画を提案。資金調達、制作協力の可能性を探ることができる。日本からも参加が可能!

台湾、日本、韓国、香港などから130社を超える企業が参加し、映画やドラマ、出版物、マンガ、アニメ、舞台芸術、ゲームなどを展示。参加者はコラボレーションなどの商談も可能となっている。

物語、資本、テクノロジーをキーワードにしてパネルディスカッションを開催。メディアコンテンツの市場動向についてトークを展開する。

音楽、NFT(Non-Fungible Token)、XR(クロスリアリティ)、インタラクティブ・プロジェクションなど多種多様な体験を組み合わせ、文化コンテンツ産業とテクノロジーの応用、発展形態として展示。来場者に未来コンテンツ産業の発展とその潜在力を感じてもらうための場となっている。

TCCFを現地取材!
そこから見えてきた台湾コンテンツの今

クリエイターを支援する“台湾の本気”がすごい

世界のコンテンツ市場で存在感を示すためには、政府がどれぐらい本気でクリエイターや作品を支援しようとしているかが1つの鍵になるのではないだろうか? この点で今の台湾はかなり本気だ。2019年台湾・文化部(※日本の文科省に類似)が台湾文化コンテンツの産業化、国際化を促進するため台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)を創設。TAICCAは映画やドラマの製作費の30%を支援するといった国際的共同制作プランを用意するなどさまざまなチャンスをクリエイターに提供しているほか、台湾IP(知的財産)を世界に届けるためコンテンツビジネスの祭典「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest )」を主催している。クリエイターの育成、魅力的なコンテンツを生み出すための支援、それを世界に届ける後押しまで一手に担っているのだ。

「2022 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ」開幕式の様子。

「台湾政府ができる支援は全部したい!」──台湾の文化部部長・李永得(リ・ヨンデ)がTCCFの開幕式で力強く発した言葉だ。チャンスが多ければ多いほど、作り手が魅力的なコンテンツを生み出し、世界にはばたくきっかけをつかみやすい。

華語の話者数は世界におよそ11億人。つまり、そもそもマーケットが巨大で、華語話者の作り手にはチャンスが多い。台湾コンテンツ、クリエイターが世界市場で今まで以上に躍進する予感だ。

メディアミックスを強力に推進

マンガ「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」書影 ©WeTV、結果娛樂/Gene/尖端出版

今、台湾では映画、ドラマ、マンガ、小説、ゲームなどの台湾産コンテンツによるメディアミックスが盛んに行われており、TAICCAがそれを強力に後押ししている。

日本でも人気を得ているBLドラマ「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」は京都国際マンガ・アニメ大賞2020で大賞、イラストコンテスト優秀賞のダブル受賞を果たしたGeneによってマンガに。また阮光民(ルアン・グアンミン)によるマンガ「用九商店」は「いつでも君を待っている(邦題)」としてドラマ化され、デレック・チャン、クリスティーナ・モク、ロイ・チウらが出演した。

ドラマにハマったら原作も読んでみようと思う人は少なくない。メディアミックス推進によって、台湾エンタメへの入り口は以前より確実に増加している。

台湾のマンガ×日本の映像作品に高まる期待

台湾はこれまで、神尾葉子によるマンガ「花より男子」や多田かおるによるマンガ「イタズラなKiss」をドラマ化し、世界中でファンを獲得してきた。地理的にも日本と近い台湾は、欧米などと比べて文化的にも近く、それがメディアミックスの成功につながっている。実際に、ドラマ「流星花園~花より男子~」が成功した理由の1つとして、プロデューサーのアンジー・チャイは「原作マンガの世界観を忠実に再現しようとした」ことを挙げている。文化的に遠ければ“忠実に再現しよう”という発想も生まれにくい。

TCCFを現地取材して強く感じたのは、台湾が台湾マンガ家の育成、そして台湾産マンガを世界に発信することに力を入れているということだ。日本でも「台湾漫画喫茶」やComic Walker「台湾コミックはじめました」との特別連動投稿企画「#続きが気になる台湾漫画大賞」を開催するなど、台湾マンガの魅力を届けるためTAICCAが活動している。台湾マンガの注目度が今後日本でさらに高まっていくだろう。(コミックナタリーで後日、台湾のマンガにフォーカスした特集が掲載されるので、詳しくはそちらをチェックしてほしい!)

となると、台湾マンガと日本の映像クリエイターとの交流も期待したい。映像化に向けて、魅力的な原作を探している日本の制作者が、TCCFを訪れるといったことが活発になる可能性も。

「流星花園」がアジア中でファンを獲得したように、台湾マンガ原作による日本の映像作品が世界で熱狂を生む日もそう遠くない未来にやってくるかもしれない。

ジャンル問わず台湾発の作品が飛躍の予感

TCCFでは台湾の作品を国内外のバイヤーに紹介するためピッチングを開催。2022年は42件の台湾IP作品が提案に参加した。そこで紹介されていたのは、ジャンル問わず、作り手が趣向を凝らした魅力的な企画だ。TAICCAの職員が「台湾では比較的寛容な社会の空気の中、クリエイターが物語の題材を自由に選べる」と語っていたが、その強みをピッチングで強く実感した。

「返校 言葉が消えた日」 ©2022, 1 Production

日本ではこれまでエドワード・ヤンの監督作「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」をはじめ、「藍色夏恋」「あの頃、君を追いかけた」といった青春映画が愛されてきたほか、最近では「返校 言葉が消えた日」「呪詛」といったホラー映画、「HIStory」シリーズといったBLドラマも支持されている。

もちろん今後も青春映画、ホラー、BLといったジャンルから多くの人を魅了する作品が生まれてくるだろう。ただTAICCAの支援を背に、今後は特定のジャンルにとどまらず、“台湾発の作品”が世界市場で存在感を増していくはずだ。

またTCCFは世界中のクリエイターにピッチングへの参加を呼びかけている。当然、日本の作品、映像作家が企画を提案し、そこで国際共同制作のパートナーや、投資者を募ることも可能だ。逆に投資したい作品を見つけるため日本からTCCFに参加することもできる。チャンスをつかみたいクリエイターや映像関係者は来年のTCCFに参加してみてはどうだろうか?

「2022 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ」ピッチングの様子。

ピッチング参加作から、映像化が期待される3本を紹介!

「台北少年・平壤少女(JUDOKA)」ビジュアル
「台北少年・平壤少女(JUDOKA)」

TAICCAはヨーロッパの国際ドラマの祭典・Series Maniaとパートナーシップを結び、今回の提案大会に招請。台湾代表としてSeries Maniaのピッチングに参加することが決まった作品が、実話から着想を得た「台北少年・平壤少女(JUDOKA)」だ。1990年代を舞台に恋に落ちた台湾と北朝鮮の柔道選手が互いに再び会うべく、国際大会への出場をかけて勝ち続けようと奮闘する姿が全8話で描かれる。

ピッチングにて、「捨身技」の精神を作品に込めたいと製作者たちが語る姿が印象的だった。

「如果思念可以燃燒」ビジュアル
「如果思念可以燃燒」

台湾には、故人に贈りたいものを紙で作り燃やすという文化がある。花や家だけでなくゲーム機やスマートフォンなど“燃やす紙”は多様化している。

「如果思念可以燃燒」のヒロインは、建築士になる夢に破れ、死者のために紙の家を作ることになった程以安(チァン・イーアン)。全6話を想定しているドラマでは毎話、彼女のもとに“スペシャルなオーダー”が舞い込み、最後になぜそのようなプレゼントを贈ろうとしたのかが明かされる。

亡くなった人への思いをどのように解消するのか? 製作者たちは、そんな物語をシェアしたいのだという。

「熱浪南風」ビジュアル
「熱浪南風」

ピッチングには日本のクリエイターが参加する作品も登場。それが「ミラクルシティコザ」で知られる平一紘の監督予定作「熱浪南風」だ。物語の舞台は、1970年代、アメリカから日本に返還される前の沖縄だ。ドラマでは激動の時代に理想を追い求めた3人の女性の姿が描かれる。

アメリカ文化に強い影響を受けていた当時の沖縄の雰囲気を再現しつつ、社会的事件も盛り込みたいと製作者たちは意気込んでいる。シーズン1は全6話を予定しており、年代を変えてシーズン2、3の製作も目指している。

台湾のトップクリエイターにインタビュー

“台湾コンテンツの今”を知るため、トップクリエイター2人にインタビューを実施。彼らが語る台湾作品、俳優ならではの魅力とは?

「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」監督
ジャン・ルイジーが語る台湾エンタメの強み

ジャン・ルイジー

虫歯になるぐらいの甘さでしょうか(笑)

──ジャン・ルイジー(姜瑞智)監督の手がけた「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」(発行:結果娛樂/製作:有意思國際傳媒)は日本でもたくさんのファンを獲得しています。

いろんな反響をいただきました。ドラマというのはフィクションではありますが、描かれている感情は本物です。それが視聴者の方に伝わった。だから、海を越えて受け入れてくれたのではないかと思います。

──監督はほかのジャンルの作品も数多く撮っていますが、BL作品を撮ることになったのはどのようなきっかけがあったのですか?

「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」台湾版ビジュアル(画像提供:有意思國際傳媒)

「WBL」を作る前に、プロデューサーの潘心慧(パン・シンフゥイ)さんと一緒に「我的老闆是隻貓(原題)」というドラマを制作しました。2人の男性がキスしそうになる場面があったんですが、僕の演出を見て潘心慧さんが、「BL作品に向いているかもしれない! 『We Best Love 永遠の1位/2位の反撃』という作品の脚本を読んでみない?」と声をかけてくれたんです。

──シナリオを初めて読んだときはどんな印象を受けましたか?

キャンディに例えるなら、虫歯になるぐらいの甘さでしょうか(笑)。脚本家のリン・ペイユー(林珮瑜)さんは、甘い、甘いストーリーラインを作るのがとてもうまい人です。また小さな描写を積み重ねて感動的な物語にすることができる。素晴らしいと思います。

──「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」を作る際に、大切にされたことはありますか?

BLはほかのジャンルに比べて、ロマンティックな要素、深く感情を揺さぶる要素が必要だと感じました。主人公たちが乗り越えるべき困難も描かれます。撮影する際には、物語のアウトラインをしっかり考えて設計し、主演俳優2人のテンポを合わせることがとても大切だと思います。

──ジョウ・シューイーを演じたYU/楊宇騰さん、ガオ・シードーを演じたリン・ズーホン(林子閎)さんほか、魅力的なキャストが出演しているというのも「WBL」シリーズの大きな魅力です。

左からYU演じるジョウ・シューイー、リン・ズーホン演じるガオ・シードー。(画像提供:有意思國際傳媒)

YUは「WBL」に出演する前に演技経験がまったくなかったんです。でもプロデューサーの蔡妃喬(ツァイ・フェイチィアオ)さんと相談して、YUにシューイーを演じてもらいたいと決めました。オーディションで彼に会ったとき、猫みたいな感じがして、ミステリアスなオーラがあった。シューイーに向いているなと思いました。リン・ズーホンは実は2回オーディションを受けているんです。1度目のオーディションのあと、「前回のオーディションではうまくできなかった。もっとできるのでチャンスをください!」と自ら連絡してきたんです。彼ならシードーを演じられると思いました。

──キャスティングする際、大切にすることは?

顔がきれいなことですね(笑)。そして重要なのは相手を好きだという気持ち、シューイーがシードーを、シードーがシューイーを好きだという感情をしっかり理解できること。そうでなければ演じることはできないので。

──「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」では、シードーとシューイーが結婚を前提に交際しています。まだ同性婚が認められていない日本では、描けない描写だと感じました。

台湾BLの1つの魅力は完璧なエンディングを作ることができること。台湾では、作品を作る際にさまざまな題材にチャレンジすることができます。TCCFのシンポジウムで「タイBLの中には、露出が多いものがありますが、台湾では可能ですか?」と聞かれました。合理的な脚本といい内容のストーリーがあれば、台湾では可能です。クリエイターがいろんなことを作品の中で試すことができるのが、台湾エンタメの強みだと思います。

優秀な人材や面白い作品が集められている

リン・ズーホン演じるガオ・シードー(左奥)とYU演じるジョウ・シューイー(右奥)。(画像提供:有意思國際傳媒)

──「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」はGENEさんによってマンガ化もされています。ドラマを別の表現であるマンガにすることについてはどう思いますか?

ワンダフォー!(笑) メディアミックスはマストなことだと思いますね。映画やドラマは目で観て感じるもの。小説もマンガもそうです。1つの作品をほかの“商品の宇宙”に拡散させていくことはすごく重要なことだと思います。YUのエージェントからマンガを送ってもらったんですが、絵がすごくきれいでした!

──ドラマが小説になったりマンガになったりすることによって、その物語に出会うきっかけが増えますよね。

日本でも「ジョジョの奇妙な冒険」など、マンガを実際の俳優が演じて実写化されていますよね。「永遠の1位/2位の反撃」はその逆でドラマからマンガになった。その物語が好きな場合、ドラマもマンガも小説もすべて手に取ってもらえるかもしれないです。

──TCCFは台湾のコンテンツ産業の実力と優秀なクリエイターを世界に発信する場です。クリエイター視点で、TCCFにどのような魅力を感じていますか?

優秀な人材や面白い作品が集められている。いろいろな交流ができる場ですよね。よく作ってくれたなと思っています。台湾の作品を世界に発信する、また世界の作品を台湾に持ってくる、相互交流ができる場所です。自分の作品を通じて、世界の人と交流できる。国境はないと感じます。

──今後さらに“台湾発”の作品を世界に届けるために、必要なことはなんだと思いますか?

2つあると思います。まずは台湾内のサポートが大切です。支援がなければ、作品を海外に届けるのは難しいと思います。また予算も必要です。予算があれば大きな制作チームを作ることができますし、いい役者、いいスタッフが参加してくれます。資金がないとみんなが困ります。

──「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」が人気であることはもちろんですが、監督が手がけた「我願意」の日本上陸を待ち望んでいる人もいます。最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

日本の皆さん、ご縁をありがとうございます。日本と台湾は文化的にすごく近い部分があると思っています。だから台湾の作品のよさを日本の皆さんに理解していただけるのではないかと感じているんです。私たちがこれから作っていく物語は皆さんの近くにあるものだと思います。今後もご意見いただけるとうれしいです!

ジャン・ルイジー(姜瑞智 / レイ・ジャン)
1980年6月11日生まれ。監督作にドラマ「We Best Love 永遠の1位/2位の反撃」「我的老闆是隻貓」のほか、映画「角頭 - 彷徨人」などがある。

2022年12月16日更新