スコットの“体が強くて、かっこいい人”という空気が自然に伝わってきた(満島)
──森川さんは、スコットの役作りで大事にしたことは何ですか?
森川 ある種のバタ臭さ、日本人が思い描く“ザ・外国のファミリー”っぽい匂いは意識したと思います。あとは、そこはかとない長男感ね(笑)。僕自身も長男なので、なんとなく父親との関係を思い出したりして。トレーシー兄弟は全員、父である総司令官から指示を受けると「はい、パパ!」と応答するでしょう。中でもスコットの「はい、パパ」はこの温度感かな、とか。
満島 それ、私もすごく感じました! 4人の弟に比べて、スコットの「はい、パパ」は微妙に押し出しが強くて、頼もしい(笑)。
森川 長男ならではの責任感とプレッシャーですね。あとは作品の成立過程も大きかった気がします。今回の「サンダーバード55/GOGO」って、クラウドファンディングで制作費を募って撮影されているでしょう。それを考えながら演じていると、ファンの期待を背負ってる感じがして。自分がかつて「サンダーバード」に抱いた憧れとワクワク感を、スコットの声を通じて再現したいと、心から思いました。その気負いも自然と声に出たんじゃないかなと思います。
──今回、お二人の収録は別々だったんですよね。
満島 はい。現場でご一緒できたのは、パーカー役の井上和彦さんだけでした。コロナウイルスの影響もあって、みんなそろっての収録は難しいというお話だったので。私は、皆さんの声が入った状態で、最後に録らせていただいたんです。なので全員の声を聞きながらお芝居するぜいたくを味わえたのですが……中でもスコットは、声がめっちゃイケメンでした!
森川 おお、うれしい。
満島 “体が強くて、かっこいい人”という空気が自然に伝わるんですよね。声のトーンだけでそれが表現できるなんて、プロの声ってやっぱりすごいなと。森川さんは洋画とアニメで膨大な作品に出てこられたと思いますが、役ごとの発声とか声質は、いつもどうやって選ぶんですか?
森川 そこは自ずと決まることが多いかな。声優によっていろんなアプローチがあるので、例えば「このキャラクターはこの声でいこう」と音から入る人もいます。僕の場合は、まず役柄の気持ちに寄り添ってみる。今回のスコットもそうですが、脚本を読んで自然と出てきた声を大事にしています。あと、駆け出し時代、それこそ伊達さんに言ってもらった一言があって……。
満島 お! どういう言葉だったんですか?
森川 僕は若い頃、吹替仕事で伊達さんに本当にお世話になったんですね。厳しく育てていただいたし、少し売れて忙しくなった時期にも「今はやりたい仕事をめいっぱいやったほうがいい」と励ましてもらった。でも一度、「森川さん、あなたは主役の声です。作品の軸となる声をしている。それは自覚して仕事をしてください」と言われたことがあって。
満島 ああ、それ、すごくわかります!
森川 実生活の自分は、主役とか正義の味方からはほど遠いポンコツなんですけど(笑)。その言葉は、仕事を続けるうえで大きな支えになってくれました。
満島 そういえば最近、アニメの「BANANA FISH」を見たんです。たしかに登場するキャラクターの中で、森川さんが演じられたブランカが一番“結婚したい人の声”だったかもしれない(笑)。
森川 わははは、まじですか。
満島 誠実さと優しさと、悲しみもちょっと混ざっている感じがして。人生をともにするなら、この声の人がいいなって。
森川 この発言の部分、プリントアウトして壁に飾ります!
満島 (笑)。改めて、今回のお仕事では本当に声の俳優さんのすごさを感じました。現場でご一緒した井上さんも、文字通り一瞬で別世界に行っちゃう。声だけ“ヒュン!”と作品内にワープする感じなんです。あとは、声だけのお芝居だからこそ体中が楽器みたいに鳴っている印象も強くて……。収録中はヘッドホンを付けていましたが、耳の中がずっと気持ちよかった。洗練された音楽を聴いている感覚でした。
森川 セリフのテンポ感が速すぎないので、声のアンサンブルも際立ちますよね。劇中に流れる音楽もいちいちかっこいいし。
満島 ほんと、いいクラシック音楽みたいに体がリラックスできる作品だと思います。ペネロープもその一部になっていてくれるとうれしいんですけど。
森川 大丈夫! そこは僕が保証します。
レディ・ペネロープの自由な生き方に勇気をもらえます(森川)
──では最後にそれぞれ、「サンダーバード55/GOGO」の個人的なお薦めポイントを教えていただけますか。
森川 僕はやっぱり、ギミックの楽しさですね。特に子供時代に「サンダーバード」に夢中になった世代にとって、当時の手法とムードをそのまま受け継いだ新作が2022年に観られるなんて、こんな贈り物はないと思う。あのテーマ曲が鳴り響くと問答無用で気分も上がりますし。独特の高揚感をぜひ劇場なり配信で楽しんでいただきたい。
満島 本当にそうですね。と同時にこの作品には、今の子供にも響く部分がきっとあると私は思っていて。特にもの作りに興味のある子にとっては、新しい世界を知る最高のきっかけになるんじゃないかなって。
森川 うん、うん。
満島 私は小学生の頃、「モスラ2 海底の大決戦」という特撮作品で初めて映画に出させていただいて。そこでは大人たちが、ミニチュアの街や怪獣で真剣に遊んでいるように見えたんです。自分も将来、こうやって本気で遊べる仕事に就きたいと思って、それが今につながっています。だから小さい子供たちにも、ぜひパパやママと一緒に観てほしい。もしかしたら最初10分くらいは違和感があるかもしれないけれど(笑)、それを越えたら絶対に引き込まれると思うので。
森川 レディ・ペネロープの自由な生き方にも勇気をもらえますしね。
満島 そうですね。もっと自分らしく生きていいんだよって(笑)。そんなふうに感じてもらえたら、すごくうれしいですね。
プロフィール
満島ひかり(ミツシマヒカリ)
1985年11月30日、鹿児島県生まれ、沖縄県育ち。1997年にダンスボーカルグループ・Folderでデビューし、「モスラ2 海底の大決戦」で映画に初出演。その後は演技の道へ進み、映画「愛のむきだし」「川の底からこんにちは」「悪人」「駆込み女と駆出し男」「愚行録」「海辺の生と死」、ドラマ「ごめんね青春!」「トットてれび」「カルテット」などで活躍。音楽や文章、ナレーションなどでも活動の場を広げている。
満島ひかり (@hikarimitsushima) | Instagram
ヘアメイク / 星野加奈子衣装提供 / Mame Kurogouchi
森川智之(モリカワトシユキ)
1月26日生まれ、神奈川県出身。声優として数多くの作品に参加しており、洋画作品ではトム・クルーズ、ユアン・マクレガー、キアヌ・リーヴス、マーティン・フリーマンらの吹替を務める。主なアニメ出演作は「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない」(吉良吉影役)、「クレヨンしんちゃん」(野原ひろし役 / 2016年8月~)、「ブラッククローバー」(ユリウス・ノヴァクロノ役)、「鬼滅の刃」(産屋敷耀哉役)など。
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