当時の空気まで再現した制作陣に脱帽!満島ひかり×森川智之が「日本語劇場版 サンダーバード55/GOGO」を語る

特撮テレビシリーズ「サンダーバード」の完全新作である「日本語劇場版 サンダーバード55/GOGO」が1月7日に全国公開され、1月8日にはオンライン上映がスタートする。

近未来を舞台にした「サンダーバード」は、地球上の各地で発生する災害や事故から人命を救う“国際救助隊”の奮闘を描く特撮人形劇。このたび上映される「日本語劇場版 サンダーバード55/GOGO」は、本国の熱狂的なサンダーバードファンのクラウドファンディングによって制作された3話の完全新作エピソードを、樋口真嗣が日本公開用に1本の映画として構成した特別版だ。

映画ナタリーでは、日本語劇場版キャストとして参加したペネロープ役の満島ひかり、スコット・トレーシー役の森川智之による対談を実施。満島は黒柳徹子から役を引き継いだ心境、森川はファンの期待を背負って挑んだスコットの役作りを語る。そして2人の意見が一致した、「小細工のない一筆書き」の演技の気持ちよさとは。

取材・文 / 大谷隆之撮影 / 嶌村吉祥丸

多くの人に愛されているキャラクターを引き継ぐのって、やっぱり緊張します(満島)

──1965年にイギリスで放送がスタートした伝説の特撮番組「サンダーバード」。本作「サンダーバード55/GOGO」はその55周年を記念するプロジェクトで、あえて当時の撮影手法を完全再現して作られた新作です。今回、日本語劇場版の出演オファーを受けてどう思われましたか?

森川智之 めちゃめちゃうれしかったですね。というのも僕、実は「サンダーバード」と同い歳なんですよ。

満島ひかり えっ、そうなんですか!?

左から満島ひかり、森川智之。

左から満島ひかり、森川智之。

森川 正確には、日本語吹替版と同学年(笑)。NHKで放送が始まったのが1966年4月で、僕は1967年1月生まれなので。

満島 へええ! 同い歳には全然見えないです!

森川 子供の頃から大好きで、よく「サンダーバード2号」のおもちゃで遊んでいました。なので、まさに同時代を生きてきた感覚が強いんですね。そんな憧れの作品の、しかも長男スコット役でしょう。もう心の中でガッツポーズ(笑)。

「雪男の恐怖」より、サンダーバード2号。

「雪男の恐怖」より、サンダーバード2号。

満島 私は、最初は半信半疑だったんです。正直「どうして私なの? 本気でおっしゃってるのかな?」って。でも次の瞬間、「そうか。ペネロープは昔、黒柳徹子さんが演じられた役だ」と気が付きました。何年か前に「トットてれび」というドラマで徹子さんの役を演じさせていただいたので、その印象で声を掛けていただけたのかなと。

森川 ああ、なるほど。

満島 でも、洋画作品の吹替は未経験だったので、とりあえず吹替演出の伊達(康将)さんに会いに行ったんです。「私が入ることで作品を邪魔しないでしょうか」と確かめたくて。

森川 満島さんでもそういうプレッシャー、感じるんですね。

満島 多くの人に愛されているキャラクターを引き継ぐのって、やっぱり緊張するじゃないですか。比較するのは失礼ですけど、森川さんも今、アニメ「クレヨンしんちゃん」の2代目お父さん(野原ひろし)を演じていますよね。昔からのファンの方々を落胆させず、モノマネにもならず、自分のまま役を楽しむにはどうすればいいのかなって。

森川 うん。そこは一番悩みますよね。気持ち的にはまったく同じ。

──伊達康将さんは、長年にわたり日本の洋画吹替界を支えてきた重鎮です。どんな答えが返ってきたんですか?

満島 (早口の、少し突き放したような口調をマネながら)「満島さんね、そういう難しいことは考えなくて大丈夫。まあ、あなたのままでいいんじゃないですか」って。

満島ひかり

満島ひかり

森川 おお、似てる! 伊達さんそっくり!

満島 あまりにもはっきりそう言ってくださったので。この方に付いて行けば、どうにかなるんじゃないかと(笑)。もともと「サンダーバード」のマニアックさ、シュールさは大好きでしたし。私以外は皆さん大ベテランの声の俳優さんばかりなので、思いきってやってみようと。

──森川さんは少年時代、「サンダーバード」のどこに夢中だったんですか?

森川 やっぱりメカでしょうね。「サンダーバード」って、ストーリーはわりとシンプルというか、言っちゃえば同じことの繰り返しだったりするでしょう。

満島 そうそう。細かいことはあまり気にしない(笑)。最近のドラマに比べると、伏線とか着地点に縛られてなくて。のんびりしてますよね。

森川 一方で、メカとかミニチュアの作り込みには一切妥協がない。そういう熱量って、子供には伝わるんですよ。今ならCGで簡単に作れてしまうけど、当時の僕らには「サンダーバード」こそ最高のスペクタクル映像だったので。自分もあんなマシンに乗って活躍したいなって、いつも思っていました。

「雪男の恐怖」より。

「雪男の恐怖」より。

レディ・ペネロープと執事パーカーが乗るFAB1の模型。

レディ・ペネロープと執事パーカーが乗るFAB1の模型。

──1980年代生まれの満島さんが「サンダーバード」と出会ったのは?

満島 最初はとんねるずさんと清水アキラさんがモノマネをしていたパロディです。「こんな面白い世界観があるんだ」と記憶に残って。その後「トットてれび」で徹子さんを演じる際、資料として3話分ほどの映像を送っていただきました。で、観始めたら一気に引き込まれてしまった(笑)。ボタンを押すと秘密基地の壁が回転して、滑り台で操縦席まで行けちゃうとか。作り込みがすごくて、もうやたらめったらかっこよかった!

森川 そう、そのディテールが醍醐味なんだよね。

満島 国際救助隊の制服も、ペネロープが着ているお洋服もすごくお洒落だし。黒柳さんご本人も、ペネロープの着こなしには影響を受けたとおっしゃってました。

撮影技法だけじゃなく、放送当時の空気まで再現した制作陣に感心(森川)

──今回の「日本語劇場版 サンダーバード55/GOGO」は、放送当時にイギリスで制作された3本の音声ドラマの脚本と音声をもとに新たに制作されました。初めて英語版をご覧になった印象はいかがでした?

満島 「ペネロープ、あなたはなんてツッコミどころの多い人なの!」って。もうそれに尽きますね。

森川 わははは。

満島 だって、ありえないほどマイペースじゃないですか。イギリスの貴族階級出身で、国際救助隊の活動を支える凄腕エージェントという設定ですが、実は彼女が動けば動くほどリスクが増しているし。しかも森川さん演じるスコットが決死の思いで救助に来ても、ろくに「ありがとう」も言わなかったり(笑)。

森川 すぐ執事のパーカーと別の話を始めちゃったりね。自分の危機も「今、窮地に陥って困ってますの」と他人事みたいで、浮世離れ感がすごい。

満島 本作の第1話(「サンダーバード登場」)で、総司令官のジェフ・トレーシーが国際救助隊の秘密基地を隅々まで案内してくれるのですが、目の前で壮大な仕掛けが展開されているのに、ペネロープは「あら、まあ」とか「すごいわ」とか言うだけでけっこう簡単にスルーしちゃう(笑)。あれはもともと、オリジナルの英語版がそうなっているので……。

「サンダーバード登場」より。

「サンダーバード登場」より。

森川 決して、満島さんが気を抜いて日本語劇場版を演じていたわけじゃないですね(笑)。

満島 ただ、そういう言いっぱなしの部分が逆に人間っぽいなとも思いました。たぶん彼女は、自分の感情にまっすぐな人なんですよ。他人のリアクションでいちいち気に病んだりはしない。その一方で育ちがいいから、いらないところで馬鹿丁寧な言葉使いになっちゃうかわいらしさもあって。初めての洋画吹替で不安もいっぱいだったけど、ペネロープの役でよかった。

森川 今回のペネロープの演技は、本当に見事でしたよ。お世辞じゃなくて、プロの声優と比べてもまったく遜色ないレベルだった。

満島 いやいやいやいや!

森川 彼女みたいな役って声優的にはすごく難しいんです。物語の主軸となるキャラクターだけど、安易な感情表現を入れる余地がない。でも単なる棒読み口調だと、彼女のキュートさが出ないでしょう。

満島 そうですね。はい。

森川 要は1ミリ、2ミリのさじ加減で作品全体の色調ががらっと変わってしまう。でも満島さんは全編にわたり絶妙な温度感をキープされていて。これはすごいことだと思います。井上和彦さん演じる執事パーカーとの会話なんて、どこをとっても最高におかしかった。

満島 ありがとうございます……うれしすぎます。

──満島さんは、今回レディ・ペネロープを演じるにあたって特に気を付けたことはありますか?

満島 なるべく仕上がりをイメージしないことは意識していたかもしれません。実は最近、自分の出演作をあまり観ないようにしていて。なんだろう……自分の見せ方をつい細かくコントロールしちゃう自分が、つまらなく思えてしまうんですよね。もっと投げっぱなしの気持ちよさを出したいなって。

森川 小細工のない一筆書き、みたいな?

満島 まさにそうです! 演じるうえでそういう課題を抱えていた時期に、たまたま今回のお話をいただけたので、個人的にはすごくありがたい巡り合わせだなと。考えてみれば、黒柳徹子さんが演じられたペネロープもとっても自由な感じがするんですよ。ご本人は「イギリス英語っぽい響きを意識した」とよくおっしゃっていて、実際におしゃれで上品な言葉遣いが魅力的なんですけど、声の端々にそれだけじゃない思いきりのよさがある。

森川 まさに、言いっぱなしの気持ちよさね。

満島 たぶんあの時代の俳優さんって、ご自分の芝居をその場で見返したり、セリフ回しをチェックすることが少なかったと思うんですね。だから現代の人に比べて感情がオープンに伝わるのかもしれない。そういう窮屈じゃない感じを、私もこの作品では出したいと思って。そこが一番難しかったかもしれない。

森川 確かに今回の「サンダーバード55/GOGO」は、作品のテンポ自体もゆったりしてますよね。最近のエンタメはセリフのスピード感ももっと速いし、情報を詰め込んだ感じがあるけど、この作品は会話の“間”とかもけっこう長い。「1960年代当時の未放映フィルムが発掘されました」と言われても、全然違和感がないですもんね。マリオネットを使った撮影技法だけじゃなく、放送当時の空気まで再現した制作陣には本当に感心します。