共感の詰まったハートフルな作品?相席スタート山添&オズワルドが語る「死刑にいたる病」 (2/2)

マグロだったらよかったのに(畠中)

──もう1人の主人公、岡田健史さん演じる雅也の印象もお聞きしたいです。自分の理想とは違う場所にいて、周囲の人間を見下しているような側面もある若者でした。

山添 僕は雅也に共感できない学生でしたね。就活の情報交換という名目の、ただの飲み会のシーンがあったじゃないですか。雅也はあそこで「こいつらと合わん」と、その場を離れる。俺は出られないやつやったんで、合わんわと思ってもそこの空気を壊すのが怖かった。だから雅也は勇気がある主人公だなって思いましたね。どんな学生やった?

「死刑にいたる病」より、岡田健史演じる雅也。

「死刑にいたる病」より、岡田健史演じる雅也。

伊藤 僕は大学が合わんわって思ったんで毎日地元に帰って地元の友達と遊んでましたね。大学の友達とあんましゃべったことないです。でも、普通の大学生である雅也が特別な存在に惹かれていく感じはちょっとわからんでもない、ですね。

──雅也は榛村から1件の殺人の冤罪証明を依頼されます。「連続殺人鬼に選ばれた自分」という自意識は見え隠れしていました。

伊藤 自分も当時は1人でいる時間が多かったので、自分は何者なのかっていう、答えがなくて考える必要のないことをけっこう考えてました。雅也もなんでもいいから「自分は特別な存在」って言えるものがあったらいいのにと思ってるから、榛村にのめり込んでいくのかもしれないですね。

山添 そこはみんなどこか心当たりあるのかもしれない。

畠中 雅也も、ちょっと榛村に憧れてる部分があったんじゃない? うちはお父さんが漁師なんですけど、街には昆布漁師とマグロ漁師がいて。うちは昆布漁師だったので、マグロだったらよかったのにって思ってました。

伊藤 それは全然違う(笑)。

「死刑にいたる病」

「死刑にいたる病」

畠中 自分が誰かに洗脳されたことがないので、主人公が取り込まれそうになる姿に「そんなふうになるのかな?」って思ったんですけど。よくよく考えたらNSCもまさに洗脳に近い場所だったなと気付いたんですよ。

山添 これは環境が洗脳とも取れるっていう話なんですけどね。

畠中 芸人0年目、この学校を卒業したら芸人になれるっていう世界で、いろんなところから「自分は面白い」と思うやつが集まってくる。その学校の中でやっぱり活躍しないと「俺って芸人として売れないんだ」って思っちゃうんですよ。

山添 全然スタート地点にも立ってないのにね。意外と養成所を卒業したら、そこまで直結してへんって気付くんですよ。こっからがほんまの勝負って。でもあのときはほかのやつが認められて、自分は何もできてないなら辞めたほうがいいかもって思ってしまいやすい状況で。

伊藤 この間、NSCの特別講義に行ってきたんですよ。生徒に掛ける言葉ありますかって言われたんでマイク握りしめて“未成年の主張”ばりに「ここでの成績は、なんも関係ねえからな!」って言って帰りました(笑)。目覚めてくれ、と。もちろん大事な場所ではあるんですけど。

山添 早熟とか晩成型とかいますからね。それこそオズワルドなんて急にこんなおもろいやつ出てきたん?みたいな感じでした。

左から畠中悠、伊藤俊介、山添寛。

左から畠中悠、伊藤俊介、山添寛。

左から畠中悠、伊藤俊介、山添寛。

左から畠中悠、伊藤俊介、山添寛。

──皆さん、雅也のように「自分の居場所はここじゃない」と思っていた時期はありますか?

山添 僕はショーパブでバイトしていたときですかね。養成所に入りたいと思って上京したけど、バイトしてるだけの期間が2年くらいあったんですよ。ただお笑い番組をめちゃくちゃ観てるだけなのに、自分も面白いと錯覚してました。先輩が「こいつ芸人志望なんですよ」って紹介してくれるんですが、けっこうズバズバ言ってくるお客さんも多くてバキバキにへし折られましたね。毎日「おもんないな」ってひたすら言われてたから、丸くなったのはいいんですけど、こんなところ絶対辞めたろうってずっと思っていました。

伊藤 僕もほぼ一緒ですね。キャバクラのボーイとして10年間働いてたんですが「ラッスンゴレライ」のネタを8.6秒バズーカーよりやらされてると思います。本当に血の涙が出そうでした。閉店5分前くらいに「ラストソング」と言って、コンビのネタを8台くらいある店の大画面で流されて。お会計のお客さんから「さっきめっちゃ滑ってたやつだ」みたいな。

──しんどいエピソードですね……。

伊藤 こんなにウケないのは初めてです。

山添 ウケる話じゃないだろ(笑)。

ダメですよ、だまされては(伊藤)

──榛村と雅也が唯一対面する拘置所の面会シーンが大きな見せ場となっていました。

山添 たまらなかったですね。こんな怖い人おんねやと、めちゃくちゃ洗脳してきてるやんって思いながら観てました。個人的に価値観の違うものを見せてもらうのが好みなので、本当に面白かったです。

畠中 あれ怖かったですよね。最初のほうは刑務官も厳しく接してたのに、後半は子供に読ませる本の相談を榛村としてる。拘置所でも人を魅了する相当な人たらし、というか。

「死刑にいたる病」より、榛村と雅也の面会シーン。

「死刑にいたる病」より、榛村と雅也の面会シーン。

──映画の最後についてはいかがでしょう。“驚愕のラスト”です。

畠中 最後の救いどころとして、幸せに忘れて暮らすみたいなことを僕は期待していました。でもそう簡単にはいかない。よく考えたら榛村の手のひらだったんだなって。

山添 あれによって俺らが観たんが、ほんの一部でしかないんやって思わされる感じがゾクゾクしました。みんな榛村の味方になるくらい、彼のことを好きになるって言ってたじゃないですか。今回呼んでくれたのは、僕とか畠中は榛村に似たような部分があるかもしれないからってことですよね。でも、その時点で榛村にはなれないんですよ。

畠中 そうですね。もう疑われてるわけですもんね。

山添 そうそう。実際僕らの周りで想像するとパンサー向井さんや麒麟の川島さん(笑)。まったくそれっ気を感じさせない人が榛村に近い存在かもしれないです。

畠中 そうかもしれませんね。本当にみんなに好かれる人。

山添 ね? 僕らはうっすら怪しまれている時点でレベルが違います。

──確かに。

伊藤 今の気付いてます?

──え?

伊藤 もうそろそろ取材も終わりだから、俺は「榛村と違うぞ」ってナチュラルに植え付けてるんですよ。最後にそのことをハッキリさせとこうとする発言です。ダメですよ、だまされては。

──まったく気付きませんでした。

山添 榛村に乗っかるボケとか、いろいろ想像しながら今日臨んでるけど意外と活字になったら引かれるって(笑)。阿部さんに「勉強になりました」ってスタンスは今後ヤバいんちゃうかな……。

伊藤 まさか取材をほぼシリアルキラーへの共感で通すとは(笑)。

左から山添寛、伊藤俊介、畠中悠。

左から山添寛、伊藤俊介、畠中悠。

プロフィール

相席スタート・山添寛(ヤマゾエカン)

1985年6月11日生まれ、京都府出身。NSC東京校14期生で2013年2月に山﨑ケイと相席スタートを結成する。同年には「THE MANZAI 2013」の認定漫才師50組に選出。2016年には「M-1グランプリ」の決勝に進出した。自身の名を冠したユニットコントライブ「山添展」を定期的に開催。2022年4月からはラジオ大阪「サクラバシ919」で火曜のメインパーソナリティ、フジテレビ系「ポップUP!」金曜レギュラーを務めている。

オズワルド

畠中悠(ハタナカユウ)
1987年12月7日生まれ、北海道出身。

伊藤俊介(イトウシュンスケ)
1989年8月8日生まれ、千葉県出身。

NSC東京校17期の同期で2014年11月にオズワルドを結成。2019年12月には「M-1グランプリ2019」で初の決勝進出を果たす。現在まで3年連続で決勝に進んでおり、2021年はファーストラウンドをトップ通過し準優勝。第42回ABCお笑いグランプリでは優勝している。現在、TBSラジオ「ほら!ここがオズワルドさんち!」、LuckyFM茨城放送「レバレジーズpresents MUSIC COUNTDOWN 10&10」、MBSラジオ「エビ中☆なんやねん」にレギュラー出演中。2022年4月にはMCを務める新番組「新・乃木坂スター誕生!」がスタートした。