真田広之がプロデューサー・主演を務めるドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」が、ディズニープラス「スター」で独占配信中。同作は「トップガン マーヴェリック」の原案を手がけたジャスティン・マークスをはじめとするハリウッドの製作陣によって作り上げられた戦国スペクタクルで、歴代のディズニープラス作品で初回再生数ナンバーワンに輝いている。
徳川家康、石田三成ら実在の歴史上の人物をもとに、「関ヶ原の戦い」前夜の物語を紡ぐ本作。窮地に立たされた戦国一の武将・虎永と、その家臣となった英国人航海士ジョン・ブラックソーン / 按針、2人の運命の鍵となる謎多きキリシタン・鞠子らの姿と、乱世の裏で繰り広げられる壮大な“謀りごと”が描かれる。虎永を真田が演じたほか、コズモ・ジャーヴィス、アンナ・サワイ、浅野忠信、平岳大、西岡德馬、二階堂ふみがキャストに名を連ねた。
このたび映画ナタリーでは、戦国時代を舞台にした「センゴク」シリーズで有名なマンガ家・宮下英樹にインタビューを実施。宮下は本作を「視点が斬新」「真田広之ならではの描き方」とたたえ、キャラクター像、欧米人と日本人の感覚の違いなどを交えて紐解いていく。そして史実をもとにフィクションを作ることの難しさについても語った。
取材・文 / イソガイマサト撮影 / 須田卓馬
ドラマ「SHOGUN 将軍」本予告公開中
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ジョン・ブラックソーン / 按針(演:コズモ・ジャーヴィス)
徳川家康の外交顧問として仕えたウィリアム・アダムス(三浦按針)に着想を得た人物。オランダ船に乗っていた英国人航海士で、遭難して伊豆に漂着したのち、虎永に目をかけられて家臣として取り立てられる。
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戸田鞠子(演:アンナ・サワイ)
明智光秀の娘・細川ガラシャにインスパイアされたキャラクター。波乱に満ちた過去を持っており、洗礼を受けてキリシタンとなった。虎永から按針の通訳に指名され、徐々に按針と心を通わせる。
アクションに長けた真田広之が“動かない”頭脳戦
──「SHOGUN 将軍」は現在4話まで配信中ですが(※3月15日時点)、宮下英樹さんには第8話まで先にご覧いただきました。まずは、率直な感想からお聞かせください。
視点が斬新でしたね。僕もコミック乱で連載中の「大乱 関ヶ原」で今ちょうど関ヶ原の戦い前夜を描いているんですけど、本作はおなじみの関ヶ原のストーリーをこれまでとは異なる視点で描いていたので、まったく違う印象を受けました。
──違う視点というのは、具体的にはどんなところでしょう?
僕ら日本人は徳川家康や織田信長を主人公にして、戦国大名の駆け引きを中心に描くことが多いと思うんですが、今回は漂着したイギリス人の按針=ジョン・ブラックソーン(演:コズモ・ジャーヴィス)という異国人の目線で描かれていて。視聴者も彼と一緒に“(戦国時代の)日本ってこんな感じだったんや”というまなざしでドラマの世界に入っていく見え方になっていたのが新しかったですね。
──真田広之さんが(徳川家康にインスパイアされた)戦国最強の武将・吉井虎永に扮し、プロデューサーも兼任している本作が、アクション活劇ではなく、緊張感の途切れない頭脳戦になっていたのは驚きました。
僕は、その描き方こそが真田さんならではだと思いました。アクションに長けた真田さんが動かないということが、本作では生きるというか。バタバタ動くのではなく、むしろ動かない演技で強さやすごさを見せようとしているのを感じました。
演技の究極はしゃべらない、動かないってことなんでしょうね。刀の柄(つか)に手を掛けただけでも怖い、という空気を常にまとっている感じというか。それと同じような怖さを、僕は大先輩のちばてつや先生(※「あしたのジョー」などで知られるマンガ家)に感じたことがあります。ちば先生も優しいんですが、若手が突っかかってきたらただじゃおかないぞ!みたいな怖さがありましたからね(笑)。
異国から違う分子が入ってきたことで、女性たちの本心が見えてくる
──女性たちのドラマにわりと比重が置かれているのも印象的です。
そうですね。戦国時代の女性は居場所がなかった。ドラマに登場する、淀君からインスパイアされた太閤の側室・落葉の方(演:二階堂ふみ)のように、嫡男を産めば立場もできるけれど、名前すらわからない人も多い。当時の女性たちの資料はほぼないに等しいので、彼女たちが何を考えていたのかよくわからないんです。
──でも、わからないだけで、当時の女性たちもそれぞれの思いを間違いなく抱えていましたよね?
女性の一部は、心の中では“(自分たちが生きている)この時代はおかしい”と思っていたに違いない。異国から違う分子が入ってきたことで、そんな彼女たちの本心が見えてきて、時代が急にグワッと動き出す感じがしました。
──按針の描かれ方はいかがでした?
按針はおそらく、日本を“黄金の国”のように思っていたんじゃないですかね。でも、流れ着いた日本は簡単に人を殺す地獄みたいな国だった! しかも秘密主義で、女性が抑圧されていた。日本人は子供の頃から「鶴の恩返し」や主人公が「玉手箱を決して開けてはいけない」と言われる「浦島太郎」などの童話で秘密主義めいた感覚が当たり前だと思っていたけれど、按針の目線で状況を見ていくと、僕らも“日本はこういう国なんだ!”っていうことを再確認させられる。そんな按針が、彼の通訳をすることになるキリシタン・戸田鞠子(演:アンナ・サワイ)の心を開かせる展開にもすごく説得力がありました。
──鞠子は異国からきた按針になぜ心を開いたと思いますか?
当時の武士は、彼女が按針のような異形の存在と心を通わせるとは思わないでしょうし、現代の我々も素敵な外国人と付き合っているというふうには捉えない。ただ、鞠子と按針は、存在が認められていない同じ弱い立場。しかも、夫やほかの武士は話がいかにも通じなさそうな感じもあって、お互いに唯一話が通じる存在だったので腹を割って話し合うことができたのではないでしょうか。
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あきらめを知っている鞠子は、ほかの人たちと違う