映画ナタリー Power Push - 「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」
樋口真嗣監督インタビュー 日本映画という壁の中で
東宝特撮の歴史の中で
──本作がPG12と聞きびっくりしました。表現の仕方には細心の注意を払われたのでしょうか?
アニメでさらに広がった「進撃の巨人」のファン層から考えて、PG15ではダメだと思ったんです。でもそこで手加減というか、残虐な表現をぬるくしちゃうと本質からブレるというのもわかっていて。その中で、同じくPG12で公開された「寄生獣」の山崎(貴)監督に撮影所で話を聞くと、「その瞬間は見せずにリアクションでいくんだ」みたいな返答があって。なるほどな、それだなと(笑)。
──「その瞬間は見せずに」という話を聞くと、1954年公開の「ゴジラ」など、見せないことによって恐怖を生み出していた過去の特撮映画が思い浮かぶのですが……。
そうですね。でも本作で参考にしたのは、「ゴジラ」よりも、「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」(以下「サンダ対ガイラ」)とかですね。東宝の特撮映画の歴史の中で、「ゴジラ」よりも、少しだけ大人向けの作品群があるんです。それら作品の描写も直接見せてはいないんだけども、つながりとして「今、こいつは、人を、食べた」っていうのがわかるような見せ方になっている。
──「サンダ対ガイラ」は、原作者の諫山さんが幼い頃に観てトラウマを与えられたと公言されてますね。
そうみたいですね。僕もあとから聞きました。
──では偶然、重なりあった?
本当に偶然で。あと僕らは「サンダ対ガイラ」を目指したというわけではなくて……自分の中では「ウルトラマン」があって、それに対して「エヴァンゲリオン」があったときに、「エヴァンゲリオン」の先にあるもの、それにインスパイアされた新しいものとして「進撃の巨人」があったんです。人間が変身して巨大な何かになるっていう。しかもそれが自分では制御できないビーストのようなものっていうところにすごく惹かれていて。これは実写でやったら面白い、単なる“怪獣もの”でも“変身ヒーローもの”でもないわけだし。
リアリティよりもインパクト
──巨人はCGではなく、特殊メイクをした人間が演じていますね。その理由はなんだったのでしょうか?
正直に言えば……お金がもったいないから(笑)。
──ははは(笑)。
もちろんCGで巨人を作ることもできたとは思うんです。でもそれは簡単にできることじゃない。べらぼうな時間がかかる、ということはお金もかかる。恐らくそれでもなんらかの妥協を強いられるだろうということは、これまでこの国でやってきた経験からうっすらとわかる。CGでチャレンジして結果的に妥協するよりは、同じぐらいのお金をかけて実写で撮影し、その中のよく撮れた部分を使ったほうがいいんじゃないかと考えたんです。
──限られた予算の中で、実写のほうがより高い効果を見込めると考えたわけですね。
そうです。あと実写のほうが、よりインパクトが強いものが作れると考えていて。CGでやると、インパクトよりもリアリティを求めちゃって「よくできました」って印象のものにしかならないように思えたんです。
──リアリティよりもインパクトのほうが本作において重要だと考えたわけですね。
CGだと、どうしてもよくできたもの、自然に見えるものを目指しちゃうかなと。巨人って道から外れた者であって、その道から外れるための操作は、CGよりも実写のほうが向いてると思っていたんです。整合性が取れなくなるような存在を探してきて、それをメイクや撮影の技術を駆使して強調したほうが面白いんじゃないかなって。
──樋口監督は巨人に名前を付けていたと伺っているのですが、人に演じてもらうことで愛着が生まれてきたのでしょうか?
いや。名付け親は特撮の尾上(克郎)監督です。名前がないと「来てください」って言えないでしょ(笑)。
──そういう理由なんですね(笑)。
ええ。巨人を演じている人も自分の本当の名前で呼ばれたら、その瞬間に現実に戻っちゃうじゃないですか。それは悪いなあという気持ちがあって(笑)。
ワイヤーを見せるワイヤーアクション
──立体機動装置によるワイヤーアクションが、本作の見どころの1つだと思うのですが、そこでこだわったことはありますか?
普通のワイヤーアクションをやるときって、吊られてないように見せなくちゃいけないんです。例えばジャンプをしたときに、ジャンプ力がすごいっていうふうに見せなきゃいけないわけなので。でも今回の場合は、もう設定的にワイヤーが見えてる。ワイヤーで吊り下がったり、飛んだりしているので。こだわったことは、いかにすごいエネルギーで飛んでいるように見せるか、あとはなるべく俳優本人を使うことですかね。
──確かに、ワイヤーアクションのワイヤーを見せているっていうのが、すごく特殊ですよね。
まあ、そもそも香港のアクション映画で生み出されたワイヤーアクションそのものが発明だったと思うんです。それとは別に、本作を通してワイヤーで吊られて動くことを再定義したい気持ちがあったんです。
──立体機動装置の動きを考える上で参考にした作品などはありますか?
アニメ版「進撃の巨人」ですね。作画が素晴らしいです。アニメ化によって、「立体機動とはこうあるべきだ」と定義づけられたと思いますね。
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「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」全国東宝系にて公開中 / 「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド」2015年9月19日より全国東宝系にて公開
スタッフ
監督:樋口真嗣
原作:諫山創(講談社「別冊少年マガジン」連載中)
脚本:渡辺雄介、町山智浩
特撮監督:尾上克郎
主題歌:SEKAI NO OWARI「SOS」
音楽:鷺巣詩郎
キャスト
エレン:三浦春馬
シキシマ:長谷川博己
ミカサ:水原希子
アルミン:本郷奏多
ジャン:三浦貴大
サシャ:桜庭ななみ
サンナギ:松尾諭
フクシ:渡部秀
ヒアナ:水崎綾女
リル:武田梨奈
ソウダ:ピエール瀧
ハンジ:石原さとみ
クバル:國村隼
樋口真嗣(ヒグチシンジ)
1965年9月22日、東京都生まれ。1984年「ゴジラ」に造形助手として参加し、映画界入り。「ガメラ 大怪獣空中決戦」「ガメラ2 レギオン襲来」「ガメラ3 邪神<イリス>覚醒」などで特撮監督を担当した後、「ローレライ」「のぼうの城」(犬童一心と共同監督)「巨神兵東京に現わる」で監督を務める。監督最新作「ゴジラ2016(仮)」(総監督は庵野秀明)の公開を、2016年夏に控えている。