映画ナタリー Power Push - 「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」

樋口真嗣監督インタビュー 日本映画という壁の中で

取材・文 / 伊東弘剛

新たな“変身ヒーロー”の登場

──樋口監督は原作マンガのファンと伺っているのですが、どのように原作と出会われたのでしょうか?

数年前、事務所の近所にある本屋に行ったら、原作マンガの2巻が平積みになっていたんですね。その表紙のインパクトに惹かれてジャケ買いをしたのが最初です。

──ジャケ買いをしたくなるほど魅力的な絵だったんですか?

そこには、立体機動装置を使って宙に舞うミカサと、彼女の剣で斬られているスキンヘッドの大きなおっさんが描かれていたんです。立体機動装置の箱とボンベが組み合わさった形態や、ヨーロッパを思わせる街並みが、スチームパンク的に見え、すごく気になって。

──表紙に惹かれたということですが、中を読んでみてどう思われました?

「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」撮影現場での樋口真嗣。

僕にはまったく想像もつかない、考えたこともないような世界が描かれていました。というより、そこで展開されていく物語をしっかりと掴むことができなかった。街並みは中世のようなんだけど、それにしてはテクノロジーが進んでいるように見える。何よりもなんでその世界に巨人がいるのかがわからない。わからないことだらけの中で、半ば強引と言えるような形で物語が進んでいく。

──その、謎が解かれることなく物語が展開していく感じが、原作の大きな魅力の1つですよね。1、2巻を読まれてすぐに実写化したいと考えたのですか?

そうですね。特に2巻でエレンが巨人化するじゃないですか。あれを見て、「あっ、自分のテリトリーに近付いてきた」と思ったんです。

──テリトリーですか?

そのことによって一種の“変身もの”として読めるようになったんです。そうすると子供の頃から「ウルトラマン」や「仮面ライダー」を観て育ってきた人間として、より身近に感じられるようになって。しかもそれらのマイルストーンのような作品を、シンプルにリメイクするのではなくて、極めてオリジナルな形の作品に仕上げている。「今“変身もの”を描いたら、こうなる」っていうのを見せつけられた感じでした。早い時期から、自分で映画会社に企画書を持ち込んでいきましたね。

少年マンガの王道に組み替える

──希望通り、樋口監督の手で実写化されることになったわけですが、撮影の前段階にあたる脚本の話から伺えますか?

最初に原作者の諫山(創)さんから、映画評論家でもある町山智浩さんをスタッフに加えてほしいという要望がありました。スクリプトドクター的な役割で、というつもりだったと思うのですが、どうせやるなら書いてもらったほうが早いと思いまして、脚本家としてオファーしました。それで初めは原作に沿った形のスクリプトを作ったんです。でもそれがボツになって。

──それはどうしてですか?

実は、まだオンエア前だった同原作のテレビアニメと構成がほぼ同じだったんです。原作の意図的に混乱させた時制を並べ替え、リニアな感情線で走り抜けようとしたのですが、先に発表されるアニメと同じ構成のものを実写で焼き直しても仕方がないと思って。それ以上に、諫山さんから「マンガやアニメとは違うものにしてほしい」という要望があったんです。

──諫山さんからの具体的な要望はどのようなものだったのでしょうか?

「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」より。

うーん……例えば「ジャンが主人公になんないですか?」とか(笑)。

──諫山さんのジャン好きは噂には聞いていたのですが、まさかそこまでとは(笑)。でも実写版の主人公はエレンになっていますね。

僕や町山さんが読んだ原作は、当然ですけどエレンが主人公だったわけですよ。「壁なんて!」って言いながらツッパっているのに、いつも空回りしていて、何をやってもうまくいかない少年。そんな男がひょんなことから巨人になって、自分の運命に気付くっていう物語だったわけです。原作の最初の頃は。

──そうですね。

それで自分たちとしてはやっぱり「主人公はエレンだよね!」って感じで。それでエレンを主人公に物語を作ろうってなったときに、原作が持ってるエレンの属性がちょっと弱いんじゃないかと思って。映画が終わったときに主人公が獲得できるものが復讐を果たす、だけでは弱いと指摘されまして、だったらもっとエレンにひどい地獄を味わわせようってなって(笑)。

──ははは(笑)。

「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド」より。

それで町山さんとも、最後はエレンが勝利というか、自由だったりいろんなものを勝ち取る物語にしなきゃいけないと話し合って。だとしたらその前に何ができるかっていうと大切なものをすべて奪うしかない(笑)。すべて奪って最後にそれを取り戻すっていう話にしたほうがいいだろうと。じゃあ一番好きなミカサが奪われる話、ミカサを奪われたエレンがそれを取り返す話にしようってなっていったんです。

──お話を伺っていると少年マンガの王道ですね。

そうなんです! 成長譚の王道として「進撃の巨人」を再構築できないかっていうのが、僕と町山さんのテーマでした。

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「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」
スタッフ

監督:樋口真嗣
原作:諫山創(講談社「別冊少年マガジン」連載中)
脚本:渡辺雄介、町山智浩
特撮監督:尾上克郎
主題歌:SEKAI NO OWARI「SOS」
音楽:鷺巣詩郎

キャスト

エレン:三浦春馬
シキシマ:長谷川博己
ミカサ:水原希子
アルミン:本郷奏多
ジャン:三浦貴大
サシャ:桜庭ななみ
サンナギ:松尾諭
フクシ:渡部秀
ヒアナ:水崎綾女
リル:武田梨奈
ソウダ:ピエール瀧
ハンジ:石原さとみ
クバル:國村隼

樋口真嗣(ヒグチシンジ)

1965年9月22日、東京都生まれ。1984年「ゴジラ」に造形助手として参加し、映画界入り。「ガメラ 大怪獣空中決戦」「ガメラ2 レギオン襲来」「ガメラ3 邪神<イリス>覚醒」などで特撮監督を担当した後、「ローレライ」「のぼうの城」(犬童一心と共同監督)「巨神兵東京に現わる」で監督を務める。監督最新作「ゴジラ2016(仮)」(総監督は庵野秀明)の公開を、2016年夏に控えている。

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