映画ナタリー PowerPush - 「セッション」

金子ノブアキが熱弁するその狂気と魅力

今知る親父ジョニー吉長のすごさ

──金子さんの場合はお父さんのジョニー吉長さんもドラマーでしたよね。影響を受けたところはありましたか?

金子ノブアキ

もちろんあります。僕の場合は手取り足取り教えてもらうような経験はなかったですけど、ライブやレコーディングの現場に小さい頃から連れて行ってもらって、父親や母親の演奏を近くで見ていたのはある種の英才教育だと思いますね。まあ、10代の頃は粋がって「俺のほうがうまい!」と思ってましたけどね。ただ年齢を重ねれば重ねるほどかなわないことを実感するんです。親父は3年前に亡くなっちゃいましたけど、叩き続けていたらどんな感じだったのか……。親父もそうですけど、すごいミュージシャンって1つの音に含まれる情報量がすごいんですよ。それがオーラとか、音から感じられる“説得力”なんでしょうね。

──フレッチャーとニーマンの関係って、どこか親子みたいなところがありますよね。実力を認めてもらいたいニーマンと、自分の野心や夢を息子ほどの年齢の生徒にねじれた形で託すフレッチャーみたいな。

ああ、確かに。フレッチャーって地位も名誉もあるハズなのに、生徒たちにすごい厳しいし、どこか楽器を演奏する人間に対する劣等感みたいなものがにじみ出てますよね。あとネタバレになっちゃうんですけど、後半、バーでピアノを弾くシーンとかも出てくるじゃないですか。そのシーンがよかったなと思うのは、あそこで彼のジレンマと夢破れた感が見えたから。そういう人間らしい哀愁みたいなものや、若者への嫉妬がフレッチャーから漂っているのがいいなと。

「セッション」のワンシーン。

──この映画はフレッチャーの罵詈雑言やスパルタ指導も見どころですが、金子さんが印象的だったシーンは?

シンバルを飛ばして怒るシーンも強烈でしたけど、一番はテンポを覚え込ませるためにビンタするシーンですよね(笑)。「ワン、ツー、スリー、フォー」って言いながらビンタし続けてリズムを覚え込ませる。あれは「そんなアホな!」と笑いながら観ちゃいました。

ドラマー人口が増えてくれたら

──映画の中でニーマンは、家族や彼女を犠牲にして、ドラムに打ち込んでいきますよね。金子さんも何かを犠牲にしてドラムをとった経験はありますか?

「セッション」のワンシーン。

うーん。別モノなんで、ないですね。万が一そういう選択を迫られた場合は、女性を取ります(笑)。僕の場合、一昨年に結婚して。奥さんと結婚した最大の理由に、僕の制作とか表現にまったく介入してこないっていうのはあったんです。素晴らしいミュージシャン同士のカップルもいるけど、僕の場合、ドラムは絶対領域でそこは誰にも入られたくないんですよ。ドラムセットの中は自宅よりもプライベートで、一番癒される場所だし、聖域なんです。

──映画の推薦コメントで「僕はこの作品の危機的状況に似た悪夢をよく見る」とコメントされていましたが、実際どんな悪夢を見るんでしょうか?

すごく準備してステージに立ったのに、バンドが全然違う曲を披露したり。あとはドラムセットも自分で準備したのに、いざ本番で出て行ったらハイハットがものすごく遠くにあるとか。この映画に至っては、そういう危機的状況の中で曲が始まっちゃうシーンがありますけどね(笑)。あれは観ててヒヤヒヤしました。

──この映画のクライマックスでは、フレッチャーとニーマンによる約10分におよぶ圧巻のセッションが展開されます。究極のセッションとも言えるシーンだと思うのですが、金子さんにとって究極のプレイというのはどういうものですか?

さっきもお話したことですが、一発叩いただけで、その音に“人生”が集約されている音ですね。近年それを感じたのは、ダニエル・ラノワのバックで叩いていたブライアン・ブレイド。叩くスピードが速いわけでもない、技巧で見せるわけでもないんだけど、その音に自分が包み込まれる感じ。そういう音を聴くとキャリアに勝るものはないんだなって。1日、2日じゃ鳴らすことはできない音に憧れますね。

「セッション」のワンシーン。

──金子さんが「セッション」にキャッチコピーを付けるとしたらどんなものを付けますか?

フレッチャーのセリフを引用するのがインパクトはあるんでしょうね。「オカマ野郎!」とかあのすごい罵詈雑言を。それだけで普通の映画ではないというのがわかると思うんで。でも、そんなコピーを読んだらどんな映画なのかわかんないですよね(笑)。

──ちなみに同業者の方とこの映画について話をする機会はありましたか?

まだないんですよ。じっくり語り合いたいですね。この映画は、1つの楽器の社会的地位を底上げしてますし。ドラムをフィーチャーしてここまで成功した映画はあとにも先にもないでしょうね。まあ、ドラムやってる人間は映画観終わってからスタジオに行くか、ものすごい酒を浴びるかでしょう(笑)。だって映画を観てやられちゃいますから。あのフレッチャーのすごさと、ニーマンの狂気に。映画が公開されて、ドラマーの人口が増えるか減るか気になってます。

──実際どうだと思いますか?

本音としてはドラマー人口増えてほしいですけどね。ドラムのカッコいい部分や、音楽の素晴らしさも描写されているんで。いろんな解釈はあるでしょうけど、突き詰めるとただいい演奏をしたい、カッコイイ音を出したいってことに向かっていってるだけだと思うんですよ。

金子ノブアキ

──それが暴走していくだけだと。ちなみに金子さんにとってドラムの魅力ってなんでしょうか?

一番原始的な楽器なんですよね。そもそも木の棒で叩く行為から始まってますし。なんて言うのかな、ドラムを叩いてるときは生きてる感じがある。そこが魅力ですね。

──最後にこれから「セッション」を観る人にメッセージをお願いします。

人生で何本こういう映画が観られるかなってくらいのすごい映画なんで、音楽好きな人、映画好きな人どちらにも観てほしいですね。とにかくスクリーンで体感してもらうのが一番いい映画なんで、劇場にぜひ足を運んでください!

「セッション」2015年4月17日全国公開
「セッション」

1985年生まれの若手監督デイミアン・チャゼルの長編2作目。名門音楽大学を舞台に、ドラマーのニーマン(マイルズ・テラー)と、鬼教師フレッチャー(J・K・シモンズ)の壮絶なセッションを描き出す。デイミアン・チャゼルは同作で第30回サンダンス映画祭と第40回ドーヴィル映画祭という2つの映画祭で観客賞と審査員大賞を受賞。またJ・K・シモンズは第87回アカデミー賞助演男優賞、第72回ゴールデングローブ賞助演男優賞などを受賞している。

ストーリー

名門音楽大学に入学したドラマーのニーマンは、鬼教師として名高いフレッチャーのスタジオバンドにスカウトされる。フレッチャーのバンドに入れば偉大な音楽家になるという夢は叶ったも同然と喜ぶニーマンだが、彼を待ち受けていたのは0.1秒のテンポのズレも許さない完璧な演奏を求めるフレッチャーの狂気じみたレッスンだった。フレッチャーの指導に不満を覚えながらも、次第にその才能を開花させていくニーマン。恋人のニコルを捨て、家族にも蔑まれながらもドラムに打ち込んでいくが、果たして彼はフレッチャーのしごきに耐えられるのか。ラストで繰り広げられる約10分にもおよぶ2人の“セッション”は圧巻。

スタッフ

監督・脚本:デイミアン・チャゼル
製作総指揮:ジェイソン・ライトマン
製作:ジェイソン・ブラム
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ

キャスト

アンドリュー・ニーマン:マイルズ・テラー
フレッチャー:J・K・シモンズ
ニコル:メリッサ・ブノワ
ジム・ニーマン:ポール・ライザー
ライアン:オースティン・ストウェル
カール:ネイト・ラング

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金子ノブアキ(カネコノブアキ)

1981年生まれのドラマー、俳優。父はドラマーのジョニー吉長、母は歌手の金子マリ。弟のKenKenこと金子賢輔もベーシストという音楽一家に育つ。1994年にドラマ「天国に一番近いママ」で俳優としてデビューし、2000年に幼なじみのJESSEと組んだロックバンドRIZEのメンバーとしてシングル「カミナリ」でメジャーデビューを果たす。AA=のバンド活動も行い、2009年にはソロ活動も開始し、これまでに「オルカ」「Historia」という2枚のアルバムをリリースしている。2015年4月に配信シングル「The Sun」を発表。同月に初のソロライブ「nobuaki kaneko showcase 2015」を東京・WWWにて開催する。

ライブ情報

nobuaki kaneko showcase 2015
2015年4月23日(木)東京都 WWW
※チケット完売