映画ナタリー Power Push - 「世界から猫が消えたなら」

主演 佐藤健×原作者 川村元気 原作者から見た“俳優・佐藤健”の魅力

どっちも佐藤健なのに、2人の会話として普通に観られる(川村)

──佐藤さんが1人2役で演じる“僕”と“悪魔”の対峙シーンは、同じ背丈の俳優さんを相手に佐藤さんがそれぞれを交互に演じて、編集で合成させたんですよね。通常の2倍以上のカット数を撮影して骨の折れる作業だったと思いますが。

「世界から猫が消えたなら」より。

佐藤 撮っているときは、まず完成した画のイメージができなかったんですよ。VFXの説明もすごくたくさんしていただいたのですが、やっぱり聞いているだけじゃなかなか想像がつかなかったので。だから完成作品を観たときにはびっくりしました。“悪魔”のシーンのほかにも、世界から何かが消えるときに使われているVFXはいい意味でアナログ感のあるCGで、今まで観たことがないようなものでしたし。そういう意味でも、いい映画ができたと思ってうれしかったです。

──同じ“僕”でも、大学生から30歳までを演じ分けていましたね。余命わずかと宣告された30歳の“僕”は、心なしか顔つきも別人に見えました。

「世界から猫が消えたなら」より。

佐藤 演じ分けることは少し気を付けていましたけど、病気ということについてはそんなに意識していないと思います。大学生の“僕”でも30歳の“僕”でも、その場で誰と話していて、自分はどういう感情なのかを考えて演じていましたね。

──対する“悪魔”というキャラクターは、原作ではアロハシャツを着て登場しますよね。“僕”と同じ見た目をした映画オリジナルの“悪魔”はどのように作り上げたのでしょうか?

佐藤 それはもう、長く険しい道のりがありまして(笑)。今回の映画で、監督と一番話し合ったところですね。最初、僕はティム・バートン作品ばりの特殊メイクを施した“悪魔”を想像していました。でもクランクインの前に監督や元気さんも含めてミーティングをしたときに、“僕”と同じ見た目がいいんじゃないかという話をして。でもそれだけじゃ自分の中で正解がわからなかったので、撮影の前に2日間くらいリハーサルをしました。そのときに、監督から「もうちょっと普通でいい」「そんなに嫌なやつっぽくしないで」とか、本当に細かいレベルまですり合わせて。現場に入ってからもそんなことを繰り返しました。

──“悪魔”は指が長い、というのが佐藤さんのこだわりなんですよね。

佐藤 特殊メイクをしたかったのですが、その案がどんどん削られていって、最後に指だけ残ったんです(笑)。全部の指が1.5cmずつぐらい長いんです。

川村元気

川村 でも、それによって人間ならざるものの雰囲気が出てるんですよね。

──川村さんは、そんな映画版の“悪魔”を観ていかがでしたか?

川村 まず、映画では原作通りのアロハシャツはやめてほしいとお願いしました。実写映画になったときの面白さって、まったく同じ顔の2人が会話しているのに、どっちが悪魔か感覚的にわかることなのかなと。彼の演技がすごいのは、要はどっちも佐藤健で、メイクも髪型も一緒なのに、普通に別人同士の会話として観られちゃうことなんですよ。衣装やメイクで差をつけるのではなく、同じ見た目なのに、別人に見えるというのがレベルとしては一番高級だなと思ったし、映画で目指してほしかったことなので、実際に完成したときは本当に感動しましたね。ネットだと、「佐藤健が、『仮面ライダー電王』以来の演じ分けだ!」って話題になってるみたいだよ(笑)。

佐藤 「電王」では5、6人分演じていましたね。でもあれはそれぞれ髪型なんかも異なるので、今回とは全然違いました。

川村 東映のプロデューサーに、「あれ、『電王』観てたからやらせたんでしょ!?」って言われましたよ(笑)。もちろん今回は全然違うわけだけど、とにかく見た目は一緒で、芝居は違うというのが一番面白いと思ったんですよ。

アフレコの日は、そのあとに絶対仕事を入れない(佐藤)

──ほかに佐藤さんがこだわった部分はありますか?

「世界から猫が消えたなら」より。

佐藤 どの映画をやるときも、アフレコは毎回すごく重要視しています。この作品はモノローグから始まるので、ナレーションが特に大事だと思いました。普段からアフレコの日はそのあとに絶対に仕事を入れないでもらっています。

川村 そうなんだ!

──今回もじっくり時間をかけましたか?

佐藤 今回も時間がかかりましたね。

川村 ドラマ「天皇の料理番」で絶叫する芝居をやったあとに録ったから、声が全然“僕”じゃない、みたいなことがあったよね。

佐藤 前の日に「天皇の料理番」で、「おめえみたいな女はこっちからごめんだ! おらー!」って黒木華さん演じる俊子を罵倒する場面の撮影で。そうしたら見事に声がかれて……。その次の日にこの映画のアフレコに来たら声がガラガラだったのでダメで、改めてスケジューリングしてもらったんです。……その節は本当に申し訳ございませんでした(笑)。

川村 いやいや、そんなこともありましたね。なつかしい。

佐藤健

佐藤 そういうことも起こるから難しいし、録るタイミングも、クランクアップしてから半年後とか、忘れてしまった頃に呼ばれたりもするから本当に難しい作業なんですよ。だから、今回も心を込めてやりました。

川村 彼の声にすごく魅力があるとはもちろん思っていたんですけど、この映画では、モノローグの声と、“僕”の声と、“悪魔”の声の3つを使い分けないといけないから特に難しかったんじゃないかなと思いますね。そもそもこれ、ほとんどずっと佐藤健が映ってる映画なんですよ。でも、それぞれが声によっても効果的に区別されていて、面白いと思いました。

──では最後に、映画を観る方へメッセージをお願いします。

佐藤 この映画を通して、皆さんは自分の人生を思い返すことになると思います。できれば大切な人と一緒に観に来てもらって、自分にとって大事なものはなんなのかということを一緒に見つけてもらえたらすごく幸せです。

川村 映画も小説も、皆さんの両親との関係性や恋人との記憶と、このストーリーが混ざったときに感動があると思う。だから逆に言うと、参加してくれないと面白さが伝わりにくい。だから、観てくださいとか読んでくださいっていうよりは、参加してみてほしい。この物語と、読者や観客の人生が混じり合ったときに、感じる何かが必ずあると思っています。

キャラクター紹介

(佐藤健)

おっとりとして優柔不断な30歳の郵便配達員。愛猫・キャベツと暮らしている。脳腫瘍のため余命わずかであると宣告され、“悪魔”と契約を結ぶことに。

僕(佐藤健)

悪魔(佐藤健)

“僕”とまったく同じ姿形をした謎の存在。突如“僕”の前に現れ、「世界から大切なものを1つ消すことと引き換えに、1日の命をあげる」と決断を迫る。

悪魔(佐藤健)

彼女(宮﨑あおい)

“僕”のかつての恋人。“僕”とは大学時代に1本の間違い電話がきっかけで知り合った。アルゼンチン・ブラジル旅行でのある出来事が原因で別れてしまうが、久々の再会を果たす。

彼女(宮﨑あおい)

ツタヤ(濱田岳)

“僕”の唯一の親友。本名はタツヤ。映画マニアで、レンタルビデオ店の店長をしている。“僕”にオススメDVDを選んで貸し出し、映画のセリフを言い合うのが日課。

ツタヤ(濱田岳)

父さん(奥田瑛二)

時計屋を営む、“僕”の父親。職人気質で無口、不器用な性格。母の死後、実家に寄り付かなくなった“僕”とは、疎遠になってしまっている。

父さん(奥田瑛二)

母さん(原田美枝子)

数年前に病気で他界した、“僕”の母親。“僕”が子供の頃に拾ってきた猫・レタスが死んでしまってからは、偶然見つけたそっくりな猫・キャベツをかわいがっていた。

母さん(原田美枝子)

トムさん(奥野瑛太)

“僕”と“彼女”がアルゼンチンで出会ったバックパッカー。時間に縛られずに生きるため、世界中を転々としている。

トムさん(奥野瑛太)

ミカ(石井杏奈)

タツヤのレンタルビデオ店でアルバイトしている少女。タツヤからの映画デートの誘いを断り続けている。

ミカ(石井杏奈)
映画「世界から猫が消えたなら」2016年5月14日全国ロードショー

映画『世界から猫が消えたなら』

30歳の郵便配達員“僕”は、愛猫・キャベツと暮らしている。ある日、ひどい頭痛で病院に行った“僕”は、脳腫瘍のため余命わずかであると宣告されてしまう。ショックで呆然とする彼の前に現れたのは、自分とまったく同じ姿形をした“悪魔”。その“悪魔”と「世界から1つ大切なものを消せば、1日の命をもらえる」という契約を結んだ“僕”は、まず電話を消すことに。しかしそれは、1本の間違い電話から出会った元恋人・“彼女”との思い出もすべて消えてしまうことを意味していた。その後も映画や時計を消し去った“悪魔”は、次に「この世界から猫を消しましょう」と言い出し……。

スタッフ

監督:永井聡
原作:川村元気「世界から猫が消えたなら」
音楽:小林武史
主題歌:HARUHI「ひずみ」

キャスト

僕 / 悪魔:佐藤健
彼女:宮﨑あおい
父さん:奥田瑛二
母さん:原田美枝子
ツタヤ:濱田岳
トムさん:奥野瑛太
ミカ:石井杏奈

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佐藤健(サトウタケル)

1989年3月21日、埼玉県生まれ。2007年、特撮ドラマ「仮面ライダー電王」で初主演を飾り、その後「ブラッディ・マンディ」「Q10」「ビター・ブラッド」などのテレビドラマや、「リアル~完全なる首長竜の日~」「カノジョは嘘を愛しすぎてる」などの映画に出演。緋村剣心を演じた「るろうに剣心」シリーズの3作目「るろうに剣心 伝説の最期編」で第9回アジア・フィルム・アワード主演男優賞に選出される。2015年には「バクマン。」やドラマ「天皇の料理番」で主演を務め、東京ドラマアワード主演男優賞、橋田賞を受賞。2016年公開待機作に、朝井リョウ原作の「何者」がある。

川村元気(カワムラゲンキ)

1979年生まれ、神奈川県出身。映画プロデューサーとして「電車男」「告白」「悪人」「モテキ」「おおかみこどもの雨と雪」「寄生獣」「バケモノの子」「バクマン。」などを製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。2012年に発表した初の小説「世界から猫が消えたなら」は本屋大賞へノミネートされ、120万部突破のベストセラーとなる。「ティニー ふうせんいぬのものがたり」や、ロバート・コンドウと堤大介によるアニメ映画化が決定した「ムーム」といった絵本も手がけている。著書に「仕事。」や小説第2作「億男」があり、2016年4月には「理系に学ぶ。」「超企画会議」が発売された。

「理系に学ぶ。」

川村元気「理系に学ぶ。」
2016年4月22発売
1620円 / ダイヤモンド社

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「超企画会議」

川村元気「超企画会議」
2016年4月21日発売
1404円 / KADOKAWA

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2016年5月10日更新