中国ドラマ「清越坊の女たち~当家主母~」をイラストに!「瓔珞」ユー・ジョンが贈る“ハードな女の友情”“逆境を乗り越えるヒロインたちの痛快劇”を辛酸なめ子はどう観たか? (2/2)

魏良弓は語る言葉が知的でアカデミック

──封建制度の時代に生きる女性たちの群像劇としても、魅力たっぷりです。沈翠喜、曽宝琴のほかに気になる女性キャラクターはいましたか?

任雪堂の異母弟・如風(じょふう)のお母さん。陳婦人ですね。すぐ感情的になって「息子を助けて!」って沈翠喜に泣きついたり。自分の本能や欲求に素直で、肉を手づかみで食べているシーンもありました(笑)。「私はまともな姑じゃない」みたいなセリフも面白かったです。頭がよくて、きれいで立派な人ばっかりだと、観ていて遠く感じてしまうんです。変わったおばさんが出てくると親近感が湧きます。

カラ・ワイ演じる陳暁紅(ちんぎょうこう)。

カラ・ワイ演じる陳暁紅(ちんぎょうこう)。

──カラ・ワイ演じる陳暁紅(ちんぎょうこう)ですね。確かにとてもチャーミングでした。

あとは、侍女の林舒芳(りんじょほう)がだんだん存在感を増していく。彼女はすごくきれいですし、次の世代の女王キャラのようでした。如風との恋愛も描かれていて、彼女がツンデレなのがよかったです。如風は最初はダメな感じですけど、だんだん頼りがいのある男性に成長していきましたね。

ジャン・フイウェン演じる林舒芳(りんじょほう)。

ジャン・フイウェン演じる林舒芳(りんじょほう)。

──男性陣も個性豊かですよね。

何人か救いようのないクズ系の男性も出てきますよね。悪役は常に嫌らしい表情をしているのでわかりやすい。弁髪なので最初はちょっと見分けが付きづらかったんですが。

──あまりなじみがないということもあってか、日本の視聴者の中には弁髪が少し苦手という人も一定数いるようです。

日本だとラーメンマンのイメージがあるからですかね。イケメンの髪型という感じではないですよね。後ろが三つ編みで不思議な髪型です。ほどいたらどうなるんでしょうか。どういうきっかけでみんな弁髪にすることになったのか歴史的背景も気になります。髪型補整が効かない分、本当にかっこいい人は、かっこいいということがよりわかる髪型かなと。中国は歴史が長いので時代劇と言っても、それぞれの時代ごとで服装や髪型が変わって、いろいろ楽しめます。

左からシュー・ハイチャオ演じる任雪堂(じんせつどう)、ヤン・ロン演じる曽宝琴(そほうきん)。

左からシュー・ハイチャオ演じる任雪堂(じんせつどう)、ヤン・ロン演じる曽宝琴(そほうきん)。

──男性陣の中では、シュー・ハイチャオ演じる任雪堂、マオ・ズージュン演じる余命わずかな書生・魏良弓(ぎりょうきゅう)が沈翠喜と曽宝琴の人生に大きく関わっています。2人にどんな印象を持ちましたか?

任雪堂は情が深いからなのか、先代の女主人である母に懇願されて沈翠喜を妻にして、来る者拒まないタイプの方なのかなと。モテますよね。魏良弓は文化系男子の先駆けみたいな感じですかね。木彫りの人形を作ったり、語る言葉が知的でアカデミックでした。

左からジアン・チンチン演じる沈翠喜(しんすいき)、マオ・ズージュン演じる魏良弓(ぎりょうきゅう)。

左からジアン・チンチン演じる沈翠喜(しんすいき)、マオ・ズージュン演じる魏良弓(ぎりょうきゅう)。

──沈翠喜は愛されることを知らない女性でしたが、魏良弓と出会ったことで変わっていきます。

2人で鮎釣りに出かけたり、意外とアウトドアを楽しんでいましたよね。崇高で清らかな雰囲気で、心洗われます。横たわりながら寄り添っていましたけど、2人の関係はプラトニックなんでしょうか? 実際はどうなのかが気になりました。想像で補うのがいいんでしょうね。

「清越坊の女たち~当家主母~」

「清越坊の女たち~当家主母~」

──メインキャストそれぞれ個性的ですが、もし日本版が作られるとしたら、辛酸さんなら誰をキャスティングしますか?

沈翠喜は白石麻衣さんですかね。崇高な感じでキリッとしていて、自分に厳しそうな美人で。曽宝琴はかわいらしい感じで有村架純さん。石原さとみさんとちょっと迷いました。任雪堂は木村拓哉さんがいいのかなと。もう少し若手の俳優さんで探そうと思ったんですが、失踪したあとも存在感がある人なので、カリスマ性がある人じゃないと成立しない。魏良弓は歌がうまいのでSixTONESの京本大我さんとか。舒芳は広瀬すずさんで、如風は菅田将暉さんを思い浮かべました。

──難しい質問に答えていただきありがとうございます(笑)。すごく豪華なキャストです。

普通の女の友情ドラマでは観られないレベルのシーン

──本作には「すべての女性たちの心を熱くする」というキャッチコピーが付けられています。一番心が熱くなったシーンはどこでしたか?

沈翠喜と魏良弓を会わせるために、曽宝琴が手を貸すところですね。

左からジアン・チンチン演じる沈翠喜(しんすいき)、ヤン・ロン演じる曽宝琴(そほうきん)。

左からジアン・チンチン演じる沈翠喜(しんすいき)、ヤン・ロン演じる曽宝琴(そほうきん)。

──夫が失踪して何年も経っているとはいえ、沈翠喜と魏良弓の恋は世間にバレてはいけない許されざるものです。

だから曽宝琴が2人を会わせようとしても、沈翠喜は罠だと思って疑っている。そんな彼女に信じてもらうために曽宝琴が自分の命を懸けて信じてもらおうとして。あんなに憎しみ合っていたのに、沈翠喜と魏良弓のために、あそこまでする。ちょっと普通の女の友情ドラマでは観られないレベルのシーンでしたよね。感動的でした。

──どんなふうに曽宝琴が信じてもらおうとするのか、ぜひ観ていただきたいです。ちなみに辛酸さんが考える理想的な女性の友情ってどんな形なのでしょうか?

このドラマを観て、沈翠喜と曽宝琴の関係は理想的だなと思いました。物語の中盤、沈翠喜が生きる意味をなくしてしまったときに、曽宝琴が「やることは山積みよ」と厳しくアドバイスして、立ち直らせようとしますよね。あのシーン、すごくいいなと思いました。ただ一緒に泣いたり、感傷的になるわけじゃない。憎しみ合っていた過去がある分、なんでも本音で言い合える。建前だけの関係じゃない。

──ヒロイン2人の友情やキャラクター以外に、注目のポイントはありましたか?

室内の調度品や家具が素敵でした。建物のちょっとした壁とか柱を見てもセットっぽさがない。観ているとその時代にタイムスリップした気分を味わえます。

──横店影視城に蘇州の水郷街をリアルに再現したり、美術制作に約4カ月費やしているそうです。

そういうのがちゃんと映像に表れていて美しいですよね。あと、このドラマを観ていると中国の伝統文化を知ることもできます。ミュージカルじゃないんですが、急に歌い出して求愛したり。崑曲(こんきょく)を歌うシーンが効果的に出てきます。緙絲を織るシーンもとても丁寧に描かれていて手抜きがない。職人の技術と素材のよさが高い次元で組み合わさっていて、今のファストファッションの会社の人に見せたいです。やっていることが今と真逆ですよね。1枚作って数円とかしかお給料が出てないという話も聞いたことがあるんです。沈翠喜は職人たちを大切にしていますよね。

「清越坊の女たち~当家主母~」

「清越坊の女たち~当家主母~」

──厳しい女将ですが愛がある女性です。

あと細かい部分なんですが印象的だったのが、沈翠喜と魏良弓の物語を町で語る講釈師です。「若い男に貢いで……」みたいな話をしていて。あれは清の時代版の暴露系YouTubeチャンネルなのかなと。

──(笑)

現代人が失ってしまったものを見つけたり、逆に現代の文化のルーツや共通点を見つけたりできました。

──いろんなポイントから本作の魅力を紐解いていただきました。最後に、ドラマが気になっている人に、辛酸さんならどのように本作をプレゼンしますか?

そうですね。愛憎渦巻く中で、ヒロイン2人にいろんなことが降りかかってくるんですが、その都度、乗り越えていきます。それを観ていると自分も逆境に強くなるんじゃないかと、パワーアップした気持ちになれるドラマです。任雪堂が行方不明になったり、男性陣がわりと急に消えちゃうこともあって、男に頼らず生きていく女性の強さを教えてくれる作品でもあります。侍女たちも男性たちに媚びていないですし、気軽にOKしない。プライドが高いところがいいです。描かれる恋愛がピュアでプラトニックなのも現代の男女の関係とは違います。沈翠喜と魏良弓をはじめ、サブカップルも純愛度が高い。こういうドラマってあんまり最近観ないので、心が浄化されます。働く女性が励まされたり、充電できる物語でもあり、ピュアな恋愛ドラマとしても魅力的です。

左からジアン・チンチン演じる沈翠喜(しんすいき)、マオ・ズージュン演じる魏良弓(ぎりょうきゅう)。

左からジアン・チンチン演じる沈翠喜(しんすいき)、マオ・ズージュン演じる魏良弓(ぎりょうきゅう)。

「清越坊の女たち~当家主母~」第1回特別公開中

プロフィール

辛酸なめ子(シンサンナメコ)

1974年8月29日、東京都生まれ。マンガ家・コラムニストとして雑誌、新聞、Webメディア、テレビなどで幅広く活躍し、独自の視点で幅広い層の支持を得ている。主な著書には「おしゃ修行」「辛酸なめ子の独断! 流行大全」「スピリチュアル系のトリセツ」「女子校礼讃」「無心セラピー」「新・人間関係のルール」、小説「ヌルラン」「電車のおじさん」などがある。