「劇場版 殺意の道程」が現在全国で公開中。TELASA(テラサ)で配信も行われており、同サービスの会員だけでなく、auスマートパスプレミアムの会員も視聴することができる。
WOWOWで放送された全7話のドラマ「殺意の道程」を2時間に再編集した本作。映画版の魅力を探るべく、脚本と主演を担当したバカリズムに話を聞いた。父親を自殺に追い込んだ男への息子の復讐がメインストーリーになっているが、序盤から仕掛けられたさまざまな“笑い”によって、これがただの復讐劇ではないと観客はすぐに気付くはずだ。インタビューでは、バカリズムが目指したものに迫る。
取材・文 / 小澤康平
ヘアメイク / 鈴木海希子 スタイリング / 高橋めぐみ
ドラマ版「殺意の道程」をおさらい
バカリズムが脚本を執筆し、2020年11月から全7話がWOWOWで放送された「殺意の道程」。井浦新演じる窪田一馬がバカリズム扮するいとこ・吾妻満と一緒に、父親を自殺に追い込んだ男への復讐を企てるさまが描かれる。サスペンスではあるが、バカリズム曰く「重々しい雰囲気はすべて笑いのためのフリ」。打ち合わせ、買い出しなど復讐実行までのどうでもいい過程ばかりが描かれ、バカリズムによる笑いの種があらゆるシーンに仕掛けられている。そんなドラマを劇場公開用に再編集したのが「劇場版 殺意の道程」だ。バカリズムと井浦のほか、堀田真由、日野陽仁、飛鳥凛、河相我聞、佐久間由衣、鶴見辰吾が出演している。
笑いさえ起こればいい
──バカリズムさんはドラマを映画用に再編集する過程にも関わったんでしょうか?
脚本を書き直したわけではなくて、住田(崇)さんが2時間くらいにまとめてくれたものを観て「あそこは入れてほしいです」「ここはなくてもいいんじゃないですかね」と意見を出させてもらいました。なので、僕は比較的楽でしたね。
──ドラマを観ていた方からすると、自分の好きなシーンがカットされているのではという不安があるかもしれません。
難しいのが、この作品ってほぼすべてのシーンがいらないっちゃいらないんです。無駄な場面だらけなので。殺害計画に必要な道具の買い出しのシーンなんて、普通のサスペンスドラマだったらごっそりカットされると思いますし。ただ、そういう部分を描こうというのが「殺意の道程」の趣旨で「なんで入れたんだよ!」と思われるような場面こそが大事。映画の展開的に必要とかではなく、多少辻褄が合わなくなっても笑いさえ起こればいいと考えていたので、劇場版はドラマよりも笑いが少ないということはないと思います。
──このシーンは絶対に入れてほしいと伝えた部分はありますか?
満と一馬がキャバクラに向かう車中で、一馬の着ている服がいつ買ったものかを話すシーンがあるんです。浮かれてると思われたくない一馬が、本当はおろしたての服をけっこう前に買ったと嘘をつく場面なんですが、絶対いらないんですよ、ドラマ上。映画にするにあたって最初はカットされてたんですけど、「あそこは大事です」と伝えて入れてもらいました。ただ笑いを取りたいだけの僕のわがままを聞きつつ、映画として成立させることを考えないといけなかった住田さんは大変だったかもしれません。
どうでもいいシーンでシリアスな音楽
──音の使い方にも笑いへのこだわりを感じました。父親を殺した男への復讐劇という重いテーマにもかかわらず、作中で一番不穏な音が流れるのが「満と一馬がクリームチーズパンを食べている途中で味に飽きてどんよりする」シーンで。
あははは。そうですね。
──ホラー映画で何かが起こる前にかかるような音が流れますよね(笑)。ほかのスタッフの方にも「第一優先は笑い」ということが共有されているんだなと感じました。
企画段階で住田さんに伝えたのがそのあたりのことなんです。どうでもいいところでものすごくシリアスな音楽や「デデーン!」みたいな音が流れたらバカバカしくていいっすよねみたいな。今まで住田さんと一緒にやった「住住」や「架空OL日記」では、通常のお芝居の部分に音楽を使っていないんです。あえて現場の音しか使っていなかったんですが、今作はバンバン音楽を使ったほうが面白くなると思いました。
──満と一馬が室岡殺害計画の隠語を決めるシーンにも笑いどころがたくさんあって。あることをきっかけに「苺フェア」に決まりますが、「ムロコロ」「タカキのカタキ」などほかの候補も捨てがたいと思いました。
あれはもう大喜利ですね。なくてもいい部分ですけど遊び心と言いますか。
──「IPPONグランプリ」での回答のようにも思えました。すべてバカリズムさんの案ですか?
そうです。ああいうのならいくらでも書けるので。ボードにびっしり書いてあってもいいかなと思ったんですが、見づらくなるのであれくらいにしておきました。
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モデルはゲッターズ飯田さん