イケメン俳優なら誰でもツンデレができるわけじゃない(林)
──日本と中国で描かれるツンデレ像に違いって感じますか?
沢井メグ 中国ドラマは日本と比べて、ツンとデレの振り幅が広いなと思いますね。もうそこまでやるかっていうぐらいデレる(笑)。日本だと「人前でそんなことを……!」と思うようなことも、ヒロインのためなら主人公は平気でやってしまう。これは日本と中国の文化の差も影響していると思うんですが、中国の男性は女性に尽くす人が多いんですよね。そういう背景があるから、主人公がいくらヒロインを溺愛しても、物語としてすっと入っていけるというのはあるかもしれないです。
林穂紅 中国のツンデレドラマを数えだすとキリがないほど。その中でも特に「霸道総裁(オレ様CEO)」タイプのお話が多くて、需要が高いのかなと思いますね。
沢井 ツンデレ=CEOというイメージがありますよね。「コメディ」とか「宮廷ドラマ」とかと並んで「ツンデレCEO(霸道総裁)」というジャンルがあるんです。CEOは仕事ではめちゃくちゃやり手なのに、なぜか恋には不器用だったり奥手だったりするのもあるある(笑)。セレブの甘酸っぱい初恋を見ているような気分を味わえます。
林 日本だと、天然キャラで魅力的なツンデレもいますけど、中国のドラマは、基本的には主人公は完璧で賢いイメージがありますね。そしてだいたい実家が太い(笑)。
一同 (笑)
林 並のお金持ちじゃないんですよ。中国ドラマでは異次元のお金持ちっぷりが嫌味な感じにならず、魅力的に描かれていて面白いなと思います。「ネコの手も借りたい恋」も主人公が都会のど真ん中の一戸建てに住んでましたよね。
沢井 家電がすごかった!
──数多くのツンデレドラマが生み出されている中でも、ツンデレプリンスと呼ばれているのがシン・ジャオリンです。
沢井 彼を一言で説明するなら“塩顔王子”。長い間、中国では、目鼻立ちがはっきりした濃いめの顔がイケメンであるという価値観が続いてきたんですが、2000年以降だんだん変わってきて、イケメンとされるビジュアルにも多様性が生まれてきたんです。シン・ジャオリンの登場で、私は「イケメンの絶対条件=濃い顔」というのは終わったんだなと思いました。
林 シン・ジャオリンは河南省の出身で、シャープな雰囲気のある俳優さんですよね。河南省出身にはほかにワン・イーボーがいます。イケメン俳優なら誰でもツンデレができるわけじゃないと思うんです。ツンが許されるオーラと“デキる男感”、クールな見た目が必須。切れ長の目にすっとした鼻筋で、シン・ジャオリンはまさにツンデレを演じるために生まれてきたようなビジュアルだと思います。難しいのがツンよりデレ。彼本人の趣味がお掃除やお料理だったりするので、ツンからのでろでろに甘いデレのギャップが他を圧倒しているのではないかなと。
沢井 クールな見た目、かわいらしい性格のギャップがたまらんと聞きますね。業界では「芝居の勘がいい」「生まれながらの俳優」と評価されています。
林 いい役をしっかり自分のものにしているというのも彼の魅力なんですよね。Weiboのフォロワーが2300万人もいるスターなんですが、アイドル的に好きというファンよりも、役とセットで好きという人が多い印象を受けます。本人も「シン・ジャオリン本人より、演じた1つひとつの役を覚えていてくれるとうれしい」と言っています。
沢井 個人的にはシン・ジャオリンのキスシーンにはすごい期待してしまいます(笑)。
一同 (笑)
沢井 色っぽくて、ときめきがある。ちょっと恥ずかしくて直視できなくなっちゃうんですけど、それも含めて好きですね。
林 私はクールで難攻不落な雰囲気なのに、ぽろっと見せる優しさがすごく魅力的に見えますね。
シン・ジャオリンの新たな“ツンデレ”が観られる(沢井)
──今回はそんなシン・ジャオリンが出演した新作「三番目の花婿~Choice Husband~」と「ネコの手も借りたい恋」を観ていただきました。
沢井 「三番目の花婿」は一言で説明すると「“バツ2”ヒロインと2人の貴公子による溺愛ラブコメ」。今まで聞いたことがないお話で斬新ですよね。いきなりヒロイン・沈妙(しんみょう)のお見合いシーンから始まって、そこに2人の元夫が現れる。しかも、彼女が妊娠している設定に驚いて。
──2人の元夫のどちらの子かわからないという状況で「どうしてそうなったの?」と、いきなり視聴者の興味を引く展開になっていますよね。
沢井 お見合い相手を演じているのが「贅婿[ぜいせい]~ムコ殿は天才策士~」などで知られるリウ・グァンリンで、つかみはバッチリ。いきなり期待値を上げる展開で、うまい具合に乗せてもらいました。
林 中国のロマンスドラマって初恋中心の物語が多いので、再婚という設定には驚きましたよね。私は1人目の夫・裴衍禎(はいえんてい)を演じているシン・ジャオリン目当てでドラマを観始めたんですが、ライリー・ワン演じる2人目の夫・宋席遠(そうせきえん)も、いい意味で厚かましいというかグイグイ来るキャラで魅力的。ヒロインを取り合う2人のアピール合戦がすごいので、ついついどちらがいいか揺れ動いてしまいます(笑)。
沢井 エリート役人の裴衍禎は正統派の王子様で、富商の御曹司である宋席遠はやんちゃでかわいい系。ドラマを見ながら「裴衍禎がいい!」「いや、やっぱり宋席遠がいい!」って場面場面でそれぞれに感情移入できる楽しさがありますよね。三角関係を描くドラマなので切なさもある。視聴者からすると、沈妙と裴衍禎は思い合っているのに、うまくいかずにじれったくてやきもきしますし、そこに割って入る宋席遠の気持ちを考えるとまた切なくて。
──裴衍禎は公主の婿になりたくないという理由で沈妙と契約結婚しますが、次第に惹かれていきます。
沢井 このドラマではツンデレCEOを演じるシン・ジャオリンとは違った、新たな“ツンデレ”が見られると思います。ツンデレCEOって、たいていはオレ様な性格が原因の“ツン”ですよね。でも「三番目の花婿」ではとある理由で沈妙との仲を引き裂かれた裴衍禎が、彼女に冷たい態度を取らなければならなくなる。“そうせざるを得ないツン”なんです。だからシン・ジャオリンの悲哀を含んだツンが見られる。彼は苦悩する姿もとっても素敵で、きれいな人だからこそ絵になるなと思います。
林 そうそう。彼が演じてきたツンデレCEOとは一線を画したものがこのドラマでは見られますよね。
──恋敵となる2番目の夫・宋席遠の印象はいかがでしたか?
林 登場シーンからハートをつかまれてしまいました(笑)。
沢井 ライリー・ワンってこんなに時代劇が似合うんだというのは発見でしたね。2022年に「月歌行~絆がみちびく恋~」、2023年に「三番目の花婿」が放送されたんですが、それ以前は「ザ・時代劇」という感じのドラマに出たことがなかったようなんです。
林 現代劇で活躍していた人が時代劇に進出すると、姿勢が悪いこともあるんですが、彼は姿勢もいいし時代劇的な所作もしっかりしていて、キャラクターにハマっていましたね。
沢井 そうなんですよね! 私も所作が美しいから、時代劇何本目なんだろ?と思ったのが調べるきっかけで。
林 扇子をパッと開く姿が本当に惚れ惚れする。そこに「良心」とか書かれていて、笑っちゃいます(笑)。
──裴衍禎と宋席遠、自分ならどっち派?と視聴者が考える楽しさがこのドラマにはあるかもしれません。
沢井 選ぶのが難しい(笑)。でも、どちらかというなら私は宋席遠ですね。お茶目で、大富豪でチャラく見えるけど、実は誠実なキャラクター。裴衍禎ももちろん素敵なんですけど、私はどうしても2番手補正が入ってしまって。宋席遠が沈妙と出会ったときには、もうすでに彼女は裴衍禎と相思相愛の状態なので、宋席遠は最初から片思いなんですよね。裴衍禎との関係で傷付いた沈妙が立ち直るためにそばで支えていて、愛情表現も押し付けがましいものじゃない。だから報われてほしいと思ってしまいます。
林 やっぱり最初に気になるのは宋席遠ですよね。ただ最終的に私は裴衍禎派だったんです。グイグイ来る宋席遠のほうに、序盤は目が行きがちなんですが、それは2番手は好き勝手できる一方で、主人公は物語を守らなきゃいけないからだと思うんです。裴衍禎は落ち着いたキャラクターで、シン・ジャオリンのいつものオレ様ツンデレオーラはどうしたのかな?と最初は思うんですけど、だんだん本領を発揮していって、先ほど沢井さんがおっしゃっていたように、新しい彼が見られたのがよかったです。
沢井 シン・ジャオリンと言えば、キスシーンですが、このドラマは数が少ない分、待ちに待ったキスが楽しめるのもよかったです(笑)。
救いようのない悪が出てこないのも魅力(沢井)
──裴衍禎と宋席遠が取り合うことになる沈妙は数々の困難に立ち向かう自立した女性として描かれています。演じているのは「白華の姫~失われた記憶と3つの愛~」などで知られるチャン・シュエインです。
沢井 彼女は中央戯劇学院にトップの成績で入学した女優さんなんです。ヒロインの沈妙はお金持ちのお嬢様で、好き勝手しているし、その好き勝手が通る立場。嫌なキャラになりかねないところを、お嬢様なのに親近感の湧く明るいキャラクターとして演じていましたね。
──メインキャラ3人以外でお気に入りの登場人物はいますか?
林 私はユー・イージエ演じる展越(てんえつ)が好きでした。主人公の裴衍禎をサポートする侍衛という役どころで、時代劇あるあるなキャラ。「楚喬伝(そきょうでん)~いばらに咲く花~」でシン・ジャオリンが演じた月七を彷彿とさせるキャラクターでした。彼がいることによって裴衍禎がよりかっこよく見えます。
沢井 私は冒頭でお見合い相手として登場する馬天宝(ばてんほう)がお気に入りですね。いい意味で小物感がすごい(笑)。そういう役を演じさせたらリウ・グァンリンの右に出る人はいないんじゃないかと思います。最高のキャスティングでした。あとは沈妙のお父さんの側室・小姨娘が好きです。沈妙が正室の娘なので、ほかのお屋敷ドラマとか、宮廷劇だと小姨娘は意地悪な人に描かれがちなポジションですけど、めちゃくちゃいい人。沈妙のことを本当の娘のように思っていて、ほっこりしました。このドラマは救いようのない悪が出てこないのも魅力だと思います。
──「三番目の花婿」はどんな人にお薦めですか?
沢井 中国には「電子榨菜(デジタルザーサイ)」という言葉があって、ご飯を食べながら気楽に楽しめるコンテンツを指すんです。「三番目の花婿」はそういったタイプのドラマとして中国で評価が高かった。だから楽しい気持ちになる時代劇が好きな方にはお薦めですね。あとは王道以外の新しいラブコメにもチャレンジしてみたいという方。そして、シン・ジャオリンのファンには観てほしい。新しいシン・ジャオリンのツンが見られます!
林 中国の時代劇ってどんな感じなんだろう?と興味は持っているけど、王朝の陰謀とか難しいものはちょっと、という方にお薦めしたいですね。物語は身近なものですし、衣装も小物もきれい。そしてドラマを観てみようと思った方は、ライリー・ワンにもぜひ注目してほしいです!
沢井 彼は本当によかった! 主人公は物語を守らなくちゃいけないということを考えると、2番手ってやっぱりおいしいですよね。
林 これから売り出したい俳優さんが演じることも多いですもんね。
沢井 2番手に注目して観るのも、中国ドラマの1つの楽しみ方だなと思います。