中国ドラマ「策略ロマンス~謎解きの鍵は運命の恋~」がU-NEXTで独占先行配信中。3月3日より、DVDが順次リリースされる。チャオ・シンとシュー・ジェンシーが共演した本作は、キレ者男女が謎を解くミステリーラブコメ史劇だ。
映画ナタリーでは本作の配信とDVDリリースを記念して、中国語や中国の文化、ドラマ情報を発信し人気を集めているYouTuberの李姉妹とライター・小酒真由子の鼎談をセッティング。中国ドラマ界に旋風を巻き起こした“ダークホース”の魅力を紐解いてもらった。
取材・文 / 金子恭未子
こうなるだろうとか予想ができない(しーちゃん)
──李姉妹のお二人はYouTubeチャンネルでお薦めの中国ドラマなどもご紹介されていますが、幼少期はどんなドラマを観ていましたか?
ゆんちゃん 時代劇が大好きで子供の頃は「射鵰英雄伝」とか「神雕侠侶」とか、The王道武侠ドラマを観ていました。あとは、当時観ていたのが「還珠姫~プリンセスのつくりかた~」。中国で知らない人はいないドラマですね。
しーちゃん 私たちだけじゃなく、全国民がハマったドラマです(笑)。
ゆんちゃん 当時の中国もテレビのチャンネルは多かったんですけど、みんなが観るような強いチャンネルというのがあったんです。今はもうだいぶ変わって、テレビでドラマを観る人はすごく減ったと思います。日本もそうだとは思うんですけど、中国ではその傾向がより強くて、テレビドラマもウェブで同時配信される形になっています。
しーちゃん 昔はもっとみんなが同じドラマを観ていたと思います。でも今は同時期に何十本とドラマが放送、配信されていて、しかも週4日毎日2話ずつ公開されたり。たまに全話一気に出すこともあって、選ぶのが大変ですし、見切れない(笑)。
小酒真由子 わかります。鬼のような量で(笑)。
ゆんちゃん よくも悪くも、作品が多すぎて、昔よりもコンテンツの消費速度が速いですよね。
──日本にも多くの中国ドラマが入ってきている中で、今回、皆さんには「策略ロマンス~謎解きの鍵は運命の恋~」を観ていただきました。愛憎入り乱れるお屋敷ドラマとしての魅力と、謎解きミステリーとしての魅力を持ち合わせた時代劇として中国で好評を博しました。
ゆんちゃん ストーリーがすごく面白かったですね。どんどん続きが気になる感じで。
しーちゃん そうですね。こうなるだろうとか予想ができない、先が読めないドラマでした。
先読み不能!?「策略ロマンス」ってどんなドラマ?
秋家の側室の娘・秋嫣(しゅうえん)は政略結婚により会ったこともない賀将軍の息子に嫁ぐことになるが、婚礼の最中に新郎は血を吐いて絶命。寡婦となった彼女は殉死を求められる。「こんなの私の運命じゃない!」と生き延びるための策を練り始めた秋嫣。ひょんなことから冷徹な検校史・梁翊(りょうよく)とともに新郎の死の真相を解明することになる。互いを利用しようとする策略家の2人は、顔を合わせるたびに口論に。しかし、いつしか惹かれ合っていく。
自由な生き方を求めて奮闘する秋嫣を「琅琊榜<弐>~風雲来る長林軍~」のチャオ・シン、梁翊を「独孤伽羅~皇后の願い~」のシュー・ジェンシーが好演した。
──小酒さんは本作の情報収集をするリサーチャーもされていたということなんですが、このドラマが中国でヒットした理由はどこにあったのでしょうか?
小酒 ビッグバジェットの作品じゃなくて、キャストも誰もが知っているような国民的大スターというわけじゃないんです。大作とは言えないドラマだったんですが、口コミが広がってヒットした作品ですね。ダークホース的なドラマだと言えると思います。
しーちゃん ダークホースっていうのはすごくうなずけますね。出演者が大スターでとかお金がかかった超大作でとか、そういう最初のつかみはほかの作品に比べて弱いけど、観てみたら面白いじゃん!というドラマ。話数もそんなに多くなく。
ゆんちゃん 34話だから、あ、短い! 見やすくてこれは余裕だなと思いました。長いものだと80話、90話ある。でも、これは中国ドラマに慣れている人の発言ですので(笑)。
しーちゃん 34話でも日本のドラマのだいたい3倍ですからね(笑)。
「瓔珞」以来の痛快なヒロイン(小酒)
──口コミで広がった作品ということで、小酒さんには中国のサイト・douban(豆瓣)のレビューをいくつか拾ってきていただきました。
ゆんちゃん doubanのユーザーは辛辣ですよね!(笑) 辛口でけっこうひどい。
小酒 すごく厳しいですよね(笑)。この作品も予算規模の大きな作品じゃないので、衣装にお金がかかっていないといった指摘をしている人もいました。ポジティブなコメントとしては「今まで作られてきたラブコメ時代劇とは違って考えさせられるところがある深みのある作品」「よくある“お屋敷もの”の闘争劇と見せて、現代的なスピリットが込められている」「キャラ設定は『明蘭~才媛の春~』を彷彿とさせるが、現代的でステレオタイプではない」といったものだったり、「セリフに二重の意味が込められていたり、ユーモアがあったり脚本が工夫されている」「ストーリーがよくできているし、テンポがいい。ハイライトがたくさんある」「どんでん返しがうまい」といったものがありました。
小酒 一番多かったのが「ヒロインは自立心があって勇敢。現代的なところがいい」という意見ですね。でもこれは逆に、歴史的な女性像とはかけ離れているといった指摘も。あとは、主演の2人が自分の声で演じていることも話題になりました。シュー・ジェンシーが時代劇ドラマで吹替を使っていないのはおそらく初めてで、彼のセリフについては賛否両論という感じ。中国の視聴者ってそもそも俳優のセリフに対してものすごく厳しいですよね。例えるならNHKのアナウンサー並みのきれいな発音や話し方で演技することが求められているようで、そこは日本とは違うなと思います。
しーちゃん 確かに最初に梁翊のセリフを聞いたときに、ちょっと時代劇っぽくないなという印象はありましたね。でも慣れれば気にならない。逆にすごくアフレコな感じがすると自分の声じゃないってわかっちゃうので、原音のドラマはうれしいなって思います。
──小酒さんは、このドラマをリアルタイムで追いかけていたと聞きましたが、いかがでしたか?
小酒 最近の中国時代劇って、ヒロインが現代的になる傾向はあるんですけど、このドラマは突き抜けて、現代的な思考のキャラクターにしているなって思うんです。梁翊は役人で事件解決のためには拷問もいとわない怖い人。でも秋嫣はそんな相手にも怯まず、対等に言い返しますよね。「瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」以来の痛快なヒロインだなと。「男がやれば褒められることも、女がしたら恥ずべきことと言われるのは納得いかない!」みたいな、そこまで言う時代劇のヒロインってあまりいないので、新鮮だなと思いました。彼女と梁翊はどちらも策略家のカップルで、お話の展開は視聴者をもだますサスペンスフルなもの。中国時代劇のトレンドを押さえたドラマだと思います。
──中国時代劇のヒロインが現代的なキャラクターとして描かれることは増えているんですか?
ゆんちゃん 最近多いですね。中国では女性の権利がよく話題に上りますし、男女平等であるべきだという考えも強いんです。だから女性が商売で成功したり、何か階級が上がっていくようなタイプのドラマは増えています。
しーちゃん ヒロインのセリフを通して何かを訴えかける、今回の作品はそれが顕著ですよね。現代劇の場合はリアリティがある程度求められますけど、時代劇はちょっと大げさな設定にしても受け入れられやすい。だから時代劇のほうが、より爽快感のあるものが作れると思います。
ゆんちゃん そうそう。現代劇で秋嫣のようなキャラクーが出てくると、この子、協調性ないんかな?ってなってしまう(笑)。
小酒 女性の権利がまったく守られていなかったり、虐げられている背景があるから視聴者が入り込みやすいんですよね。「策略ロマンス」では、秋嫣の結婚相手が突然死んでしまって、彼女はしきたりに従って妻のあなたにも死んでもらいますと言われてしまう。そんな理不尽な状況を見ていると「そんなシステムぶっ壊せ!」という気分になれる。
ゆんちゃん このドラマの衣装を見ていると、唐の時代をモデルにして作られているなと思うんです。唐は武則天とか楊貴妃が生きた時代で、女性が解放的になった時期。そういう背景も意識して、ヒロインを強いキャラクターに作っているのかなと。秋嫣を演じているチャオ・シンは私たちと一緒のハルビン出身の女優さんで、中国の東北のちょっと強い感じがうまく出ている。
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梁翊はどんどんかっこよく見えていく(ゆんちゃん)