リハーサルに行ったら絶壁があって「おいおい……」(永瀬)
──麟太郎の姉と兄は、戸田恵梨香さんと窪塚洋介さんが演じています。染谷さんはお二人にどんな印象を持っていますか?
染谷 戸田さんは姉貴って感じです。自分は何もしてないのに初日から姉弟だって思わせてくれて、ただ甘えてました。後ろからちょこちょこ付いて行くだけで弟になれた。洋介さん演じるシュン兄とは劇中で15年ぶりに対面するシーンがあるんですけど、「キター!」って感じでした。洋介さん、めちゃめちゃかっこいいですからね。映画を観る方と同じような気持ちになっていたかもしれません。
永瀬 僕も窪塚くんとはすごく久しぶりだったので、撮影前から楽しみでした。
──永瀬さんは今回クライミングにもチャレンジしています。命綱を装着して自ら登ったと伺いました。
永瀬 大変だったんですよ。台本を読んだときはゆるやかな山をハイキングするんだと勘違いしていたんです。リハーサルに行ったら絶壁があって「おいおい……」って。最初は無理だと思ったんですが、コーディネートしていただいたのがベテランの方で「すぐ登ろう」ということになり。
染谷 ははははは。
永瀬 「手で登ったらダメ。足で登るんだよ山は」というヒントをいただいて、数mから徐々に距離を伸ばしていきました。少年時代のシュンを演じた楽駆くんと一緒だったんですけど、歳の差ですかね、彼はスススッと登っていく。ちょっと焦った覚えがあります(笑)。スポーツクライミングは2020年の東京オリンピックの競技に選ばれましたけど、今はクライマーの方たちを尊敬してますね。
──病気を患っている役ということで体重を落としたとも聞きました。
永瀬 そうですね、クライミングのときもあまり食べてなかったから疲れて(笑)。劇中に出てくる食事以外はあまり食べてなかったです。撮影が終わったある日、かやくご飯がお弁当として出たことがあったんですけど、それをどうしても食べたかった。新幹線の時間も迫っていて全部食べ切る勇気がなかったんですが、森七菜さんがおにぎりを握ってくれたんです。新幹線の中で食べているとき、人の手がちょっと加わるだけでこんなに食事っておいしくなるんだと思って。映画の中で麟太郎たちが食べていたのはこういうものだったのかと気付きました。
──染谷さんは印象的だった食事はありますか?
染谷 映画はまずいラーメンを食べる場面から始まるんですけど、それが戸田さんと初めて撮影したシーンなんです。そのラーメンが本当にまずくて、塩分で手がパンパンになりました(笑)。
──おいしかったものはないですか?(笑)
染谷 いや、もちろんほとんどのものはおいしかったです。おはぎをガッツリ食べたのも思い出に残ってます。水分を取られてむせるんですけど、それによって麟太郎の中に溜まっていたものが出るという描写になっていて。台本を読んだときもたまらなくて、最高だなと思いました。
白いパズルがそろった先に…(染谷)
──「最初の晩餐」では「家族とは何か?」ということがテーマになっていると思います。でも答えを提示してくるわけではないから、染谷さんが最初におっしゃっていたようにまったく説教臭くなっていません。観客の想像力を掻き立てる内容になっていると感じるのですが、観たあとで家族観に変化はありましたか?
染谷 変化というよりは、家族に属してることを再認識しました。帰るところである一方、旅立てる、外に羽ばたいて行ける場所だなと。家族間では嫌なことも起こると思うんですが、それがエネルギーになって背中を押してくれることもある。
──麟太郎も、家族の複雑さを味わうことで一歩前に進む気がします。
染谷 家族の記憶を巡り、おいしさ、温もり、悲しさとかすべてを引っくるめて一歩踏み出せる。「この出来事があったから成長できた」というわかりやすい描写ではない、いい意味での曖昧さに感動しました。白いパズルがそろった先に見える景色は皆さん違う。そんな映画だと思ってます。
永瀬 安心感を抱いたり、逆にぶつかり合ったり、それは嘘のない家族の形ですよね。僕は九州出身なのでしょっちゅう親の顔を見に帰れていたわけではないんです。そんな中、去年突然おふくろが亡くなってしまって。それからは好きじゃないと思っていた面も愛おしくなりました。
染谷 好んでいなかったものが愛しくなるという話だと、今ふと祖母が作るかぼちゃの煮物を思い出しました。あまり好きじゃなかったんだけどなあ……でも当時の記憶がよみがえってきました。
──映画の内容と重なる部分がありますね。
永瀬 食べたいですね、染谷家のかぼちゃの煮物。戸田家とか窪塚家の名物も食べたい。あと、僕はやっぱり子供がいたらいいなと思いました。若い頃から欲しかったんですが恵まれなかったので、どういう形でもいいから欲しい。この作品のように3人がいいな。
- 「最初の晩餐」
- 2019年11月1日(金)より全国公開中
- ストーリー
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65歳になる直前、父が死んだ。独立して2年目となるカメラマンの東(あずま)麟太郎と彼の姉・美也子は、通夜で久しぶりに親戚たちと顔を合わせることになった。そんな状況で、仕出し屋をキャンセルした母が出した“通夜ぶるまい”は、父が初めて子供たちに作った料理であるチーズ目玉焼き。思い出の味をきっかけに父との時間がよみがえり、家族の秘密が浮かび上がっていく。そして通夜ぶるまいが終盤に差し掛かったとき、22歳の誕生日に突然家を出ていった兄・シュンが15年ぶりに帰って来て……。
- スタッフ
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監督・脚本・編集:常盤司郎
撮影:山本英夫
- キャスト
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東麟太郎:染谷将太
北島(東)美也子:戸田恵梨香
東シュン:窪塚洋介
東アキコ:斉藤由貴
東日登志:永瀬正敏
東美也子(少女時代):森七菜
東シュン(少年時代):楽駆
東麟太郎(少年時代):牧純矢 / 外川燎
- 「最初の晩餐」公式サイト
- 映画「最初の晩餐」公式 (@bansanmovie) | Twitter
- 映画「最初の晩餐」公式 (@bansanmovie) | Instagram
- 「最初の晩餐」作品情報
©2019『最初の晩餐』製作委員会
- 染谷将太(ソメタニショウタ)
- 1992年9月3日生まれ、東京都出身。9歳のときに「STACY」で映画初出演を果たし、2009年に「パンドラの匣」で主演を務める。その後「ヒミズ」「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」「寄生獣」「映画 みんな!エスパーだよ!」といった作品にも主演。2018年に公開されたチェン・カイコーの監督作「空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎」では主人公の空海に扮した。2020年には「シライサン」「初恋」の公開を控えており、同年1月より放送されるNHK大河ドラマ「麒麟がくる」では織田信長を演じる。
- 永瀬正敏(ナガセマサトシ)
- 1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。1983年に相米慎二の監督作「ションベン・ライダー」でデビュー。1989年、ジム・ジャームッシュの「ミステリー・トレイン」で主演を務め、国際的な評価を得る。その後は山田洋次の「息子」やハル・ハートリーによる「フラート」、園子温の「自殺サークル」など数多くの映画に出演した。2016年には再びジャームッシュ監督作「パターソン」 に参加し、2017年に河瀨直美の「光」で主演。2020年には山本直樹の短編マンガを実写化した「ファンシー」の公開を控える。