染谷将太、戸田恵梨香、窪塚洋介、斉藤由貴、永瀬正敏が家族を演じた「最初の晩餐」が11月1日より公開されている。同作で描かれるのは一風変わった“通夜ぶるまい”。仕出し屋を突然キャンセルした母が、亡き父と子供たちとの思い出の料理であるチーズ目玉焼きを振る舞ったことで、家族の秘密が浮き彫りになっていく。
この特集では末っ子を演じた染谷と、父に扮した永瀬のインタビューをお届け。共演シーンがほとんどなかったという2人はどのように関係性を築いたのか? また、染谷は表面的なやさぐれを意識したという役作りを回想し、永瀬は命綱を装着して自ら登ったクライミングシーンの撮影に言及。終盤では「家族とは何か?」という映画のテーマを軸に、2人の家族観に迫る。
取材・文 / 小澤康平 撮影 / 小田駿一
染谷将太:ヘアメイク / AMANO スタイリング / 清水奈緒美
永瀬正敏:ヘアメイク / 勇見勝彦(THYMON) スタイリング / 渡辺康裕(W) 衣装協力 / YOHJI YAMAMOTO
ここまで過去の出し入れがうまい脚本は稀(永瀬)
──「最初の晩餐」は、短編オムニバス「CINEMA FIGHTERS」で「終着の場所」を手がけた常盤司郎さんの長編監督デビュー作です。2014年に脚本が完成し、キャストの中では染谷さんの出演が最初に決まったと伺いました。出演の決め手はなんだったんでしょうか?
染谷将太 脚本を読んだとき、とにかく説教臭くないと思ったんです。家族ものですけど、「家族ってこうだよね」というわかりやすい提示がなかった。それが嘘っぽくなくて心を打たれました。
──説教臭くないというのはどういった部分から感じたんですか?
染谷 ジグソーパズルのピースがそろっていって絵が見えてくるということではなく、パズルはそろってるんだけど絵は真っ白みたいな。斉藤由貴さん演じる母が通夜ぶるまいとして出すチーズ目玉焼きとか、食事をきっかけに家族の過去が明らかになっていって、一度は欠けてしまった何かが確かにそろいはするんです。でも、だからハッピーってわけではない。その複雑さがリアルで素敵だなと。
永瀬正敏 複雑であるという部分には僕も魅力を感じたな。染谷くんがオファーを受けたのはもう5年くらい前だよね?
染谷 そうですね。
永瀬 そのときにはまだ付いていなかったかもしれないんですが、僕が台本をいただいたときはすでに「最初の晩餐」というタイトルがあって、すごくいいなあと。そこでもう興味を引かれました。どういう意味なんだろうと思いながら読み始めたら、時間を忘れるほど引き込まれて。ここまで過去の出し入れの仕方がうまい脚本は稀です。
──確かに映画には回想シーンが多く含まれています。
永瀬 回想の扱い方って難しくて、ただの謎解きだったり説明になってしまいがち。でもこの作品は回想の組み込み方が秀逸で、そこに物語として違和感のないエピソードが描かれている。これは回想に逃げてるのかなと演者としては思ったりするんです。それが一番簡単な方法だよねって。「最初の晩餐」はそうではなかった。
吐き出し方がわからなくなったとき、表面的にやさぐれる(染谷)
──お二方は子と父という役柄で共演していますが、染谷さんは現在パート、永瀬さんは過去パートに出演していたので、一緒のシーンはほとんどなかったように思えます。その中でどう関係性を築いていったんでしょうか?
永瀬 最初に過去パートを撮影したんです。それからちょっと間が空いて現在パートを撮り始めたんですけど、染谷くんは僕らがどんなふうに撮影をしていたかをチェックしていたみたいで。
染谷 そうですね、映像で何カ所か観させていただきました。過去と現在の間に存在する時間を意識しながら表現すべきだと思っていたので。
──どんなことを意識したんですか?
染谷 末っ子というのは頭に置いていました。僕も末っ子なんですけど、麟太郎は家族の中で一番周りを見ている人間だと思うんです。あと、おしゃべりでもないし積極的に自分の意見を言うわけではないけど、心の中ではずっと何かを考えている。東京に出てきて、きっと細かい挫折がたくさんあって……根本的な考え方は変わらないけど、表面的にやさぐれたんじゃないかと思って演じました。
──カメラマンとしての仕事もうまくいってないですし、社会の荒波に揉まれていく中で変化したと。
染谷 きっと子供のときはもうちょっとピュアに気持ちを吐き出せていたと思うんです。大人になり、その吐き出し方もわからなくなって溜まっていくだけになったとき、表面的にやさぐれるのかなって。そういう気持ちはすごくわかりました。
永瀬 そういう変化を含め、完成した映画を観たときに小さい頃の子供たちと大人になった彼らとを比べても、まったく違和感がなかった。たぶんそこがしっくり来なかったら、映画としても「うーん、これは……」と感じていたと思うんです。ある意味ホッとしました。と、現在パートでは死体役で寝てただけの僕が言うのもおこがましいですが。
染谷 (笑)。過去パートの映像を観ていたとき、「僕もここに参加したい」と感じるような素敵なシーンがたくさんありました。
永瀬 ありがとね(笑)。
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リハーサルに行ったら絶壁があって「おいおい……」(永瀬)
- 「最初の晩餐」
- 2019年11月1日(金)より全国公開中
- ストーリー
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65歳になる直前、父が死んだ。独立して2年目となるカメラマンの東(あずま)麟太郎と彼の姉・美也子は、通夜で久しぶりに親戚たちと顔を合わせることになった。そんな状況で、仕出し屋をキャンセルした母が出した“通夜ぶるまい”は、父が初めて子供たちに作った料理であるチーズ目玉焼き。思い出の味をきっかけに父との時間がよみがえり、家族の秘密が浮かび上がっていく。そして通夜ぶるまいが終盤に差し掛かったとき、22歳の誕生日に突然家を出ていった兄・シュンが15年ぶりに帰って来て……。
- スタッフ
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監督・脚本・編集:常盤司郎
撮影:山本英夫
- キャスト
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東麟太郎:染谷将太
北島(東)美也子:戸田恵梨香
東シュン:窪塚洋介
東アキコ:斉藤由貴
東日登志:永瀬正敏
東美也子(少女時代):森七菜
東シュン(少年時代):楽駆
東麟太郎(少年時代):牧純矢 / 外川燎
- 「最初の晩餐」公式サイト
- 映画「最初の晩餐」公式 (@bansanmovie) | Twitter
- 映画「最初の晩餐」公式 (@bansanmovie) | Instagram
- 「最初の晩餐」作品情報
©2019『最初の晩餐』製作委員会
- 染谷将太(ソメタニショウタ)
- 1992年9月3日生まれ、東京都出身。9歳のときに「STACY」で映画初出演を果たし、2009年に「パンドラの匣」で主演を務める。その後「ヒミズ」「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」「寄生獣」「映画 みんな!エスパーだよ!」といった作品にも主演。2018年に公開されたチェン・カイコーの監督作「空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎」では主人公の空海に扮した。2020年には「シライサン」「初恋」の公開を控えており、同年1月より放送されるNHK大河ドラマ「麒麟がくる」では織田信長を演じる。
- 永瀬正敏(ナガセマサトシ)
- 1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。1983年に相米慎二の監督作「ションベン・ライダー」でデビュー。1989年、ジム・ジャームッシュの「ミステリー・トレイン」で主演を務め、国際的な評価を得る。その後は山田洋次の「息子」やハル・ハートリーによる「フラート」、園子温の「自殺サークル」など数多くの映画に出演した。2016年には再びジャームッシュ監督作「パターソン」 に参加し、2017年に河瀨直美の「光」で主演。2020年には山本直樹の短編マンガを実写化した「ファンシー」の公開を控える。