映画ナタリー PowerPush - ナタリー×「龍三と七人の子分たち」

ジジいいね!北野武監督インタビュー

早撃ちのマックのシーンは、編集しながらゲラゲラ笑った

──近藤正臣さん、中尾彬さんらが演じた子分たちも強烈な個性でしたね。中尾さんは「アウトレイジ」シリーズに続いての起用ですが、厚く信頼しているということでしょうか?

左から龍三親分、若頭のマサ(近藤正臣)。

近藤さんは、藤さんとほかのジイさんたちのつなぎ役をやってもらわないといけなかったから、難しかったと思うよ。龍三の兄弟分ということにしてあるけど、ちょっと毛色の違うインテリヤクザな感じにしたいと思ったんだよね。中尾さんは、とにかく顔が知られていて笑いが取れるから。最後、ああいう形で笑わせることができるのは中尾さんだけだと思う。

──バスの暴走シーンには、大ベテランだろうがご老人だろうが容赦しない、という監督の強い意志が表れているように見えました。

容赦しなかったのはスタントの人だよ。スタントの人たちって、自分の運転に集中しすぎてテンション上がっちゃうから(笑)。そこで遠慮しちゃうと、映像の迫力がなくなってあの人たち落ち込んじゃうんだよ。役者たちはみんな必死でつかまってたみたい。でも、藤さんは指を詰めてる役だから指3本でつかまっていて。普通につかまればいいって伝えたんだけど、「いや、役ですから」って。そのあと「死にそうになった」って言ってたよ(笑)。

仁義を切る早撃ちのマック(品川徹)。

──監督一番のお気に入りキャラクターは誰ですか?

やっぱり品川(徹)さんがやった早撃ちのマックだね。若いチンピラに「おひかえなすって」って言っても伝わらないっていうやりとりは完全に漫才。編集しながらゲラゲラ笑っちゃったよ。外国じゃ通じねえなあって思ったけど。

みんなけっこういい服着てるんだよ、そうは見えないけど

──今、外国という言葉が出てきましたけど、海外のファンには「キタノブルー」という北野監督独特の映像の色味が浸透しています。でも今回はまったく違う鮮やかな色味でした。

ブルーがかったモノトーンタッチは、シリアスに見えるから。お笑いなしのヤクザ映画ならいいんだけど、今回はバカバカしいシーンがかなり出てくるんでね。トーンを抑えることはしないで、いろんな色を出しちゃって構わないなと。

龍三親分と子分たち。左からステッキのイチゾウ(樋浦勉)、若頭のマサ、五寸釘のヒデ(伊藤幸純)、龍三親分、カミソリのタカ(吉澤健)。

──そう考えると衣装も派手でした。

衣装の黒澤和子さんは「アウトレイジ」でもお世話になってる人だから、「今回はお笑いだよ」って伝えただけ。黒澤さんがいいところの服を借りてくるから、けっこういい服着てるんだ、みんな。そうは見えないかもしれないけど(笑)。

──一方、鈴木慶一さんによる音楽はコミカルなシーンでも抑えた感じでしたね。

北野武監督

お笑いのシーンにお笑いの音楽っていうのはね、ちっとも面白くならない。殺し屋が車で落語を聞いているとか、関係ない音が入ってるほうがいいシーンになるんだよね。

──バンドネオンの音色にすごく哀愁が漂っていて、純粋なコメディではないなというのが伝わってきます。

ジイさんたちと若いやつらのギャップが、ストーリー展開の中でお笑いに変わっていくんだけど、よく考えたら孤独なジイさんたちが若いやつらに騙されてっていう悲しい話でもあるんだよね。初めは大爆笑でいいんだけど、そのうち悲しい部分もあるって気付いてもらえれば、こっちの作戦通りだね。

「龍三と七人の子分たち」 2015年4月25日 全国公開

「龍三と七人の子分たち」

70歳の高橋龍三(藤竜也)は、「鬼の龍三」と呼ばれおそれられていた元ヤクザの組長。ある日、オレオレ詐欺に引っかかったことをきっかけに、元暴走族で構成される「京浜連合」と因縁めいた関係になる。詐欺や悪徳商法を繰り返す「京浜連合」にお灸を据えるため、博打好きの兄弟分「若頭のマサ」(近藤正臣)や寸借詐欺で生活する「はばかりのモキチ」(中尾彬)、戦争に行ったこともないのに今でも軍服に身を包む「神風のヤス」(小野寺昭)、ほかにも「早撃ちのマック」「ステッキのイチゾウ」「五寸釘のヒデ」「カミソリのタカ」という異名を持つ仲間たちと「一龍会」を結成。次々に「京浜連合」の活動を妨害していくが……。

スタッフ

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一

キャスト

龍三親分:藤竜也
若頭のマサ:近藤正臣
はばかりのモキチ:中尾彬
神風のヤス:小野寺昭
早撃ちのマック:品川徹
ステッキのイチゾウ:樋浦勉
五寸釘のヒデ:伊藤幸純
カミソリのタカ:吉澤健
京浜連合ボス・西:安田顕
京浜連合・北条:矢島健一
京浜連合・徳永:下條アトム
龍三の息子・龍平:勝村政信
キャバクラのママ:萬田久子
マル暴の刑事・村上:ビートたけし

毎週更新!カウントダウン・インタビュー

「龍三と七人の子分たち」オフィシャルサイトにて掲載中
芸人 松村邦洋
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監督 北野武
北野武(キタノタケシ)

1947年1月18日、東京都生まれ。1989年、「その男、凶暴につき」で監督デビュー。以降「3-4x10月」「ソナチネ」「みんな~やってるか!」などの作品を世に送り出し、7作目の長編「HANA-BI」が、第54回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞。日本映画としては39年ぶりの快挙となった。その後も、日英合作の「BROTHER」、第60回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞した「座頭市」、映画への思いを描いた「監督・ばんざい」などコンスタントに作品を発表。近年では、“全員悪人”のバイオレンスエンタテインメント「アウトレイジ」「アウトレイジ ビヨンド」を手がけ、話題を呼んだ。「龍三と七人の子分たち」は、17作目の監督作品となる。