「竜とそばかすの姫」Blu-ray / DVDが発売!中村佳穂やmillennium paradeのアンサンブルがもたらす、音楽映画としての忘れがたい体験

細田守が監督を務めた長編アニメーション「竜とそばかすの姫」のBlu-ray / DVDが4月20日に発売される。ソフトはBlu-rayのスペシャルエディションとスタンダードエディション、DVDのスタンダードエディションの3形態。スペシャルエディションには、4時間を超える特典映像が収録されている。

50億人以上が集う仮想世界<U(ユー)>と現実世界を舞台に、高校生すずの成長を描いた本作。ミュージシャンの中村佳穂がすずに声を当て、常田大希率いるmillennium paradeがメインテーマ「U」を手がけた。この特集では、音楽映画としての「竜とそばかすの姫」の魅力を解説。さらにプロデューサーの齋藤優一郎と谷生俊美に、歌を取り入れた理由やソフトの楽しみ方について聞いた。

文(レビュー) / 黒田隆憲取材・文(対談) / 小澤康平

黒田隆憲 レビュー

「音楽映画」として忘れがたい成長物語

「時をかける少女」(2006年)や「おおかみこどもの雨と雪」(2012年)、「バケモノの子」(2015年)など、日本のアニメ史に残る作品を数多く手掛けてきた細田守が監督を務めた新作「竜とそばかすの姫」のBlu-ray / DVDが4月20日に発売される。

「竜とそばかすの姫」

「竜とそばかすの姫」

「竜とそばかすの姫」は、50億人以上が集うインターネット仮想世界<U(ユー)>と現実世界を行き来する長編アニメーション。高知県の田舎町に住む女子高生すずは、幼い頃に母親を事故で亡くして以来、現実世界では心を閉ざして生活している。しかし、とあるきっかけで仮想世界<U>と出会い、その世界では歌姫・ベルという名の「As」(アバター)としてカリスマ的な人気を獲得していく。ある時ベル(すず)は、<U>の住民たちから忌み嫌われている竜の存在を知り、その正体を確かめようと奔走することに。その過程で、幼なじみで学校の人気者しのぶくんや、学校一のヒロインであるルカちゃんら様々な人たちと交流を重ねながら、自身の過去と対峙し成長していく過程を描いた壮大な物語だ。

「竜とそばかすの姫」より、すず。

「竜とそばかすの姫」より、すず。

「竜とそばかすの姫」より、ベル。

「竜とそばかすの姫」より、ベル。

これまでの作品(「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」「未来のミライ」)では音楽家の高木正勝を起用するなど、音楽に対して並々ならぬこだわりを持つ細田監督。今作は、主人公ベル(すず)役にミュージシャンの中村佳穂を抜擢し大きな話題を集めた。「ヴァーチャル空間では圧倒的な『歌声』で人々を魅了していく、名も無き女子高校生」という非常に難しい役どころだが、これを説得力のあるボーカルで演じられるのは中村をおいて他にいないだろう。スマートフォンにバンドルされたソフトを駆使して作曲したり、川原で鼻歌を歌いながら徐々にオリジナルソングへと発展させていったり、音楽好きは思わずニヤリとしてしまうシーンが本作にはちりばめられているが、そこに中村の声が乗ることでさらにリアリティを帯びていたのが印象的だった。

「竜とそばかすの姫」

「竜とそばかすの姫」

素朴でちょっとおっちょこちょいな、しかし心の奥に深い悲しみと優しさを抱くすずを、声優初挑戦にして何の違和感もなく演じたポテンシャルにも唸らされたが、本作の見どころ / 聴きどころは、やはり歌姫ベルとして彼女が歌う数々の劇中歌だ。今回、音楽監督 / 音楽には、映画「SR サイタマノラッパー」シリーズや「モテキ」などで知られる岩崎太整を起用。彼が作曲し、中村、細田監督とともに作詞を手掛けた楽曲「はなればなれの君へ」は、本作のクライマックスで流れる美しくドリーミーなバラードで、ピアノとストリングスを基軸としたアレンジ、ファルセットと地声を巧みに使い分ける中村のボーカルが耳に残る。なお、この曲の後半に出てくるシンガロングは、Twitterにて所定の応募方法(「エキストラシンガープロジェクト」)でアップロードされた一般の人々の歌声をミックスしている。一方、ベルと竜が心を通わせるシーンで歌われる「心のそばに」(作詞:細田守・中村佳穂・岩崎太整、作曲:岩崎太整)は、マーチングドラムやホーンをフィーチャーした壮大なオーケストラにより、個人的にはビョークの「Jóga」を連想した。

「竜とそばかすの姫」

「竜とそばかすの姫」

サントラには岩崎に加え、「メタルギア ソリッド」シリーズや「デス・ストランディング」の音楽制作にも携わったLudvig Forssellと、米津玄師「STRAY SHEEP」(2020年)のレコーディングに全面参加したほか、ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」のサウンドトラックなどでも知られる坂東祐大も参加。エレクトロ楽器からクラシック楽器まで自在に用いて作品を盛り上げている。

さらに主題歌「U」は、常田大希率いるmillennium paradeが担当。石若駿による躍動感あふれるリズム、MELRAWのアレンジによるホーンセクションを全面的にフィーチャーしてみせた。

「竜とそばかすの姫」

「竜とそばかすの姫」

音楽監督の岩崎太整をはじめ、Ludvig Forssell、坂東祐大が手掛けたサウンドトラックやmillennium paradeによるアンサンブル、そして何より中村佳穂の類稀なる歌声と演技力が、本作を「音楽映画」として忘れがたいものにしている。

プロデューサー齋藤優一郎×谷生俊美 Q&A

左から谷生俊美、齋藤優一郎。

左から谷生俊美、齋藤優一郎。

Q:「竜とそばかすの姫」の興行収入は66億円に達し、細田守監督としてもスタジオ地図としても、もっともヒットした作品となりました。この結果をどう受け止めていますか?

齋藤優一郎 2021年7月16日公開だったのですが、緊急事態宣言の発出中で座席数は半分、レイトショーも基本的には実施できませんでした。上映時間は2時間以上で、20時に映画館が閉まるとなると18時前には観始めていただかないといけない状況の中、いい結果を出すことができたのはうれしかったです。日本以外の国を含め、誰かとの共有体験を求めてらっしゃる方が多かったと考えていて、その方々の人生や心を少しでも豊かにできたのであれば光栄です。

谷生俊美 東京オリンピックが開幕する7月23日より前に緊急事態宣言が出されることはないだろうと予想していたので、正直、希望を打ち砕かれたような心境ではありました。その中で66億円という結果を出すことができたのは、作品の中に含まれている時代に沿ったメッセージ性が、物語を通して人々に伝わったからだと感じています。「久しぶりに映画館に行ってみよう」と、この映画をきっかけに考えてくださった方もいたかと思いますし、記憶に刻まれる体験になっていたらうれしいです。

Q:この映画には、インターネットに希望を見出すことで、若者1人ひとりに何かを打ち立ててほしいというメッセージが込められていると思います。製作を通してインターネットとの向き合い方は変わりましたか?

齋藤 メタバース(仮想空間)が舞台になってはいますが、細田さんはそれ自体を描きたかったわけではなく、そこでの営みや個人を通して未来を描いたのだと思っています。なのでインターネットとの向き合い方が変わったというよりは、未来の世界で人は何を大事にして生きていくのかを、世界中の観客の方々と議論させていただいた気がします。つらい時代でも生き抜くんだとか、自分も他人も大事にしてともに生きていくとか、今後の在り方は考えさせられましたね。

「竜とそばかすの姫」

「竜とそばかすの姫」

Q:最初の企画段階では、ミュージカル要素の強いアニメーションを想定していたそうですが、歌を大事な要素として取り入れた理由は?

齋藤 すずにとっては自分を表現できる手段が歌で、若者1人ひとりが持っている才能や自己を描出するという意味ではほかのどんなものであってもよかったのですが、細田さんの中にミュージカルをやってみたいという気持ちがあって。企画書ができる前から歌ものをやりたいと言っていましたね。おそらく、今まで日本のアニメーションではあまり取り入れられていないことだからだと思います。結果的に「竜とそばかすの姫」は人間が持つ二面性やアイデンティティの物語として帰結したので、ミュージカルとは違った形になったかもしれませんが、心の表現手段として歌を選んだのは正解でした。劇中歌はセリフ同様に英語やフランス語など、さまざまな言語で吹替され、全世界で公開されています。今後もしかしたら、細田さんがど真ん中のミュージカルをやりたいと言うかもしれませんが(笑)。

Q: Blu-rayのスペシャルエディションには、4K / ドルビービジョンの高精彩HDR映像およびドルビーアトモスの立体音響を楽しむことができるULTRA HD Blu-rayと、4時間を超える特典映像が収められます。見どころを教えていただけますか?

谷生 映画館と家庭用モニタでは見え方が違うことを踏まえて、細田監督が実際に調整の作業をしています。特典映像もソフトにしか入っていないものがほとんどなので、作品をより詳しく知りたい方には、休日にひたすら観るみたいな楽しみ方をしていただければと。装丁も素敵なので部屋に飾っても絵になると思います。

「竜とそばかすの姫」スペシャルエディションの展開図。

「竜とそばかすの姫」スペシャルエディションの展開図。

プロフィール

齋藤優一郎(サイトウユウイチロウ)

1976年11月5日生まれ、茨城県出身。1999年にアニメーション制作会社・マッドハウスに入社し、細田守の「時をかける少女」「サマーウォーズ」などをプロデュースする。2011年に細田とともにアニメーション映画制作会社・スタジオ地図を設立。「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」「未来のミライ」「竜とそばかすの姫」を企画・製作した。

谷生俊美(タニオトシミ)

1973年9月26日生まれ、兵庫県出身。2000年に日本テレビに入社し、社会部、外報部(現・国際部)で記者として活躍。2012年に報道局から編成局編成部に異動して「金曜ロードショー」のプロデューサーとなった。現在は映画事業部でプロデューサーを務める。