全編がパソコンの画面上で展開する「search/サーチ」で世界を驚愕させたアニーシュ・チャガンティの最新作「RUN/ラン」が、6月18日に公開される。本作は生まれつきの病気で車椅子生活を送る17歳の娘クロエと、彼女にゆがんだ愛情を注ぐ母親ダイアンの関係を描くサイコスリラーだ。
映画ナタリーでは、ホラー映画好きのトム・ブラウンみちおを迎え、本作の感想を聞いた。「僕も笑顔が怖いと言われる」とこぼしたみちおは、スリラーでありながら車椅子でのアクション要素も入った本作に驚嘆。さらに、時に狂気的なキャラクターのネタを披露するみちおが、ホラー映画から受けた影響も明かしている。
取材・文 / 山里夏生 撮影 / 小林恵里
家族みんなでレンタルビデオ店に行ってました
──みちおさんはホラー映画がお好きだとか。特にお気に入りの作品はありますか?
ゾンビものが好きなんですけど、その中でも「死霊のえじき」が一番好きです。あとは、小説家がファンに閉じ込められちゃう「ミザリー」とか“人間怖い系”の作品も好きですね。
──最近はどんな作品をご覧になりましたか?
「ゲット・アウト」などを製作したブラムハウス・プロダクションズの映画は注目していますね。あと、最近では「ゴーストランドの惨劇」という「マーターズ」の監督(パスカル・ロジェ)が撮ったホラーが超怖かったです! 怖すぎて笑う作品ってあるじゃないですか。でも「ゴーストランドの惨劇」は、怖すぎて本当に怖いっていう。「ホステル」を最初に観たときと同じくらい「もうやめて!」となる怖さでした。
──幅広くチェックされているんですね。昔から映画はよくご覧になっていたのでしょうか?
子供の頃に親父やお姉ちゃんと一緒にレンタルビデオショップに行ってました。休日にはラーメン屋か、ゲームセンターか、ビデオショップ行くかみたいな。で、ビデオショップで1時間くらい掛けて1人1本選んだものを、家族みんなで観ていたんですよね。それで自然と映画を観ていた記憶があります。
ゆっくり動いているのにノンストップアクションに見えてくる
──では、ホラー映画好きのみちおさんから観た本作の率直な感想を教えてください。
怖かったです! サイコスリラーなんで、精神的に一番怖くはなるんですよ。でも、ド派手なアクション映画に引けを取らないくらいのアクション性というのもあって。それに「おお!」と驚きました。
──アクション性というと?
主人公のクロエは車椅子に乗っているから動きとしては遅いんですけど、その分ノンストップアクションに見えてくるんですよね。ゆっくり動いているのにスピード感がある。そういう映画って今までにあまりなかったなと思いましたし、めちゃくちゃお金が掛かっているハリウッド映画に負けないくらいの見応えがありました。
──なるほど。確かに車椅子ならではのスリリングな演出は新鮮でした。
制限された状態でどう見せるかっていうのは、こういうスリラーやホラー映画のよさですよね。今回はそれがアクションのほうに転んだのがすごく面白かったですし、「クロエがんばれ!」と応援したくなりました。
──本作は「search/サーチ」を監督したアニーシュ・チャガンティの最新作ですが、「search/サーチ」はご覧になっていましたか?
はい、観ました! 「search/サーチ」は完璧な映画ですよね。全編パソコンの画面しか映らないと聞いて面白いのかな?って疑ってたんですけど、見事に撃ち抜かれました。しかもただ発想だけの映画ではなくて、ストーリーが抜群に面白いじゃないですか。二転三転していくからまったく結末が読めなかったです。
──そういう部分は「RUN/ラン」とも通じていますね。
そうですね。「RUN/ラン」も序盤では「ひょっとしてクロエの勘違いなのかな?」とか「どっちだ?」とじわじわストーリーに引き込んでおいて、終盤にかけて加速するスピード感がものすごかったですし。物語が3、4層からできているような感じがして、ずっと飽きずにのめり込んで観てしまいました。
僕も笑顔が怖いと言われるので、共通点があるかも
──全編にわたって緊張感が途切れない本作ですが、特にハラハラしたシーンはありますか?
全部ハラハラしましたけど、配達の車が来て助けてもらえるかと思いきや、母親のダイアンも帰ってきて……というシーンですね。あそこでダイアンが笑顔だったのに表情が急にパーン!って変わるところが怖かったです。あ、これヤバいやつ確定だなと思いました。あと、ネタバレになるから言えないんですけど、最後のほうに予告から想像も付かないようなことが起こりますよ、と言いたいですね。“胸糞系”の展開にも注目してほしいです。
──ダイアンを演じたサラ・ポールソンの演技についてはいかがでしたか?
めちゃくちゃ怖い演技でした! 何が怖かったってその落差ですね。クロエと楽しそうに話しているときは心からの笑顔を見せてる分、狂気に走ったときの落差がすごい。しかもその数分後にはまた笑顔に戻るんですけど、どこか最初とは違う顔になったりするところにゾワゾワしました。
──みちおさんが出演された「劇場版ほんとうにあった怖い話~事故物件芸人~」では、みちおさんも笑顔なのに怖いという迫真の演技を披露していました。
いやいや、恐れ多いです。でも、僕も笑顔が怖いって言われるので、そういう意味ではちょっと共通点があるかもしれません(笑)。あと、ダイアンは狂気的でありながらちゃんとした愛情も持っているので、急に涙が出そうになるシーンもありましたし、ただ怖いだけじゃない感情になりましたね。
──では、ダイアンのもとから脱出しようとするクロエの演技はいかがでしたか? クロエ役のキーラ・アレンは、普段の生活でも車椅子を使用されているようです。
そうなんですか!? すごい! なんか足の持っていき方とかがすごくリアルだなと思ってたら、そういうことだったんですね。クロエが2階から1階に車椅子を投げるシーンで、届くか届かないかギリッギリの投げ方だったんですよ。マジの危なさじゃないのと思って観ていたんですが、実際にそこまでしか手が上がらないからだったんだなって、今思いました。
──先ほどクロエのことを応援したくなったとおっしゃっていましたが、どのシーンでそう思われましたか?
クロエが屋根の上を移動するシーンですね。体を引きずってるのに、あそこでもアクション映画のようなスピード感を感じました。あと細かいんですけど、移動する前に毛布を持って行くじゃないですか。なんでなんだろうと思っていたら、自分で割った窓ガラスの上にそれを掛けていて、それを観たときに「この映画は信頼できる」と思いました。
──細部までリアリティがありましたよね。体を張った演技がある一方で、繊細な表情も見せていました。
表情で言うと、弱っているときの顔が本当につらそうでしたよね。「本当に動けないんだ」って伝わってくるからこそ、がんばれと応援したくなる気持ちになりました。それに、列に並んでいる人に「私、体が不自由なので通してください」と言ったり、薬の情報を会話で引き出そうとしたり、頭がよくてしたたかな部分があるのがいいですよね。こういう賢い人間に僕もなりたかったなあと思いながら観ていました。
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