樋口真嗣が語る「レディ・プレイヤー1」|俺たちのスピルバーグが帰って来た!難解さゼロの体感型アドベンチャー

面白ければいいじゃん!あのスピルバーグが帰って来た

──名作映画へのオマージュや小ネタがちりばめられた本作ですが、特に気に入ったシーンはありますか?

樋口真嗣

ほとんど主役級のあるキャラクターがいるけれども、赤くたぎる溶岩の中に落ちて、どんどん沈み、それでも手だけがその表面から出ていて……「ターミネーター2」のそんなベタなネタをスピルバーグが!?ってかなり驚いて、動揺します。

──確かにわかりやすいシーンですね。

キャラクターを持ってくるだけじゃなくて、そこにさらに映画ネタを入れるっていう。近年のスピルバーグ作品からはアカデミー賞を狙ってる感じとか、年齢相応の立派な映画を作ろうという気持ちが伝わってくるじゃないですか。「レディ・プレイヤー1」には気持ちいいぐらいにそれがまったくない。

──今になって反動が来たんですかね?

やっぱり俺こっちだなっていうね。回ってきた稟議書に判子を押してるような自分に嫌気が差したのかもしれない(笑)。

──確かにここ数年のシリアスな作品しか観てない人からしたら、「これがスピルバーグ?」と思うかもしれません。

うん、もう「俺たちのスピルバーグが帰って来た!」と言っていいんじゃないですか? 「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」も当然好きですけど、本作と同じワーナー・ブラザース社で「グレムリン」や「インナースペース」などをプロデュースしていたあの頃のスピルバーグが……ってどっちかと言えばジョー・ダンテっぽいのかな?

「レディ・プレイヤー1」ポスタービジュアル

──“帰って来た感”はどのあたりから感じ取りました?

なくても成立するシーンにすごくお金がかかっているところとかね。あとから思い返せば意味のないシチュエーションなんですけど、それがすごく楽しい。予算が切迫したら確実に削られそうなシーンがしっかり残ってるのは映画の豊かさとしてもいいなと思います。なぜ面白いかの裏を探ればそこには理由があるんだけど、そんな細かいこと気にせず面白ければいいじゃんっていう。VRというみんなが怖くて手を出せない題材を軸に、そういうバイタリティでスピルバーグが制作したんだろうなって。そういえば音楽ってジョン・ウィリアムズじゃないですよね? 俺これは驚いたな。

──今回は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズで知られるアラン・シルヴェストリですね。

アラン・シルヴェストリはやっぱりロバート・ゼメキスの監督作ってイメージだからなあ。ジョン・ウィリアムズは断ったのかな? 「それなんかチカチカする映画でしょ? 私には無理だよ」みたいな(笑)。

──実際は「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」の仕事に専念するためだったようです。

ああ、そうなんだ(笑)。

VR世界でエヴァと使徒の戦いを後ろから見ていたい

──樋口さん自身はVR機器を持ってらっしゃいますか?

バーチャルボーイ(1995年に任天堂から発売されたゲーム機)も買ったのでVR歴は長いです。オキュラスリフト(オキュラス社製のヘッドマウントディスプレイ)は「シン・ゴジラ」の仕上げの真っ最中に最初に飛びついたら、うちのマシンじゃ非力で動かなくて、事務所に持って行ってやろうとしたらゴジラの計算でマシンが塞がっててできなかったり、PS VRで1日中ロボットの奴隷のように働かされたりしてます(笑)。でも、ヘッドマウントディスプレイを着けると目の周りにすごい汗をかくんですよ。だから不織布でできてる忍者マスクみたいなものを着けて、そのうえから機器を装着して。マスクが白だと乱反射を起こすから、黒じゃないと駄目っていう条件もあったり(笑)。

──ははははは。そうなんですね。

機器がもっとコンパクトになればうれしいんですけど、3D用の眼鏡ほど小型になるとはまだ思えないですし。

──では、もし自分がVR世界に入ることができたら何をしたいですか?

バトルとかは攻撃されたときに痛そうだからなあ。いや、もちろん実際は痛くないんだけど、FPS(ファーストパーソンシューティングゲーム)をやってても撃たれたとき痛い気になっちゃうんですよ。だから誰かが戦っているのを後ろから見ているぐらいでいいかな。エヴァと使徒の戦いとかをね。

「レディ・プレイヤー1」

──「パシフィック・リム」のイェーガーみたいに2人乗りだったらいかがでしょう。

相手によるけど、あとから怒られたりしたら嫌だもん。菊地凛子さんに「さっきの何!?」とか言われたらヘコむんで(笑)。

1回目はストーリーを堪能、2回目はキャラクター探しを楽しむ

樋口真嗣

──最後にスピルバーグをあまり知らない世代にも伝わるように、「レディ・プレイヤー1」の魅力を教えていただけますか。

スピルバーグがこれを撮ったという事実が一番面白いとは思うんですが、劇中のシーンで言えばそんなことしなくてもいいのにハラハラさせるところですかね。建物が手前に倒れる必要がないところでちゃんと手前に倒れてきて、主人公ギリギリセーフみたいな。

──なるほど。

動体視力が優れている若い方は、どんなキャラクターが出ているかに注目してもいいと思います。1回目はストーリーを堪能して、2回目はキャラクター探しを楽しむとか。「『レディ・プレイヤー1』に出てくる全キャラクター」みたいなのをまとめる人がそのうち出てきそうだよね。俺は最初のフレディ(ホラー映画「エルム街の悪夢」シリーズに登場するキャラクター)であきらめたけど(笑)。

「レディ・プレイヤー1」特集
原作者 アーネスト・クライン × 川原礫 対談
森崎ウィン×原作者 アーネスト・クライン×製作者 ドナルド・デ・ライン 鼎談
樋口真嗣が語る「レディ・プレイヤー1」
「レディ・プレイヤー1」
2018年4月20日(金)全国公開
「レディ・プレイヤー1」
ストーリー

今から27年後。人類はゴーグル1つですべての夢が実現するVRワールド「オアシス」に生きていた。そこは、なりたいものになれる場所。ある日オアシスの天才創設者から、全世界に向けて遺言が発表される。オアシスに眠る3つの謎を解いたものは、56兆円とオアシスを継承できるというのだ。今、全世界を巻き込んだ史上最大の争奪戦の幕が開ける!

スタッフ / キャスト
  • 監督:スティーヴン・スピルバーグ
  • 原作:アーネスト・クライン「ゲームウォーズ」(SB文庫)
  • 脚本:ザック・ペン、アーネスト・クライン
  • 美術:アダム・ストックハウゼン
  • 音楽:アラン・シルヴェストリ
  • 出演:タイ・シェリダン、オリヴィア・クック、マーク・ライランス、サイモン・ペッグ、T.J.ミラー、ベン・メンデルソーン、森崎ウィン
樋口真嗣(ヒグチシンジ)
1965年9月22日生まれ、東京都出身。1984年「ゴジラ」に造形助手として参加し、映画界入り。「ガメラ 大怪獣空中決戦」「ガメラ2 レギオン襲来」「ガメラ3 邪神<イリス>覚醒」などで特撮監督を担当したあと、「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」2部作や「シン・ゴジラ」といった作品で監督を務めた。また、岡田麿里とタッグを組んだオリジナルアニメ「ひそねとまそたん」が4月12日よりTOKYO MX、BSフジほかにて放送される。