タツノコプロを支えた脚本家・酒井あきよし インタビュー
スタジオの熱気が作品の質を上げていた
──竜の子プロダクション(現・タツノコプロ)に入った経緯を教えてください。
大学を卒業してから日活でヤクザ映画の原案や原作を書くアルバイトをしていたんです。そんなとき日活の企画部にいて、その後「(科学忍者隊)ガッチャマン」を手がけられる陶山(智)さんが「タツノコに来ないか?」と誘ってくださったんです。当時「あしたのジョー」のアニメーションが放送されていて、この作品に勝るようなものを書いてやりたい!って意気込んでいましたね。
──入社当初はどのようなことをされていたんですか?
初めは鳥海尽三さんのもとで「(昆虫物語)みなしごハッチ」で脚本執筆の練習をしたり、「樫の木モック」や「いなかっぺ大将」の本を手がけたりしていました。自分の脚本が使用されるようになってからは、脚本と絵コンテを比べて演出家の人に文句を言いに行ったこともありました(笑)。「ガッチャマン」のときは鳥海永行さんに抗議をしに行ったりね。スタッフ同士の距離も近くて、ディスカッションできたから作品の質が上がった部分もあるんじゃないかな。
──意見を言い合えるということはスタジオの雰囲気がよかったんでしょうね。
みんなで旅行に行ったりする家族的な会社でしたし、スタジオはすごく熱気がありました。僕は企画部にいたんですが、新しい作品が始まる前は、当時部長だった尽三さんたちと一緒に旅館に缶詰になって企画を構想しました。皆で役割を分担しながら一晩で70~80ページぐらいの企画書を仕上げるんです。
──新しい企画というのは、そういう合宿によって生み出していったんですか?
そうですね。あと当時の社長の吉田竜夫さんが「次の作品はこれでどうだ?」とか言いながら新しいキャラクターの絵を持って来て、その絵をもとに企画を考えることもありました。逆に僕らの企画書を読んだ竜夫さんが、それをもとにキャラクターのイラストを描くこともあって。そう考えるとタツノコのカラーはやっぱり竜夫さんが作っていったんだと思います。
鳥海尽三さんが考えた前口上をカッコよく見せたい
──1974年放送の「破裏拳ポリマー」は企画から参加されていますね。
「破裏拳ポリマー」に関しては、スタッフたちも楽しんでやろうという空気でしたね。ポリマースーツの変形などをこだわりつつもロボットをカッコよく描くことや、悲壮感のあるドラマティックな物語を作ることより、キャラクターの内面を掘り下げることを重視していました。
──「ガッチャマン」や「(新造人間)キャシャーン」と同じようなシリアスな部分もありつつ、笑えるシーンも多い作品になっています。
当時子供たちが憧れていたブルース・リーを参考にしながら鎧武士を作っていきました。あとキャラクターの名前も役柄に合うように設定していて、南波テルだったら電話番だから「ナンバー」と「TEL」で今の名前になっていたり。あと実写映画のセリフにも出てきますが車錠だったら探偵なので「シャー」「ロック」って語呂を合わせてね(笑)。みんな面白がって考えていましたね。それと笑い合って作るだけでなく、SF作家の小隅黎(本名・柴野拓美)さんにSF考証をお願いしたりしてリアリティを持たせる工夫もしました。
──実写版でも引き継がれている武士の決めゼリフは酒井さんが考えられたんですか?
たしか尽三さんだったと思います。尽三さんは前口上が好きだったんです。「ガッチャマン」や「キャシャーン」の決めゼリフもあの人が考えたはずです。そこが山場になるので、そのシーンがよりカッコよくなるように毎回脚本を組み立てていました。子供たちが前口上を真似しているのを見るのはうれしかったですね。
かつての子供たちが僕らの意志を継いでくれてるのがうれしい
──実写版を手がけた坂本浩一監督は、子供の頃に原作のアニメを「憧れを持って観ていた」と言っています。実写版「ポリマー」はいかがでした?
テレビで僕らの作品を観ていた子供たちが新しい形で作品を生み出してくれるのはうれしいです。意志を継いでいってくれるその気持ちが特に。もともとは実写で撮れないからアニメーションにしていたんだと思うんです。だから当然アニメーションを実写化するのは難しい。でもこの作品はアクションにこだわっていて、カッコよかったです。
──タツノコプロは今年で55周年を迎えます。
僕がいた頃は竜夫さんに惹かれていいスタッフが集まっていた。尽三さんや永行さん、天野(喜孝)さん、大河原(邦男)さんなどすごい才能ばかり。そして、これだけスタジオが続いたのは作品に厚みがあったからだと思う。まだ笹川ひろしさんがスタジオに関わられていますし、いい人材を育てて、これからも質の高い作品を作っていってほしいです。
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タツノコプロの集大成「破裏拳ポリマー」徹底解剖
- 「破裏拳ポリマー」
- 2017年5月13日(土)全国ロードショー
- ストーリー
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組織犯罪に対抗するため、警視庁と防衛省はポリマースーツと呼ばれる特殊装甲スーツを開発。しかし、軍隊をも壊滅できる絶大な力を危険視した当時の警視総監は、その力を封印する。数年後、ポリマースーツの開発が再開されるが、テスト版ポリマースーツのうち3体が盗まれ、その強大な力を使った犯罪が頻発する事態に。盗まれたポリマースーツを取り戻すためには、特定の声によって初めて起動するオリジナル版を使うしかない。刑事部長の土岐田は、最強の拳法・破裏拳の唯一の継承者でありながら元ストリートファイターで今は探偵の鎧武士に捜査協力を求める。彼こそ世界で唯一オリジナル版を着用できる男だったのだ。武士は、心優しき新米刑事の来間譲一とバディを組み、捜査に乗り出していくが……。
- スタッフ / キャスト
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監督:坂本浩一
原作:タツノコプロ
脚本:大西信介
キャラクターデザイン:野中剛鎧武士:溝端淳平
来間譲一:山田裕貴
稗田玲:原幹恵
南波テル:柳ゆり菜
八城章人:神保悟志
土岐田垣:長谷川初範
© 2017「破裏拳ポリマー」製作委員会 ©タツノコプロ
- 酒井あきよし(サカイアキヨシ)
- 1942年10月23日生まれ、熊本県出身。大学卒業後、竜の子プロダクション(現・タツノコプロ)に入社。1972年放送の「樫の木モック」で脚本家デビューを果たす。その後「科学忍者隊ガッチャマン」「新造人間キャシャーン」「昆虫物語 新みなしごハッチ」「破裏拳ポリマー」「タイムボカン シリーズ」などのテレビアニメで脚本やシリーズ構成を担当し、同スタジオを支える。ほかに特撮ドラマ「大戦隊ゴーグルファイブ」、テレビドラマ「早春物語」「HOTEL」などを手がけた。