マンガ家・雲田はるこインタビュー
中国ドラマは「狼殿下」が初体験なんです
──この特集では、「昭和元禄落語心中」など数々の作品で魅力的な登場人物を生み出してこられた雲田はるこさんに、個性的なキャラクターが多数登場する「狼殿下‐Fate of Love‐」をご鑑賞いただき、ご感想を伺いたいとご協力をお願いしました。雲田さんは、普段どんなドラマを好んで観ていますか?
朝ドラはよく観ていますね。「カーネーション」とか「ちりとてちん」あたりからハマり出して、テレビがつくようにタイマーセットして昼に観るというのが習慣化しています。ちょっとハラハラしながら毎日観るのが楽しいんです。大河ドラマも好きになれば観ています。一番影響を受けたのは「新選組!」。日本文化や江戸時代のことに興味が出てきたのも「新選組!」がきっかけなんです。落語家さんや歌舞伎俳優の方がドラマに出ていたので、落語や歌舞伎を観に行ったり。
──海外ドラマは観ますか?
ほとんど観たことがなくて、こんなにがっつり観たのは初めて。中国ドラマは「狼殿下」が初体験なんです。とてもよいものでした! めちゃめちゃハマっています(笑)。
──今回、中国ドラマを観てみようと思ったのはどんな理由からでしょうか?
日本にはない雰囲気の作品ですし、衣装もかっこいい。私、長髪が好きなんですが、男性キャラがみんな長髪なのも好きだなと思いました。あとは今までにないジャンルに手を出すときって周りの友人がハマっていて、じゃあ観てみようかな~と思うことが多いんです。今、ちょうど友達が「陳情令」や「山河令」にハマっていて、「ブロマンスでキャラクターの関係性がすごくいいから!」って薦められていたので、中国ドラマへの興味が上がっていたところだったんです。なので「狼殿下」で中国ドラマのよさに気付けたので、雰囲気をつかめたのもよかったですね。今後もさらにいろいろ観てみたくなりました。
──今回観ていただいた「狼殿下‐Fate of Love‐」では、煬国奎州(けいしゅう)城の姫、馬摘星(ばてきせい)と、彼女が思いを寄せる狼に育てられた狼仔(ろうし)、狼仔の面影を持つ煬国の第3皇子・渤王(ぼつおう)、そして風来坊・疾沖(しつちゅう)を軸に運命に翻弄される男女の姿が描かれます。
中国ドラマって国と国の争いとか、歴史物だし物語が複雑で難しいのかなと思っていたんですが「狼殿下」はストーリーも明快で、観やすいですよね。タイトルから、もっとファンタジー色が強いのかなあと勝手に思っていましたが、ファンタジーっぽい部分は狼が出てくる場面だけで、それよりもっと濃密な人間ドラマでした。漢詩が出て来たり、知性を刺激される感じもとってもいいです。
──中国ドラマは話数と登場人物が多いのでハードルが高いと思われることもありますが、「狼殿下」のように気軽に楽しめる作品も多いです。
物語の軸が摘星と狼仔 / 渤王の熱い絆にあるというのが揺るぎないですよね。だから没入できる。脇役も生き生きしていて、みんな好きになっちゃいますけど、脇道に逸れても、どのエピソードもすべて2人のストーリーに集約されていく。そんな摘星と渤王の関係性は初めはピュアな幼なじみのようなものから、政略結婚させられて、さらに実は……とめまぐるしく変化していく。次はどうなるんだろう!?ってハラハラしながら観ていました。2人の運命をよくこんなに綿密に翻弄できるものだなと、感心しながら観ていました。
──次から次へと壁が立ちはだかりますよね。
そうなんですよね。渤王が摘星に冷たくなるとあーあー……またこのターンが来てしまったと切なくなりました(笑)。いろんなことを摘星に隠して、彼女を守るために嘘をついたり、もどかしい。2人は本心では好き合ってるのに、つらいですね。
──そんな渤王を演じるのは「私の少女時代-Our Times-」などで知られる、中華圏注目の人気俳優ダレン・ワンです。
渤王は誠実で真面目すぎて、ちょっと融通が利かないですよね(笑)。でも笑うとすっごくかわいいところが素敵でした。笑顔のときは狼仔の頃の彼に戻ったようで、摘星と幸せになってほしいなって応援したくなります。演じるダレン・ワンは野性味があって、この人にしか渤王はできないだろうなと思わせてくれました。
──一方、渤王の恋敵である疾沖を雲田さんがご友人から薦められていたという「陳情令」のシャオ・ジャンが演じています。
渤王と対照的なキャラですよね。衣装の色分けも印象的で、渤王は黒の着物が多くて、疾沖は明るい色の着物の印象です。彼は軽やかで賢くて、物事に対して臨機応変に対応できて、とってもいい男なのに摘星には振り向いてもらえず。絶対こっちのほうがいいのにって思うこともあったり。何がダメなんだろ?(笑) やっぱり摘星にとっては、初恋の思い出が大事なんでしょうね。「忘れてもいいんじゃないかな、疾沖とくっついたら、きっと幸せだよ!」って言いたくなっちゃいますね。
──そう言いたくなる人も少なくないと思います。
シャオ・ジャンも疾沖にぴったりですよね! 彼のことを調べたら、熱く応援されているファンの方のアカウントもすごく多くて、イラストを描いている方もいて。「陳情令」を観たら彼に肩入れしてしまいそうです。
2人が物語の中で圧倒的にかっこよく描かれている
──視聴者が渤王派か疾沖派かで悩めるのもこのドラマの魅力だと思います。雲田さんはどちらかといえば疾沖派ですか?
私が選ぶというより、摘星が魅力的なキャラなので、彼女を幸せにしてくれるのはどっちだろう?という考え方になっちゃいますよね。疾沖とくっついてほしいとも思いますし、渤王との初恋を遂げてほしいとも思いますし。とにかく2人が物語の中で圧倒的にかっこよく描かれているのが、このドラマのいいところ。私は作品を描くときに、自分の好みをそのまんま描くことってないんです。やっぱり物語には適材適所で、お話を際立たせてくれる“映えるいい男”というのがいると思うので。「狼殿下」の2人はそういう意味でもよくできたキャラクターですよね。理想のヒーロー像というか、参考にしたいなって思っちゃうぐらい。
──もし雲田さんがダレン・ワンとシャオ・ジャンをモデルに作品を描くとしたらどんなキャラクターにしますか?
実は、いろいろ検索する中で、木の前で2人が笑顔でハグしている仲良しなオフショットを見つけてしまいまして……。
──物語の中では恋敵を演じていますが、映画「ザ・ルーキーズ」でも共演していて仲の良い2人です。
みなさまお察しの通り、私が彼らをモデルにするとなるとBLになっちゃいそうですよね(笑)。でも、この2人の場合だと、仲良くさせるより「狼殿下」のように敵対し合う関係がすごくいいなと思うので、ダレン・ワンとシャオ・ジャンがモデルならBLではなくライバル関係として描いてみたいです。2人ともタイプが違うのでいろんなお話が作れそう。
──「狼殿下」のワンシーンをイラストにするならどの場面を選びますか?
迄貚国の王さまのお祝いのテントで、渤王と疾沖がいよいよ相まみえて戦うシーン。あそこいいですよね! 真上からのアングルになったり、中国ならではのアクションという感じでふわーっと飛んだりしていて。「狼殿下」を観ていて、中国の着物のよさに気付けたのもよかったなと思っているんです。帯があって腰がキュッと締まってて、前合わせでスカートみたいに裾が広がっている。男女のデザインにあまり差がないのに、男性はよりかっこよく、女性はより女性らしく見える。戦う場面で着物と長髪がひらひら揺れているところを描きたいなあと思いました。戦闘シーンもあまり血生臭くなくて、華やかな印象でした。
──ワイヤーを使った美しいアクションも中国ドラマの1つの見どころだと思います。残虐なシーンがダメな人も観やすいかもしれません。
何回も矢が刺さっているけど、死なないですよね。日本のドラマだと胸に刺さったらもうこのキャラは死ぬんだろうなっていう致命傷になるのに(笑)。そこにも違いを感じました。
(一同) (笑)
ラップ調のコーラスが入る主題歌もスタイリッシュな感じで、時代劇との組み合わせも新鮮。曲が流れると2人のドラマが動くという演出にもなっていましたよね。
「渤王のためだったら皇帝にも逆らいます」という主従関係がいい
──2人の男性から思われるリー・チン演じる馬摘星も渤王と疾沖に負けず劣らず魅力的なキャラクターとして描かれている印象です。
まず「狼殿下」を観たときに、何より一番、摘星が魅力的だなと思ったんです。日本で描かれるお姫さまとは違いますよね。勇ましくて、自立していて、賢くて。渤王のことを助けてあげたり、ただ守られているだけの存在ではない。最近、女の子のキャラを研究したいと思っていたんですが、理想的な“姫”キャラでした。きれいでかわいくて、みんなから慕われていて、でも悲劇的な運命を背負っていて、どんなにつらい目に遭っても立ち直るし、凛としている。観ていて清々しい気分になりました。
──賢くて自立したヒロインが好きな人は彼女中心にストーリーを追うのも楽しいと思います。
摘星に仕えている人たちがうらやましくなっちゃいますね。郡主のためなら、と尽くしがいありそう。そばにいたら毎日楽しいだろうなと思います。納得のモテっぷり! 渤王にしか甘い顔を見せないところもいい。普段はシャキシャキしゃべってかっこいいけど、彼だけには甘えた感じでしゃべったり。
──そのほかお気に入りのキャラクターはいますか?
宝娜公主(ほうなこうしゅ)が好きですね。登場シーンがかわいくて大好きなんです! 急にやんちゃなお姫さまが渤王に憧れて自分の国からやって来て。嫌なやつかと思ったらすごくいい子でした。あとは夜煞隊(やさつたい)も好き!
──夜煞隊は渤王の部下で、文衍(ぶんえん)、海蝶(かいちょう)、莫霄(ばくしょう)それぞれ個性的なキャラクターです。
「渤王のためだったら皇帝にも逆らいます」という主従関係がいいです。そんな盲目的に従順な彼らが、摘星と渤王と、ひとときの休息として宴会をして遊んでるときに、人の気持ちを思い出してしまうシーンもグッときました。渤王に幸せになってもらいたいという3人の気持ちが素敵で。そのほか遥姫(ようき)もお気に入りのキャラクターですね。
──シン・ジーレイ演じる遥姫は渤王とともに、皇帝の刺客として育てられた女性です。
渤王と遥姫の関係もいい! ライバルとして育てられて、憎み合いながら思い合う。いつか自分が殺すことが一番の愛だと思い込んでいるところとか、たまりませんでした。意外と、疾沖と摘星、渤王と遥姫がくっついたら、みんな幸せになれるのに~と思ってしまいました。そうは問屋がおろさないところが面白いんですけどね(笑)。
──摘星とはまた違った深いところで遥姫は渤王とつながっていますよね。
2人で苦しい思いをしながら刺客としての腕を磨いて来て、戦友のような関係ですよね。「狼殿下」は悪役らしい悪役といえば、皇帝ぐらいで、みんな悪さをしても、それにはやむにやまれぬ事情がある、ということが描かれるので、どのキャラも応援したくなっちゃいます。
──物語のわかりやすさ、三角関係、魅力的な脇役など見どころ満載ですが、雲田さんはこの作品をどんな人にお薦めしますか?
両親が韓国ドラマにハマっていて、中国のも少し観てみたけれどファンタジーすぎて付いていけなかったと言っていたんです。「狼殿下」は冒頭で狼のCGが出て来たりはしますけれど、ファンタジーものでは全然なかったので、数話分まとめて、摘星と渤王、2人の関係のやんごとなき運命の物語のやばさに気付くまで、無理やり観せたいですね(笑)。2人の家柄だとか出自だとか人間関係とか、いろんな要素が絡み合って「好き合ってるのに結ばれない、嫌いになれたら楽なのに」ということのどうにもならなさ、はがゆさがすごいんです。めちゃくちゃ綿密な脚本。私の親世代もハマると思います。
プロフィール
雲田はるこ(クモタハルコ)
2009年に東京漫画社から発売された「窓辺の君」で商業デビュー。2010年短篇集「野ばら」が「このBLがやばい!2011」にて3位にランクイン。同年ITAN(講談社)にて連載を開始した「昭和元禄落語心中」は、2013年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、2017年に第21回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。また2016年よりテレビアニメ化、2018年にはテレビドラマ化もされた。そのほかの代表作に、BL作品の「いとしの猫っ毛」「新宿ラッキーホール」など。