藤原竜也×松山ケンイチ「ノイズ」正反対の2人が見せた危うい“共犯”関係

1人の凶悪犯の出現が平和な島に“ノイズ”を響かせる──。藤原竜也と松山ケンイチがダブル主演を務めた「ノイズ」のBlu-ray / DVDが6月22日に発売される。豪華版には、ここでしか観ることができないメイキングやイベント映像集、カラーブックレットなどの特典が満載だ。本特集では映画ライターのSYOが「DEATH NOTE デスノート」以来15年ぶりの本格共演となった藤原と松山の“幼なじみにして殺人の共犯者”という危うい関係性に迫る。また企画・プロデューサーの北島直明に、キャスティングや撮影現場の裏側を聞いた。

文 / SYO(レビュー)取材・文 / 奥富敏晴(インタビュー)

映画ライターSYO コラム

タイプの異なる2人の役者

一口に演技派と言っても色々だが、このふたりにおいては動と静、熱と冷、盛と衰──抱くイメージがまるで真逆だ。藤原竜也と松山ケンイチ。共に10代でオーディションにより才能を見出され、芸能事務所の先輩・後輩の間柄でもあり、2006年の映画「DEATH NOTE デスノート」で主人公・夜神月(ヤガミライト)とその前に立ちはだかる強敵・Lとして競演したことから、どこか“ライバル”のイメージもある。それは、先に述べたような演技のタイプの違いも大きいのではないか。

2021年11月に行われた「ノイズ」のトークイベントに出席した藤原竜也。

2021年11月に行われた「ノイズ」のトークイベントに出席した藤原竜也。

「DEATH NOTE デスノート」では、役柄もあれど藤原と松山が刻み付けた印象はまさに正反対。藤原が演じた月は「理想の新世界を作る」ことを目標に掲げていたが、「人を殺せるノート」の魔力に取りつかれて狂気へと堕ちていく。その演技は荒々しく、パッションの塊。だが、圧すら感じさせる“強さ”はそれでいて押しつけることがなく、観る者に憐憫の感情すら抱かせる純粋さをはらんでいる。記号的なキャラクター芝居ではなく、そこに「人間が人間であるどうしようもなさ」を感じられるのだ。故に、彼が演じた月はどこか儚く、哀しい。これは藤原演じる最恐の人斬り・志々雄真実のピカレスク・ロマンとしても読める映画「るろうに剣心 伝説の最期編」にも共通する特長だろう。

対して、大量殺人犯キラ(夜神月)を追う世界最高の探偵・Lに扮した松山はその逆を行く。他者と接するときも目を合わせずボソボソと喋り、感情を一切表に出すことがない。椅子の座り方から食器の使い方・携帯電話の持ち方も独特で、仕草からも表情にも人間味を持ち込まない、「抑える」演技に徹している。こちらは型から入るキャラ演技の部類に入るが、後半に行くにしたがってLの中にある衝動にも似た根源的な感情がにじみ出てくるのが興味深い。いわば、裏腹な危うさがあるのだ。松山には、どこか得体のしれない“闇”を垣間見せる瞬間が潜んでいる。例えば2021年の「BLUE/ブルー」ではどうやっても突き抜けられずに、周囲から馬鹿にされても笑って済ますボクサーに扮しているが、それでいて腹の底が見えない。故に、彼が秘めた激情を人知れずさらす瞬間に、観客は目が覚めるような衝撃を抱くのであろう。松山もまた、広義の“人間臭さ”を役にもたらす表現者だが、そのベクトルは藤原とは大きく異なっている。

2021年11月に行われた「ノイズ」のトークイベントに出席した松山ケンイチ。

2021年11月に行われた「ノイズ」のトークイベントに出席した松山ケンイチ。

例えば、吉田修一の原作小説を映画化した「パレード」「怒り」がその好例。前者で藤原は世の中を器用に泳ぐサラリーマンの仮面がはがれていく姿を演じ切り、後者で松山は周囲から殺人犯と疑われる謎めいた青年の真心を熱演した。“普通”だと思っていた人間の異常性と、“異常”だと思っていた人間の普遍性──。対照的な役柄に扮した両者は、言ってみればともにギャップを演技に見事に転用しているわけだが、片や藤原が観客に“安心”を抱かせるとするなら、松山がもたらすのは“不安”。そんなふたりが久々に本格競演を果たした「ノイズ」もまた、両者のカラーの違いが作品全体に大きく関与している。

「演技が物語を掌握する」1本

「ノイズ」は、絶海の孤島を舞台にしたサスペンス。島で農業を営む泉圭太(藤原竜也)と親友で猟師の田辺純(松山ケンイチ)は、島にやってきた凶悪犯(渡辺大知)とトラブルになり、誤って彼を殺害してしまう……。その場に居合わせた新米警察官の守屋真一郎(神木隆之介)を巻き込み、3人は死体を隠して事件を隠蔽。“共犯”となるが……。

「ノイズ」

「ノイズ」

「デスノート」では宿敵、「カイジ 人生逆転ゲーム」では競争相手だった藤原と松山が、今度は共犯関係になるという面白さ。ただの友情モノではなく、罪から逃れたいという黒い理由でつながってしまった幼馴染という危うい関係性が、2人にマッチしている。監督の廣木隆一も、撮影時に「まったくタイプの異なる役者。アプローチもお芝居の質も違う」と語っていたそう。圭太と純の関係性がじわじわと変容していく構成になっており、藤原と松山の演技の違い、そのギャップがフルに発揮される構成が用意されているのだ。そして、その土壌がこれまでとは一味違う藤原×松山を芽吹かせる。

まずは冒頭から。黒イチジクを栽培する圭太の出荷準備を手伝う純のシーン。言ってしまえば「ただの農作業の風景」なのだが、この時点で既に両者の上手さが引き立っている。2人で会話しながらトラックの荷台に商品を積み、ブルーシートをかけてその端をロープで縛るといったような、一つひとつの作業における“こなれ感”がすさまじいのだ。この一連のシーンにおける藤原と松山の醸し出す雰囲気や動作は驚くほど自然で、全く違和感がない。むしろ溶け込んでいることが逆に観る者を動揺させるのではないか。このさりげないシーンが、後々に起こる事件の布石にもなっていく。

もともと日常に“ノイズ”が入ることで平穏が侵されていくのが本作の面白さのひとつであり、逆に言えば序盤で「日常・平穏」をきっちり観客にインプットさせておかなければ落差は出てこない。しかしあざとくやりすぎてしまえば日常感は損なわれ、観る側も冷める。そういった演出面においても、藤原と松山のさりげなく、しかし的確に伝える表現力と存在感は非常に頼もしいものだったのではないか。冒頭にこれがあるから、凶悪犯を排除しようとする純に“こわさ”を感じたり、家族と故郷を守るために奔走する圭太の混乱がしっくりきたり、両者の関係が壊れていくさまが引き立つ。

さらに本作では、神木隆之介が“かすがい”として藤原と松山の間に入り込み、観客との橋渡しを担う。圭太も純も他者に見せない思惑と複雑な過去を抱えているが、神木が演じる真一郎は感情に裏表がなく、とかく純粋。故に、罪を重ねた結果、良心の呵責に耐えられなくなった真一郎はある決断を下す。物語全体の良心でもあり、すべての罪を被ろうとした彼の「終始善人である」というブレなさがあってこそ、圭太と純がドツボにはまり、罪を重ね“堕ちる”姿が際立っていく。

「ノイズ」

「ノイズ」

そして、最終的に弾けるのは先ほど述べた藤原と松山の“安心”と“不安”の相克。本作における2人は共犯者という関係故に直接ぶつかり合うシーンは少ない。しかし幼なじみという長年の関係性でひた隠しにされていた“ノイズ”は、真一郎の行動をきっかけに加速度的に増幅していく。それは驚くほど自然なやり取りを見せていた2人の姿からは想像し得ないような本心であり、亀裂だった。純のとある動機が明かされる周辺のシーンは、松山が醸し出す“不安”にまみれており、観る者をぞくりとさせることだろう。対して、すべてを受け入れた圭太の姿には、不思議な“安心”を抱くのではないか。目的のためには非情にボーダーを越えられる純と、目の前の事象に慌てふためきながらも最善を尽くそうとする圭太。安定/不安定な両者が、観客に抱かせる感情は不安/安心とスイッチする構造になっているのが興味深い。

自然発生的なものだけでなく、自分たちの個性が生み出すコントラストを意図的に利用し、シーンに付加していった“共犯者”・藤原竜也×松山ケンイチ。「ノイズ」は、両者の罠にからめ取られる快感をたたえた「演技が物語を掌握する」1本となった。

プロフィール

SYO(ショウ)

映画、ドラマ、アニメ、マンガ、音楽などのジャンルで執筆するライター。トークイベントへの登壇実績も多数。装苑、sweet、BRUTUS、GQ JAPANといった雑誌のほか、多くのWeb媒体にも寄稿している。

プロデューサー・北島直明 インタビュー

ものすごく贅沢な現場

──藤原竜也さん、松山ケンイチさん、お二人の出演の経緯を教えてください。

藤原さんとは「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」でご一緒していて、また仕事がしたいなと漠然と思っていました。そして廣木(隆一)監督とサスペンスを作ると決まったものの、廣木演出である長回しのワンカットに耐えるには芝居力がないと難しい。そこで藤原さんに思い至りました。そして藤原さんのバディとしてサプライズがあってヒリヒリするのは誰か?と考えたときにシンプルに松山ケンイチさんが浮かんで。

──お二人は2006年の「DEATH NOTE デスノート」以来、本格的な共演は15年ぶりと話題になりました。

実はお二人を思い付いた時点で「DEATH NOTE デスノート」のことは頭になくて。オファーしたときに事務所の方から「デスノートの再来ですね」と言われて気付きました(笑)。15年経った今の2人の芝居合戦を見たいというマネージャーサイドとしての思いもあったと思いますが、そこからは脚本をお渡しして脚本で口説く感じでしたね。

──そこから2人の間に立つ神木隆之介さんが決まった?

当然芝居もそうですが、キャリアも存在感も日本を代表する30代(当時)の俳優がそろった。もう1人の幼なじみである新米警察官の守屋は、この2人に対峙しないといけない相当なエネルギーを必要とする役。そうなったときにお二人に負けないパワーがある神木さんにたどり着きました。もう神木さん一択です。

2022年1月の「ノイズ」初日舞台挨拶に出席した藤原竜也(中央)、松山ケンイチ(左)、神木隆之介(右)。

2022年1月の「ノイズ」初日舞台挨拶に出席した藤原竜也(中央)、松山ケンイチ(左)、神木隆之介(右)。

──なるほど。

神木さんは藤原さんと映画「るろうに剣心」シリーズで、松山さんとは大河ドラマ「平清盛」で共演されていて、お二人のことをよく知っている。神木さんに「この2人と芝居できるなら、やる以外の選択肢はなかったです」と言ってもらえたのは、うれしかったですね。やっぱり皆さん「ものすごく贅沢な現場」とおっしゃっていました。

──現場の3人はどんな雰囲気だったんでしょうか。

待ち時間や撮影がないときは本当に楽しそうでした。お互いある程度は気心が知れた役者としての先輩後輩であり同志でもある。この映画の世界観とは思えないくらいリラックスした空気感でした。でも本番では、しっかりとスイッチが入る。「大人の現場」という印象でした。

怖いけど日常化している感覚

──以前、撮影現場で取材した際に本作で描かれる事態を「SNSの炎上にもつながること」とおっしゃっていました。この発言の真意を詳しく教えてください。

舞台は閉鎖された島、社会からも隔離されている村社会ですよね。外から凶悪犯という悪意が入ってきたのはきっかけに過ぎないんです。実はSNSって村社会に近い。フォローしている人が「この絵は素晴らしい」とつぶやいたら、それを素晴らしいと言わなきゃいけない空気がある。逆に誰かが何かを叩けば何も考えずに同調してしまう人もいる。そして自分の生活を守るため、ポジションを確立するために、どこかで自分に対して嘘をついてしまう。本当は思ってないのに、そう思ってるように見せてしまう場所だと思っていて。

「ノイズ」

「ノイズ」

──なるほど。「ノイズ」が怖いのは、誰もが簡単に殺人を隠蔽する共犯者になってしまうところでした。

そういう意味で言うと、この映画の登場人物たちも「人を殺した犯罪を隠蔽する」なんてありえないことだともちろんわかっています。でも究極、自分たちの生活を守るためだったら、何か言い訳をつけて自分たちの行動を肯定してしまう。そういう感覚は怖いけど、日常化してしまっている部分もある。でも誰か1人でも異を唱えないと、そこには地獄しか待っていないんですよね。

プロの現場を目撃できる「メイキング オブ “ノイズ”」

──今回発売されるソフトについてもお聞きしたいです。今回豪華版のカバーは、真っ赤なビニールハウスの風景に“死体”が映っていますね。

俳優の顔が並ぶことの多いジャケットの中でひときわ異質。この作品のおどろおどろしい不穏な感じを出しています。作品は観てないけど手に取ったときに面白そう、と思ってもらうのが狙いですね。

「ノイズ」豪華版 Blu-ray&DVDパッケージ

「ノイズ」豪華版 Blu-ray&DVDパッケージ

──特典映像の「メイキング オブ “ノイズ”」の見どころは?

監督の演出が観られるところじゃないですか? 舞台裏の和気あいあいとした空気もメイキング的な楽しみだと思いますが、今回の映像はプロの現場をちゃんと観ることができる。先ほども言った「大人の現場」なので、みんなが芝居にプロとして向き合っている。これだけの役者がそろって現場では何をしてるのか?を目撃できると思います。あとはロケーションの雰囲気もしっかりと映ってますね。

──ちなみに北島さんが現場で一番印象に残っている瞬間は入っていますか?

最後のビニールハウスでの芝居ですね。脚本でも10ページほどあって、その日の撮影は深夜まで続く覚悟もしていました。それを監督が長回しのワンカットで撮るというジャッジを下した瞬間の、俳優部やスタッフたちの「やってやんぞ」という一致団結した熱量と、戸惑いは印象的でした。残念ながら、あの日の模様はメイキングに入っていなくて。むしろ回せるような状況じゃなかったんだと思います。

──圭太と順が死体を隠したビニールハウスで、たくさんの警察に取り囲まれるシーンですね。

それが20時前にはOKが出て撮影は終わったんですよ。でも、俳優部の誰も帰ろうとしないんです(笑)。要は、上がりすぎたアドレナリンとテンションを下げられない感じなんですかね。これまで20本ぐらい映画に関わってきましたが、あんな光景は初めて見ました。メイキングを回せないほどのテンションの上がり方だったんだと思います。

プロフィール

北島直明(キタジマナオアキ)

日本テレビ所属の映画プロデューサー。映画「ちはやふる」シリーズ、「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」「キングダム」「藁の楯」「町田くんの世界」「新解釈・三國志」などを手がけてきた。廣木隆一とは「ノイズ」で4度目のタッグ。待機作に7月15日公開の「キングダム2 遥かなる大地へ」、10月21日公開の「線は、僕を描く」がある。