ジュード・ロウが主演を務めたドラマ「ヤング・ポープ 美しき異端児」の続編「ニュー・ポープ 悩める新教皇」がスターチャンネルにて日本初上陸。監督、脚本、製作総指揮を担うのは、「グレート・ビューティー/追憶のローマ」でアカデミー賞外国語映画賞に輝いた現代イタリアを代表する監督パオロ・ソレンティーノだ。新キャストにジョン・マルコヴィッチを迎え、人間らしく苦悩する新教皇の姿が紡がれる。
特集では新作のレビューとともに、「テルマエ・ロマエ」で知られるマンガ家ヤマザキマリの発言をまとめた見どころを掲載。イタリア在住歴が長く美術への造詣も深いヤマザキが独自の視点でドラマの魅力を語ったインタビュー映像もお見逃しなく。
文(P1) / 奥富敏晴 レビュー(P2) / 渡邉ひかる
- レニー・ベラルド
/ ピウス13世(ジュード・ロウ) - 史上最年少かつアメリカ人初の教皇。「聖人ではなく悪魔」と恐れられるほど独善的な態度で地位を確立した。そのナルシスティックな魅力と深い愛への洞察でカリスマ的人気を誇る。説法中に心臓発作で倒れ、昏睡状態のまま9カ月が経過した。
- ヤマザキマリ
- 1967年生まれ、東京都出身。マンガ家・随筆家。東京造形大学客員教授。1984年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年「テルマエ・ロマエ」で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。2015年度には芸術選奨文部科学大臣新人賞(メディア芸術部門)を受賞、2017年にはイタリア共和国連帯の星勲章・コメンダトーレ章を受章している。著書に「スティーブ・ジョブズ」(ウォルター・アイザックソン原作)、「プリニウス」(とり・みきと共著)、「オリンピア・キュクロス」「国境のない生き方-私をつくった本と旅-」「ヴィオラ母さん 私を育てた破天荒な母・リョウコ」「たちどまって考える」など。
遊び心とデカダンス
リアリズムを超えた映像美で人間の欲望と狂乱を描いてきたパオロ・ソレンティーノ。「フェデリコ・フェリーニの後継者」とも称されたイタリアの鬼才がカトリック教会に目を付けた。ヤマザキはその作家性を「見たいものだけじゃなくて、見せなきゃいけないものをちゃんと作ってくれる監督」と解説。ドラマの斬新な魅力を「現代の私たちは神以上に、お金を信仰しているからバチカンは絶好のモチーフ。その内部をファンタジックな幻想世界、逸脱した素っ頓狂な解釈で揶揄していく」と語る。
シスターが下着姿で踊るオープニングをはじめ過激な描写が満載の本作。かつてフェリーニも「甘い生活」がそのスキャンダラスな内容からカトリック教会に「真のデカダンス(退廃)」と非難され、多くの国で上映禁止運動が巻き起こった。ヤマザキは2人を比べながら「ソレンティーノはもっと辛口。現代イタリアが抱える問題への切り口も容赦がない。鋭いけど洒落や遊び心もある」と分析。一方で「バチカンってこういうところなの?と勘違いしてしまう可能性がある(笑)」と心配しつつ「なるべくそう思わず、でもどうしてそんな描写が生まれたのか考えてみると面白い」と指南した。
バチカン内部の美術を徹底再現
取材規制の厳しいバチカンではロケができないため、教皇や枢機卿たちが暮らす内部の描写はすべてスタジオセットだ。撮影ではフェリーニ監督作や「ローマの休日」など、数々の名作が生まれたイタリアが誇る撮影所チネチッタが使われた。実はヤマザキ原作の映画「テルマエロマエ」もチネチッタにある古代ローマのセットで撮影された。毎日見学に訪れていたそうで「まさに映画の殿堂。撮影所のスタッフは職人気質で、再現度はほぼ完璧で抜かりない」と当時の驚きを回想する。
ドラマで再現されたサン・ピエトロ大聖堂やシスティーナ礼拝堂は、実物より小さい比率で作ったうえで本物と同じに見えるよう設計された。ヤマザキも「まるでバチカン内部で撮ったかのよう」と感嘆。さらに次期教皇を選ぶコンクラーベ(教皇選挙)で枢機卿の1人が礼拝堂のトイレのドアから出てくるシーンに注目し「本当にあんなところにトイレがあるのかどうか知りませんけど、緊迫感ある空間に水の流れる音が響いている。誰もが次の教皇は誰にしよう?と考えているときに、悠々とトイレから出てくる人を描くイタズラな視点。バチカンのイメージを洒落で崩すセンスが秀逸」と意外な見どころを語った。
衣装への執拗な美意識
前作「ヤング・ポープ 美しき異端児」ではほとんどの場面で白の祭服を着ていたピウス13世。対して新たな教皇ヨハネ・パウロ3世には、日常生活シーンのためだけに50パターンほどの衣装が準備された。服装からは名家の生まれに由来する気品や親の愛情を失った孤独感がにじみ出る。ヤマザキは「いろんな衣装をマルコヴィッチに着せていくのが楽しくてしょうがないのかもしれませんね」とスタッフ陣の気持ちを代弁。マルコヴィッチ本人も「同じ衣装を二度着ることはなかった」と証言している。
教皇を取り巻く枢機卿をはじめ、数多くの聖職者が登場するのも本作の特徴だ。シーンによってはエキストラのために最大で750人分もの衣装が制作されたほど。ヤマザキは「イタリアが芸術大国と言われるだけの執拗な美意識、偏屈的なこだわりがある。お金があったらあるだけ表現と結び付ける。それはルネサンス、その前のローマの時代から同じ」と分析している。ヨハネ・パウロ3世が着る多彩なスーツや祭服に注目してほしい。
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中毒性のある“ちょっとヘン”な連続ドラマ
渡邉ひかるレビュー