映画ナタリー PowerPush - ナタリー×Netflix
“観たい人だけ観ればいい”Netflixに松尾スズキが感じる可能性
イケメンじゃない主人公にリアリティを感じる
ベター・コール・ソウル
──続いて「ベター・コール・ソウル」ですが、こちらも主人公は「デアデビル」と同じ弁護士ですね。
アメリカは弁護士のドラマが多いですよね。身近なんでしょうね、訴訟社会ですから。
──この作品はエミー賞に輝いたドラマ「ブレイキング・バッド」の6年前の世界を描いたスピンオフです。松尾さんはもともと「ブレイキング・バッド」をご覧になっていたんですよね?
シーズン1まで観てます。その最後のほうに出てくるインチキ弁護士みたいなのが主役になってるんですよね。あの人がまさかスピンオフになるとは思えないっていうか、それぐらいしょうもない役だった人が主人公になるところにリアリティがあって、アメリカドラマの幅の広さを感じる。日本だとイケメン使わないとどうしようもない、みたいな慣習があるからね。二枚目半の役まで、イケメンに無理やり眼鏡かけさせて投入するっていう。
──「いや、どう考えてもモテるだろ」っていう(笑)。
変な髪形にしたりね。パーマ頭にしたりとか。あの無理やり感が腹立つ(笑)。全国的な人気がある人を配役しないと、お金を出す人たちが納得しないという悪循環があって。「この映画イケメン出てないじゃん、(企画書を)ポイッ」みたいな。厳しいですよ、本当に。
──それでいうと、「ベター・コール・ソウル」は主人公のソウル・グッドマンことジミーを含めて、今のところ1人もイケメンが出てきていない気が……。
素晴らしいですね。それでもちゃんと面白いし。1話目の最後から「ブレイキング・バッド」のトゥコが出てくるのもうれしかったな。「ブレイキング・バッド」よりもコメディの要素が多くて、トゥコが若者2人にどんなお仕置きをするかジミーと交渉するシーンは馬鹿らしくてすごい笑った。「足を2本折ってやる!」「いや1本だ。2人だから1人1本ずつで」みたいな(笑)。
──そのあとレストランで、ほかの客がグリッシーニをポキポキ折ってる音を聞いて、ジミーが吐き気を催すシーンも笑えます。
あのシーン、異様に長く撮ってるんだよね。どうしちゃったんだろう、尺調整かなあ。
──あそこでですか(笑)。ほかに演出家として気になったところはありますか?
編集がすごいなと思います。いろいろな要素を小出しに見せてくるけど、わかりにくくならないところが。1話目こそ「ん?」って思ったけど、そのラストで「あ、これ2話を観ないと収まりつかないな」と思って、結果的に4話まではノンストップで観ちゃった。嫁さんに「まだ観るの?」ってうんざりされましたけど(笑)、できればそのまま最後まで観たかったぐらい。
あそこまでセコさと真面目さが拮抗してるキャラはそうそういない
──ちなみにこの主人公、日本の役者だったら誰に演じてもらいたいですか?
イケメンじゃ無理だよね。やっぱり顔田顔彦、一択じゃないですかね。体のバランスとかも似てるし。
──あー! 似てますね(笑)。でも私は松尾さんがやっても面白そうだなと思ったんです。主演のボブ・オデンカークは松尾さんと同じ52歳で、コメディアンでもあり、役者でもあり、放送作家や監督もやっている人で。
へえ、多才な人なんですね。僕もこういう複雑な役はやってみたいですよ。普通は弁護士ものって、裁判に勝つ勝たないみたいなところでサスペンスになっていくけど、この主人公はそうじゃないところで孤独に戦ってる感じがいいなあと思って。
──善良な心も少しあるけど、たまにいいことしようすると裏目に出て、結果どんどん小ずるい感じになってしまうのが切ないです。
すごく本質的だなと思いますね。日本のドラマだと主人公のキャラクターって一元的だったりするじゃないですか。わかりやすさが求められるというか、あそこまでセコさと真面目さが拮抗してるキャラってそうそういないなと。それから脇役がみんな魅力的で。ただの駐車場のおっさんかと思っていたら、あんなに重要なキャラになっていくんだって驚いた。
──あのマイクも「ブレイキング・バッド」に登場する人気キャラクターですね。
主人公のお兄さんも電磁波アレルギーで引きこもってるっていうキャラ設定が面白いし。単純なコメディかなと思うとどんどん深い話になってくる。日本のドラマだと大抵、コメディかシリアス、どちらかに完全に振り切っているものが多いけど。
──「ベター・コール・ソウル」はオープニングからしてちょっと異様ですよね。モノクロの淡々とした映像に、頭髪の薄くなった未来のソウルが出てきて。
切ない感じですよね。どうがんばっても将来はああなっちゃうわけだから。それを最初に見せちゃうところがすごい。そのあと裁判のシーンが始まって、コメディかな?と思って観てると、いきなり“生首とセックス”だからね(笑)。そこで「ペイテレビだぞ」っていう挟持を見せ付けてる。観たい人だけ観ればいい、って。思い切りがいいですよね。
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松尾スズキ(マツオスズキ)
1962年12月15日生まれ。福岡県出身。1988年に大人計画を旗揚げし、1997年「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で第41回岸田國士戯曲賞を受賞。2004年に「恋の門」で長編監督デビュー後、2008年には「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」ほか俳優としての出演作も多く、小説「クワイエットルームにようこそ」「老人賭博」で芥川賞にノミネートされるなど作家としても活躍している。監督作「ジヌよさらば~かむろば村へ~」のBlu-ray / DVDが発売中。10月28日にNHK BSプレミアムで放送されるドラマ「ガッタン ガッタン それでもゴー」に出演。
2015年10月9日更新