緑川ゆきのマンガを原作とした「劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~」が全国で封切られた。アニメ化10周年を迎えた「夏目友人帳」初の劇場版だ。
このたびファン待望の本作にゲスト声優として参加した高良健吾が、映画ナタリーに登場。夏目が出会うどこか浮世離れした雰囲気をまとった青年・津村椋雄に声を当てた高良は、彼の抱える思いをどのように受け取ったのか? もともと「夏目」ファンだったという高良に話を聞いた。
なおインタビュー後半には映画のストーリーに関する内容が含まれているので、鑑賞前にネタバレを見たくない方はご注意を!
取材・文 / 金須晶子
よく行っていた映画館がテレビアニメに
──本作への参加が発表になった際、高良さんは「夏目友人帳」について「好きな作品」だとコメントされていました。どういったきっかけで「夏目友人帳」に興味を持ったんですか?
テレビアニメがきっかけです。僕は熊本出身なんですけど、よく行っていた映画館のあるアーケードがテレビアニメに登場していたんです。電気館っていうんですけど。それで「ああ、熊本が舞台のモデルになっているんだ」と知って。あと高校の同級生にも「『夏目友人帳』面白いよ」と聞いていたので。そこからです。
──知っている風景が出てくるのはうれしいですよね。
でも観てみたら、それだけじゃなかった。妖怪ものだというから、最初は悪いやつらをやっつけるみたいな話のイメージで(笑)。そうじゃない、人間が忘れている何か大切なものを妖(あやかし)たちとの関わりによって思い出せる。それがいいなあって。
──きれいな景色と相まって。
はい。ああいう大自然に囲まれたところで、本当に「夏目」みたいなことが起こっていたのかもと思っちゃいますよね。妖だからと言って怖いのではなくて、温かい。変に考え込むものでもなく、観たあとに「これって大切なことだよなあ」と感じられるのが「夏目」だと思います。
声優には声優のプロがいる
──そんな好きなアニメに出演できると聞いて、うれしかったですか? 驚きましたか?
うれしかったです……けど、パッと頭に浮かんだのは「(ため息混じりに)声優かあ。できるかなあ」って(笑)。
──つい本音が(笑)。とは言え、高良さんはスタジオジブリの「かぐや姫の物語」、原恵一監督の「百日紅~Miss HOKUSAI~」でも声優を経験されているので、そこまで不安はなかったのでは?
でも、どの作品もやり方が違ったので。「かぐや姫」は映像より先に自分たちで距離感を考えながら演技して、それを絵にするやり方(プレスコ)でしたし。今回は、今までやってきたことと同じ方法では通用しないし、できなかったです。映画でもドラマでもそうですけど、一度やったからと言って次もできるとは思えなくて……。声優の仕事にしても、声優の世界に自分が行くということ自体に抵抗が少しあるんです。
──悩みながら挑まれたんですね。
はい。声優には声優のプロがいますし、いろんなところにプロはいるので。自分は俳優だし、俳優の自分はここで何ができるんだろう?というのがまず最初にあって。そこからやるべきことを選択していく。そこが難しくもあり楽しかったです。いつもは目の前に相手がいるし、自分たちのタイミングでできたり、いろんなことが自分の味方をしてくれる状況で撮影するけど、声優はこういう状況(台本を持ってマイクの前に立つ)じゃないですか。誰もいない。口の動きに合わせなくてはいけない。そんな中で感情を全部詰め込むのはやっぱり難しさがありました。
椋雄の寂しさを感じながら演じた
──高良さんが演じた津村椋雄は、物語の前半と後半で感情のトーンがだんだん変わっていく役だったと思います。椋雄の本心が明らかになっていくにつれて、どのように心情を表現しようと意識しましたか?
もし俳優として自分がカメラに映っていたら、表情とか動きとか微妙なところで表現しようとすると思います。でも自分が今回呼んでいただいた中で一番意識したのは、僕の声でその瞬間の状況を説明しすぎるのはやめようということ。あれ? この人は今どっちなんだろう?って、観ている人に立ち止まってもらうというか。自分の声でみんなの思う椋雄の選択肢を狭めないようにとは意識しました。それがよかったのかどうかは自分でもわからないですが。
──アフレコ中は冷静な状態で?
それでもやっぱり寂しさとか、切なさとか……。椋雄の根底にある、そういうものを常に感じながら演じていました。
──一番苦労したシーンや、アフレコで印象に残っているシーンはありますか?
うーん、そうですね……全部難しかったです(笑)。
──全部ですか。
楽に逃げそうになる自分がいるっていうか。これは言う必要ないことかもしれないですけど、たぶん、うまくはめられる音ってあるんです。そこをとにかく避ける。そこに合わせていたら僕がやる意味ないので。それは避けたかったですね。
- 「劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~」
- 2018年9月29日(土)全国公開
- ストーリー
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小さい頃から妖(あやかし)を目に映すことができた夏目貴志は、亡き祖母レイコから“友人帳”を継いで以来、自称用心棒・ニャンコ先生とともに妖たちに名を返すため忙しい毎日を送っていた。ある日、夏目は昔の同級生・結城大輔と偶然再会したことで妖にまつわる苦い記憶を思い出す。さらに名前を返した妖の記憶に出てきた女性・津村容莉枝と知り合い、彼女の一人息子・椋雄とも交流するように。しかし彼女たちの住む町には謎の妖が潜んでいるようだった。その調査の帰り、ニャンコ先生の体についてきた“妖の種”が、夏目が居候する藤原家の庭先で、一夜のうちに木となって実をつける。その実を食べたニャンコ先生の体にある異変が起きてしまう。
- スタッフ
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原作:緑川ゆき「夏目友人帳」(白泉社・月刊LaLaにて連載中)
総監督:大森貴弘
監督:伊藤秀樹
脚本:村井さだゆき
アニメーション制作:朱夏
主題歌:Uru「remember」
- キャスト
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夏目貴志:神谷浩史
ニャンコ先生 / 斑:井上和彦
夏目レイコ:小林沙苗
結城大輔:村瀬歩
田沼要:堀江一眞
多軌透:佐藤利奈
西村悟:木村良平
北本篤史:菅沼久義
笹田純:沢城みゆき
名取周一:石田彰
もんもんぼう:小峠英二(バイきんぐ)
六本腕:西村瑞樹(バイきんぐ)
津村容莉枝:島本須美
津村椋雄:高良健吾
©緑川ゆき・白泉社/夏目友人帳プロジェクト
- 高良健吾(コウラケンゴ)
- 1987年11月12日、熊本県出身。2005年にテレビドラマ「ごくせん」で俳優デビューし、翌年「ハリヨの夏」で映画デビューを飾る。以来多くの作品で活躍し、主な主演・出演作は「蛇にピアス」「ソラニン」「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」「白夜行」「軽蔑」「横道世之介」「きみはいい子」「シン・ゴジラ」「月と雷」「万引き家族」など、ドラマでは連続テレビ小説「べっぴんさん」、大河ドラマ「花燃ゆ」、フジテレビの“月9”枠「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」など多数。行定勲が熊本出身の役者を集めて制作した「うつくしいひと」「うつくしいひと サバ?」「いっちょんすかん」にも参加している。10月13日公開作「止められるか、俺たちを」に俳優の吉澤健役で出演。主演を務める中島貞夫監督作「多十郎殉愛記」が2019年春公開となる。