映画ナタリー Power Push - 「何者」
就活は静かな戦争!? 6人の俳優が語る若者たちの“リアル”
「桐島、部活やめるってよ」の原作者・朝井リョウによる直木賞受賞小説「何者」が、劇団ポツドールを率いる鬼才・三浦大輔によって映画化された。「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「愛の渦」で映画界においてもその手腕を発揮してきた三浦が今回描き出したのは、就職活動を通して自分たちが「何者」であるかを模索する若者たちの物語。佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生が、友情や恋、嫉妬などの複雑な感情に翻弄されていく5人の若者を演じた。
映画ナタリーでは、佐藤、有村、二階堂、菅田、岡田、そして彼らが演じた就活生たちの先輩に扮した山田孝之にインタビューを実施。どのようにそれぞれの役と向き合い、本作を作り上げていったのか語ってもらった。
取材・文 / 秋葉萌実(佐藤、有村、二階堂、菅田)、平野彰(岡田、山田) 撮影 / 佐藤友昭
拓人になるために朝井リョウをコピーした
──この役を演じるにあたっては、原作者の朝井リョウさんを意識して役作りをしていったと伺いました。同じ美容院にも通われたそうですが……。
そうなんです。朝井くんと同じ人に髪を切ってもらいました。あとは彼がどんな時計をしているか、どんな服を着ているのかなどを取材して、それを役に反映させました。
──外見を変えることで、役への向き合い方も変化しました?
拓人という別の人間になるために、朝井リョウをコピーしてみたらすごく芝居がしやすくなりました。かなり自然体でやっていたんじゃないかな。別人になるって本当に難しいことなんですよ。なんとなく演じてしまうと“佐藤健が演じている人”にしかならなくて。
──劇中では、就活生同士の友情だけでなく、裏切りや妬みなどもリアルに描かれていますが、佐藤さんご自身はこれまで人に強く嫉妬した経験はあったんでしょうか。
もちろん! 今は減ったけど小中学生の頃はすごく嫉妬していた記憶があります。
──例えばどんなことで?
小学生のときって、クラスに人気者がいるじゃないですか。でも僕はそういうタイプではなかったんです。一番人気の男の友達と家が近くて仲が良かったんですが、その子は人気者だからいろんな人と遊んだりしていて。表にはあまり出しませんでしたが、そういうのに超嫉妬しましたね(笑)。
俳優になれて本当によかった
──クランクイン前に就職試験を体験されたそうですね。具体的にはどんな試験を受けたんでしょうか。
まず僕は、(所属事務所である)アミューズの内定者が「ちょっともう1回面接やるか!」みたいな感じで面接されているところを見学したんです。ほかには共演者のみんなと一緒に東宝の筆記とグループディスカッション、グループ面接。最後に1対1の面接をやりました。
──グループディスカッションのときは、実際に就活をした学生も一緒だったんですよね。
内定者の人たちがいましたが、その中でも二階堂ふみちゃんが一番刺激的でした(笑)。ふみちゃんが発言すると誰も何も言えなくなっちゃうんですよ。彼女が場を制して主導権を握っていましたね。
──実際の就活生と触れ合ってみていかがでした?
すごいなと思いましたね……。まずエントリーシートを見たときに「限られたスペースの中にこんなにぎっしり書くのか」って驚愕しましたもん! 図を描いたり細かい工夫をしている人もいて。もし僕が就活をしていたらとんでもないことになっていたはずなので、俳優になれて本当によかったなって思います(笑)。
──就活体験は役作りに生かされました?
僕は面接を受けるシーンがあるので、実際の雰囲気をリアルに感じることができたのはよかったです。俺はこんなもんじゃないのにと思っていても、面接で空回りして過小評価を得るとモヤっとするじゃないですか。そんな気持ちをSNSに吐き出しちゃったりするのかなって実感しました。
基本は自由にやっていた
──撮影中は「毎日が舞台稽古のようだった」とキャストの皆さんが話していましたが、三浦大輔監督の現場はいかがでしたか?
三浦さんはセリフや動きの細かいニュアンスまで気にしている人だなという印象でした。クランクインの前に2日くらいかけて台本の全シーンのリハーサルをしたし、撮影が始まってからは同じシーンを繰り返して演じる回数がほかの作品よりも多かったかな。カメラが回ってからも何テイクも重ねる現場でしたね。
──例えばどんなシーンが大変でした?
僕が一番時間がかかったのは面接のシーンです。1シーンだけでしたが、苦戦して撮影に1日かかりました。
──そうなんですね。撮影中はどんなことを意識しながら演じていたんでしょうか。
拓人の言動が周りからどう見えるかというのがすごく大事だなと思っていました。こういう感じだとちょっと嫌なやつに見えすぎちゃうなとか、さじ加減を三浦さんと話し合いながら進めていきましたね。
──共演者の方とも役について話し合ったりしましたか?
できるだけリアルな関係性を表現したかったから、菅田将暉と「相づちとかは台本になくてもどんどん入れていったほうがいいかもね」という話をしたかな。でも基本はみんな自由にやっていました。菅田とは一緒のシーンが多かったから仲良くしていて、食事に行ったりもしました。
素顔はみんな役柄に近いかも
──共演者の方々の話ももう少しお聞きできればと思います。この作品はそれぞれのキャラクターに冷静分析系男子、地道素直系女子というようにキャッチコピーが付いていますよね。佐藤さんが皆さんに◯◯系男子、女子とコピーを付けるとしたらどうしますか?
難しい! 素顔はみんな役柄にけっこう近いかもしれないですね。自分も正直合ってるなと思っちゃうし、菅田が天真爛漫っていうのもぴったりだと思います。瑞月の地道素直系女子だけちょっと違うかな? 有村架純ちゃんはもっと深みがある。
──理香役の二階堂ふみさん、隆良役の岡田将生さんはどうですか? 劇中では、拓人は理香や隆良とはあまり打ち解けませんでしたが……。
ふみちゃんは、理香とは少しタイプが違う意識高い系かな。言いづらいんですけど……(笑)。岡田将生は弟みたいな感じで本当にかわいいんですよ。
──では先輩後輩の関係を演じた山田さんは?
(ポスターに書かれたキャッチコピーを見て)達観先輩系か……。山田さん自身も達観している印象がありますね。ほこらに杖を持って住んでいる仙人みたいな。共演者のことを話すのって難しいんですよね。面白くしつつ上げないといけないでしょ?(笑)
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「何者」2016年10月15日より公開
かつて演劇サークルに所属し、脚本の執筆や芝居に熱中していた大学生・拓人。今ではリクルートスーツに身を包み、ルームメイトの光太郎とともに就職活動に本腰を入れようとしている。拓人は光太郎の恋人だった瑞月に思いを寄せているが、彼女はいまだ光太郎に未練があるようだ。ある日、自分たちが暮らす部屋の上階に瑞月の友人・理香が住んでいることを知った拓人と光太郎。彼らは理香の提案で、就活の情報交換のため彼女の部屋に集まるようになる。理香の就活のやり方や、彼女と同棲中の恋人・隆良の就活生を見下すような態度に違和感を覚えつつ、拓人はままならない現実に次第に焦りを感じるように。そんな日々の中で、ついに仲間内から1人目の内定者が現れて……。
スタッフ
監督・脚本:三浦大輔
原作:朝井リョウ「何者」(新潮文庫刊)
音楽:中田ヤスタカ
主題歌:中田ヤスタカ「NANIMONO(feat.米津玄師)」
キャスト
二宮拓人:佐藤健
田名部瑞月:有村架純
小早川理香:二階堂ふみ
神谷光太郎:菅田将暉
宮本隆良:岡田将生
サワ先輩:山田孝之
©2016映画「何者」製作委員会
佐藤健(サトウタケル)
1989年3月21日生まれ、埼玉県出身。「ROOKIES」「龍馬伝」「Q10」「ビター・ブラッド~最悪で最強の親子刑事~」「天皇の料理番」などのテレビドラマや、「リアル~完全なる首長竜の日~」「カノジョは嘘を愛しすぎてる」などの映画に出演。緋村剣心を演じた「るろうに剣心」シリーズの3作目「るろうに剣心 伝説の最期編」で第9回アジア・フィルム・アワード主演男優賞に選出される。2015年には「バクマン。」、2016年には「世界から猫が消えたなら」が公開された。写真集+DVD「X(ten)」が販売中。