「わかってる」と言うほど「わかってない」
──演劇部のシーンは、笑子の普通の高校生活とまた雰囲気が異なりました。
清水邦夫さんの「楽屋」を演じるのは新しい挑戦でした。とにかく一言一句間違えないように。監督から「笑子は下手で勘違いした芝居をしてほしい」と言われたんですけど、演技の下手ってなんだ? 勘違いってなんだ?とずっと考えてしまいました。でも嘘の芝居が見えてくると、本当の芝居がわかってくるんです。
──部長から笑子の演技に関して厳しい言葉もありましたね。
いろんなことに悩んでいる時期なので「本当の自分がわかってない」と言われると図星なんです。そこを突かれると反発するしかない。そこには共感しました。自分でもよく使うんですけど「わかってるつもり」という言葉って、自分が一番わかってないじゃないですか。「わかってる」と言うほど「わかってない」。それがすごく浮き彫りになったシーンだと思います。
──正男といるとき、母親といるとき、友人といるとき、演劇部にいるときで、笑子はそれぞれ表情が異なります。駒井さんは意識的に演じ分けていたんでしょうか?
笑子のキャラクターは母親や友人、周囲の人との関係ありきなんです。自分で演じ分けることはせず、相手の役者さんの感覚や距離感に合わせる形で生まれていったんだと思います。笑子がおじさんといるときは、すごく楽しそうな一方で、ちょっと心の距離がある。そんな、相手がいるからこその関係を観ていただけたら。
「笑う子」って書くのに全然笑わない
──最初に「名前」という題名を目にしたときはどういった感想を?
「名前」って何を伝えたいんだろう?とすごく考えました。大切なものでもあるけど、それは肩書きでしかない。見た目とか誰もが気にするけど、そこまで重要じゃないものの象徴なのかなとは思いました。
──笑子という名前については?
「笑う子」って書くのにぜんぜん笑わないじゃんって(笑)。でもおじさんといるときの笑子の本当に生き生きとした瞬間は、笑顔に表れていると思います。
──笑子と正男がお互いの本名を明かすシーンもありましたね。
名前を教えるって少し心の殻を破るようなもの。聞いたほうはちょっと心を開いてくれたのかなって気持ちになるんですよね。笑子はいろんな偽名を使う正男に、本当の名前というか、本当の“あなた”を教えてくださいって伝えたんだと思います。
──笑子が正男に対して「おじさんはここにいるじゃん!」と言い放つシーンは、初めて笑子が素の感情をさらけ出していた気がします。
自分がわからなくなって、それでも「俺はこれでいい」っていう投げやりな態度を取る正男に対して、本当の自分をわかってくれる人を探している笑子は危機感を覚えたんじゃないかなと。「私はあなたにいてほしいんだよ」って。
憧れの女優は橋本愛
──来年の3月には高校をご卒業されます。
大学受験をする予定なので学生生活は続きます! でも高校生ってまだ子供ってよく言われるんですけど、そこを離れるともう大人だなあって。毎日会える友達がいなくなるのは寂しいですね。おしゃべりなんですけど、人見知りの面があるので新しい友達ができるか不安もあります……。
──劇中の笑子は好きなものを「きなこ、自転車、モーツァルト、夜に飛んでる飛行機」としていますが、駒井さんご自身の好きなものってなんですか?
実は私もその4つは好きなんです。小さい頃によく行ってた駄菓子屋ではきなこ餅が大好きでした。実家の周りは田んぼだらけなので、あぜ道を自転車で爆走する生活をしてましたし、ピアノをやっていたのでモーツァルトは好きでした。あと青空や空に飛んでる飛行機の写真をよく撮るんです。だから脚本に書かれているのを読んでびっくりしましたよ。笑子と視点は違いますけどね(笑)。
──好きな映画や俳優さんを教えてください。
私が女優という仕事に興味を持つきっかけとなった方がいて。橋本愛さんが大好きなんです。小学校6年生の頃に「あまちゃん」が放送されていて。とあるシーンを観たとき初めて俳優さんのお芝居というのを意識しました。それからとりあえず橋本愛さんが出演されている作品を全部観て、特に「さよならドビュッシー」が大好きです。
──では最後に「名前」をこれから観る方にメッセージをお願いします。
誰しも繕ったり、演技をしたりする自分がいますよね。もちろんそれは全然悪いことではなくて、でも本当の自分を自分自身で知っておいたほうがいいのかなとは思います。この作品がその問いかけをするきっかけになってくれるとうれしいです。
- 「名前」
- 2018年6月30日(土)より
全国で順次ロードショー
- ストーリー
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会社の倒産により、家を出て茨城にやってきた主人公・中村正男。複数の偽名を使い分け、危ういバランスを保ちながら新生活を始めた彼の前に、女子高生の葉山笑子が突然現れる。“おじさん”と呼ばれ振り回されながらも、正男は彼女との時間に安らぎを得るように。一方の笑子は学校生活や母親との関係性に思い悩み、またある秘密を抱えていた。
- スタッフ / キャスト
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監督:戸田彬弘
原案:道尾秀介
出演:津田寛治、駒井蓮、筒井真理子、勧修寺保都、松本穂香、内田理央、池田良、木嶋のりこ、金澤美穂、波岡一喜、川瀬陽太、田村泰二郎、西山繭子ほか
©映画「名前」製作委員会
- 駒井蓮(コマイレン)
- 2000年12月2日生まれ、青森県出身。2014年に「ポカリスエット」のCMでデビュー後、雑誌ニコラの専属モデルに抜擢され、2016年からは女優業にも幅を広げる。2017年にはドラマ「先に生まれただけの僕」にレギュラー出演。また「セーラー服と機関銃 -卒業-」で映画デビューを果たす。「心に吹く風」ではヒロインの少女時代を演じた。津田寛治とダブル主演を果たした「名前」が初主演作となる。2015年からはパナソニックオーディオのイメージキャラクターを務めている。