「笑った！ 顧千帆が！」と思わずキュンときました（笑）

──本作は趙盼児の恋愛も重要なストーリーラインとなっていますが、趙盼児と恋に落ちていく宮廷の秘密警察・皇城司の顧千帆（こせんはん）にはどんな印象を持ちましたか？

顧千帆は“生き閻魔”と呼ばれるキャラクターのわりには顔がきれいすぎるなと思ったんですけど、回を重ねていくうちにしっくりきてだんだんツボにハマっていきました。彼って最初はほぼ笑わないじゃないですか。でも、彼が母方の親族で恩師の斉牧（せいぼく）と会うシーンで初めて笑ったんですよ。「笑った！ 顧千帆が！」と思わずキュンときました（笑）。さらに観ていくと、彼は“生き閻魔”というもう1人の自分を演じているだけで、実際は“理想の王子様”だということがわかってきますよね。

チェン・シャオ演じる顧千帆（こせんはん）。

──科挙に受かって出世できるとなった途端に、婚約していた趙盼児を捨てることになる欧陽旭（おうようきょく）というキャラクターも登場します。

この時代だったら結果を出して良家の令嬢と結ばれて、さらに上へと上り詰めていって成功したいというのが野心としてあっただろうというのは理解できるところではあります。現代でも、都会の新しい彼女と地元で支えてくれた彼女、どちらを選ぶかという問題にぶち当たることはあるだろうなと……。

シュー・ハイチャオ演じる欧陽旭（おうようきょく）。

──この2人の男性と趙盼児が織りなす三角関係のラブストーリーの描写はいかがでしたか？

趙盼児が孫三娘に自分の弱さを吐露するシーンが出てきますが、彼女は賎民だった過去を乗り越えて強い女性を演じているけど、本当は自分の中にすごい劣等感があるんですよね。それに彼女には欧陽旭との過去もあるから、顧千帆との恋愛はすんなりとは行かない。やきもきしますよね。顧千帆もまた絶妙な距離感にいるじゃないですか。もうちょっと踏み込めばいいのになと思うんだけど踏み込まないし、趙盼児のほうから寄っていっても逃げるし。実際、リアルでも恋愛ってすぐにうまく行くものではないだろうけど、ドラマを観ているこちらはすっかり感情移入して早く2人に付き合ってほしいという気持ちになっていくので、うまいこと焦らしてくれるなって思いました（笑）。それからこの時代、家柄がすごく重視されていたということを痛感しましたね。どんなに好き合っていても身分の違いが障害になる。そんな困難を乗り越えていく2人の恋をじっくりと楽しめますし、長い物語ですので、時間を掛ければ掛けるほど実る果実は大きいというか、恋が成就したときの感動もいっそう味わい深くなっていると思います。

中国ドラマ「夢華録（むかろく）」場面写真

男女問わず幅広い世代の方にお薦めしたい

──本作は北宋の文化や風俗が鮮やかに再現されているのも評価されました。橘さんが注目したものはありますか？

中国の歴史に興味があって建築も好きなので、まずセットがすごいなと思いましたし、東京で趙盼児たちが住む家も素敵だなと思いました。飾り気はないけれど中国らしさがあってスパーンと抜けた空間のあるお庭があって……。それから、茶葉をすりつぶしたり、高い位置からお湯を注いだりするお茶の作法も印象的でした。趙盼児が踊りながらお茶を淹れるシーンがありますが、衣装もすごく中国らしいというか、常にドレープ感があって動いたときのシルエットがきれい。手を振ったり体を回したりするだけでも裾がたなびいて美しいと思いました。

中国ドラマ「夢華録（むかろく）」場面写真

中国ドラマ「夢華録（むかろく）」場面写真

──衣装がたなびくといえばアクションシーンもそうですね。橘さんは中国のアクション演技をどうご覧になりましたか？

このドラマもそうですが、中国ドラマのアクションって必ずと言っていいほどワイヤーを使いますよね。日本のドラマでワイヤーを使って普通の人間が急にパーンと高く飛んだらすごく違和感がありますけど、中国ドラマだとなぜか自然に見えてしまうという不思議な感じがあります。トゥーマッチに思えるようなことでも中国っぽさがあって面白いし、より高い身体能力が求められる俳優さんはかなり肉体的な鍛錬もされているんだろうなと思います。そういったことから考えても、中国ドラマってめちゃくちゃエンタメなんですよね。

──そうですね、「めちゃくちゃエンタメ」というのは納得ですね。

このドラマは要素のボリュームもすごいですよね。恋愛あり、アクションあり、政治ドラマあり、笑えるシーンもあれば甘いシーンや泣けるシーンもある。そんなふうにドラマがものすごく大衆的なのは、中国の人口が多いこととひょっとしたら関係しているのかも。つまり幅広い人々の心に刺さるエンタメを目指しているからだろうと思います。しかも、中国ではこういう時代劇が好まれて、若者も含めてさまざまな年代の人がこぞって見るヒット作が生まれているというのはうらやましいですね。

──どんな方にこの作品をお薦めしたいですか？

先ほども言ったようにいろんな要素が楽しめますし、現代風に言えば経営者、料理人、芸能人という強い女性3人が成長していく物語がキーとなっているので、女性の方は共感しやすいですし、男性でもこういう女性はこういう心配事があるのかな、こうやって励ませばいいのかなと自分の実生活に当てはめて考えられて、女性をよりよく知ることができると思います。また、僕はコメディ担当のキャラクターが好きなので、陳廉（ちんれん）、池蟠（ちはん）、杜長風（とちょうふう）といった笑いを起こしてくれる脇役男性たちも楽しめましたね。このドラマには本当にいろんなタイプのキャラクターが出てきますので、きっと皆さんも共感できるキャラクターを見つけられると思います。そして、キャラクターたちのさまざまなエピソードから学びや気付きが得られると思いますので、男女問わず幅広い世代の方にお薦めしたいです。