映画ナタリー PowerPush - Who is Xavier Dolan? / 「Mommy/マミー」グザヴィエ・ドラン

映画界の未来を担う俊英に独占インタビュー

ヌーヴェルヴァーグは見栄っ張りだから大嫌いなんだ

──本作であなたはカンヌ国際映画祭の審査員特別賞をジャン=リュック・ゴダールと同時受賞されましたが、デビュー作からずっと出品しているカンヌ国際映画祭はあなたにとってどういう意味を持っていますか。

グザヴィエ・ドラン

カンヌは僕の出発点。アーティストとして生まれたところだからね。すべてが起こった場所、まさに僕のルーツだ。

──あなたの作品が持つ革新性は、ゴダールをはじめとしたかつてのヌーヴェルヴァーグと比較されることもありますが、それについてどう考えていますか。

ヌーヴェルヴァーグは見栄っ張りだから大嫌いなんだ。感情を否定しているしね。だからほとんどのヌーヴェルヴァーグ作品には共感できない。もちろん尊重はしているし、歴史的に重要なものだったと理解しているよ。でもリアルな感情をさらけ出さない、頭で考えた論理的なスタイルだ。言葉を操って最も賢いドラマをどうやったら作ることができるのか、ってことに執着した自惚れたムーブメントさ。僕はまったく共感できないね。

──カンヌで、人生を決定付けた映画の1本として「ピアノ・レッスン」を挙げていましたが、それ以外に強く影響を受けた作品は?

「Mommy/マミー」の主人公ダイアンは、女手ひとつで息子を育てるたくましい女性。

正確に言うと、「ピアノ・レッスン」からパワフルな女性キャラクターを描くインスピレーションをもらったと言ったんだよ。影響を受けたというのはちょっと違うかな。観ればわかると思うけど「ピアノ・レッスン」と僕の作品に共通点は何もないよ。影響っていうものは僕の辞書にはないんだ。でもインスピレーションは信じるよ。僕らは人にインスピレーションを受けるけれど、それは目には見えない。直接何にインスパイアされたかわからないけれど、人が何かを創造するきっかけになるものなんだ。何かの真似をしたいと思わせる、そういうインスピレーションを僕が受けることはないね。そういう意味で僕にインスピレーションを与えてくれたほかの作品は、「マグノリア」や「タイタニック」、それに「ミステリアス・スキン」かな。

みんな僕がいくつかってことばかり気にしてる

──ウォン・カーウァイの作品が好きだと発言されていますが、アジアなど欧米以外の映画もよくチェックしているんですか?

正直そんなにたくさんは知らないんだ。アジアに限らず、ほかの国の映画監督の知識もほとんどない。でもアン・リーは好きだよ。有名な監督だからがっかりさせてしまったかもしれないけど。アジア映画に関してはロシア映画やポーランド映画と同じくらいの知識しかないんだ。まあ、映画そのものの知識もあまりないんだけど。

──世界的に高い人気を誇る黒澤明監督の作品はいかがですか?

1本だけ観たことがあるけど、好きじゃなかったな。僕には合わなかったよ。

──「アンファン・テリブル(恐ろしい子供)」「新世代の1人」と呼ばれ、若さに注目されることが多いですが、それについてはどう感じますか。

「Mommy/マミー」撮影中のグザヴィエ・ドラン。

僕が作った映画や僕自身をわかろうとするメディアなんか世の中にないんじゃないかな。みんな僕がいくつかってことばかり気にして、箱の中に無理矢理はめ込もうとしているんだ。僕をカテゴリーの中に入れたいのは、そうしないと僕が何者なのかまったくわからないからで、自分の想像力が足りないんじゃないかって気付いてしまうからさ。自分が何者なのかなんて疑問は誰も持ちたくないもんだよ。だから例えば「26歳の」とか、さっき質問で挙げていたような言葉でできた箱に僕を閉じ込めようとするんだ。きっとメディアは本当の僕なんか知りたいとも思ってないんじゃないかな。そうやって僕をカテゴリーの中に入れてしまえば、僕が何者で、何をやろうとしているのか簡単にわかると思っているんだろうけど、実際僕がやろうとしていることを理解している記事なんてほとんどないのが現実だよ。

「Mommy/マミー」2015年4月25日公開
「Mommy/マミー」

架空の世界のカナダで、スキャンダラスな法律が成立した。発達障害児を持つ親が何らかの困難に陥った場合は、自らの意思で子の養育を放棄し、施設に入院させる権利が保障されたのだ。ダイアン・デュプレは15歳の息子、スティーヴと暮らすシングルマザー。ADHD(多動性障害)があるスティーヴは、他人に対して攻撃的な態度を取りがちで、彼の面倒を見ることにダイアンは不安を感じている。そんな2人はある日、引きこもり気味で吃音の悩みを抱えた隣人、カイラと知り合う。次第に親交を深め、家族に似た関係性を築いていくが……。

スタッフ

監督・脚本・製作:グザヴィエ・ドラン

キャスト

ダイアン:アンヌ・ドルヴァル
カイラ:スザンヌ・クレマン
スティーヴ:アントワン=オリヴィエ・ピロン

Photo Credit by Shayne Laverdière / (c)2014 une filiale de Metafilms inc.

グザヴィエ・ドラン

グザヴィエ・ドラン1989年3月20日生まれ、カナダ出身。6歳より子役としてキャリアをスタートさせ、19歳のときに「マイ・マザー」で監督デビュー。これまでに4本の長編映画を発表し、すべての作品がヴェネツィア、カンヌなどの主要な映画祭へ正式出品された。「Mommy/マミー」ではジャン=リュック・ゴダール監督とともに、カンヌ国際映画祭の審査員特別賞に輝いた。ハリウッドを舞台にした次回作「The Death and Life of John F. Donovan(原題)」は、セレブリティの日常やマスメディアの洗脳を暴くブラックコメディ。ジェシカ・チャステイン、キット・ハリントン、スーザン・サランドンらを起用し、初の英語劇に挑戦する。俳優として出演した「エレファント・ソング」の公開を2015年6月に控えている。