無茶でも撮ろうという監督としての性があった(内藤)
──聞くところによると、本作は撮影に入るまでが大変だったそうで……。差し支えなければお伺いしてもよろしいでしょうか?
内藤 そうですね。監督として僕がオファーを受けたのが、クランクインの1カ月前だったんです。それより前から「ミスミソウ」を映画化する企画があるとは耳にしていて、「(監督は)俺じゃないのか。残念」と思っていました。
──それが突然、内藤監督のもとにお話が?
内藤 ある日、プロデューサーの田坂(公章)さんから「今すぐ会いたい」ってJ-POPのラブソングばりのメールが来たんです。それで2人で飲みに行って、近況や愚痴を聞いてるうちに「『ミスミソウ』の監督が降りることになっちゃってさ」「だから内藤さんに撮ってもらおうと思って」みたいな話になってきて。
山田・清水・大谷 えー!
内藤 もう酔いも覚めますよね。ぜひやりたいけど、この何も準備していないまっさらな状態から「1カ月後に撮影です」と言われても……という感じで。
──それでも引き受けようと踏み切った理由は?
内藤 山田さんのオーディション映像を見せてもらったんです。そうしたら、被写体としての魅力を感じて、どうしても彼女を撮りたいと思った。結果的にそれが決め手となりました。いろいろ大変でしたが、一度撮りたいと思ったら無茶でもなんでも撮ろうという監督としての性もありましたし。
山田 「(撮影)できないかもしれない」と言われて、一度はあきらめていたので。本当によかったです。
絵コンテがあるとイメージしやすい(清水)
──そうしてドタバタで撮影が始まったわけですが。
内藤 衣装が違うとか、小道具がないとか、ロケ地が間違って伝わっているとか、そんな感じで。
一同 うわー!
内藤 指が切断される場面がありますよね。本来ならCG部のほうから「こうやって撮ってください」って指示をもらうんだけど、CG部が決まってない状態でクランクインを迎えてしまい。みんな「どうしよう!?」という状態だったんですが、「そう言えば『マッドマックス』のメイキングで、片腕がなくなった人が緑色のテープを腕に巻いてたな。“緑”を巻いとけばいいんじゃない?」ってなって。
大谷 そうだったんですね……!
内藤 だからほかの映画のメイキングを参考にしながら、あれこれアイデアを出し合って。よく考えたらハリウッドの映画とは予算が全然違うんだけど(笑)。
──監督はご自身のTwitterに絵コンテを載せていましたよね。
内藤 特殊造形や特殊効果がある場面では、絵コンテがあるほうが準備や現場での進行がスムーズになるので、いつも描いてます。ここまでは造形で、ここからはこんな感じのCGでお願いします、と。池川が春花を押し倒すシーンでは、「カメラごと横に倒したい」ということも書き込んでイメージを共有したり。
山田 台本の後ろに絵コンテが付いていたんです。これ監督が描いたんですか!?ってびっくりするくらい絵がうまくて。
大谷 劇中、(佐山)流美が妙ちゃんの似顔絵を描く場面があるんですけど、それも監督が描いていました。
清水 やっぱり(絵コンテが)あるのとないのとでは、イメージのしやすさが全然違うよね。
──きっと現場では、スタッフもキャストも絵コンテに助けられる場面が多かったんでしょうね。お話を聞いている限り、撮影は大変ではあるけれど和やかに進んだようですが。
大谷 合宿みたいだったね。
清水 同年代が集まっているから、すごくにぎやかだった。カメラが回っている最中がしんどいくらい(笑)。みんな、楽しくやって精神を保つみたいな部分もあったのかな。
山田 (映画の)内容が内容だし、撮影以外のところで楽しく過ごしてプラマイゼロにしていたのかも。
清水 でも一番楽しそうだったのは、僕たちに血糊を塗る監督! 特殊メイクの人に「ちょっといいですか?」って言いながら、自分で(笑)。
山田・大谷 確かに!
内藤 わりと自分で塗りたい派なので。寺田農さんに血糊を塗れたのは、いい思い出になりました。
監督の思うつぼでした(大谷)
──内藤監督の作品と言えば血糊というイメージがありますが、今作の血糊にはどんなこだわりを?
清水 血糊へのこだわり、すごそう(笑)。
内藤 例えば「ライチ☆光クラブ」では赤黒さを重視していたんですが、今回は真っ白の世界に映える赤ということで。黒を入れずに彩度の高い赤を意識しました。
大谷 そう言えば、監督が「血糊をたくさん付けられたほうがいい女優になるよ」とおっしゃって。それで「もっともっと」って言われながら、たっぷり塗られました。
内藤 それは覚えてないなあ(笑)。
清水 そんなこと言われたら「じゃあお願いします」ってなっちゃうよね。それが狙いだよ!
大谷 監督の思うつぼでした(笑)。
──たくさんの裏話をありがとうございました。それでは最後に、代表して内藤監督から読者にメッセージをお願いします。
内藤 すさまじいバイオレンスですけど、その背景にある人間の心理が繊細に描かれているところが原作のよさだと思い、映画もそこを目指しました。ある種、自傷行為に近いような暴力なのかなと。届かない思いだとか、鬱屈した感情があって、他者を傷付けることで自分の心を傷付けるような話。そういうものが届くことを望みます。
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押切蓮介 インタビュー
- 「ミスミソウ」
- 2018年4月7日(土)公開
- ストーリー
-
東京から田舎に転校してきた野咲春花は、部外者として扱われ、壮絶ないじめを受けていた。唯一の味方は、同じように転校してきたクラスメイトの相場晄。彼の存在を心の支えに、必死に耐えてきた春花だったが、クラスの女王的存在・小黒妙子の取り巻きによる嫌がらせは日に日にエスカレートしていく。そんなある日、春花の家が火事に遭う。春花の妹・祥子は大やけどを負いながらも助かったが、両親は命を落としてしまった。やがて事件の真相を知った春花は、いじめっ子たちへの陰惨な復讐を開始する。
- スタッフ
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監督:内藤瑛亮
脚本:唯野未歩子
原作:押切蓮介「ミスミソウ 完全版」(双葉社刊)
主題歌:タテタカコ「道程」(バップ) - キャスト
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野咲春花:山田杏奈
相場晄:清水尋也
小黒妙子:大谷凜香
南京子:森田亜紀
佐山流美:大塚れな
※R15+指定作品
- 映画「ミスミソウ」公式サイト
- 映画「ミスミソウ」 (@misumisou_movie) | Instagram
- 映画「ミスミソウ」 (@misumisou_movie) | Twitter
- 「ミスミソウ」作品情報
©押切蓮介/双葉社 ©2017「ミスミソウ」製作委員会
- 山田杏奈(ヤマダアンナ)
- 2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。2011年、「ちゃおガール☆2011オーディション」でグランプリを受賞してデビュー。近年の出演作に映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」「咲-Saki-」「あゝ、荒野」「野球部員、演劇の舞台に立つ!」、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」など。2018年6月には「わたしに××しなさい!」が公開され、同作のドラマ版にも出演する。
- 清水尋也(シミズヒロヤ)
- 1999年6月9日生まれ、東京都出身。2014年、中島哲也監督作「渇き。」でいじめられっ子の【ボク】を演じて強い印象を与える。その後、「ソロモンの偽証 前篇・事件 / 後篇・裁判」「ストレイヤーズ・クロニクル」「ちはやふる」シリーズ、「逆光の頃」、ドラマ「電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-」「anone」などに参加。公開待機作に「3D彼女 リアルガール」がある。
- 大谷凜香(オオタニリンカ)
- 1999年12月24日生まれ、宮城県出身。2012年、第16回ニコラモデルオーディションで応募者12272人の中からグランプリに選ばれ、ファッション誌・ニコラの専属モデルとなる。その後、2016年6月号まで同誌で活躍した。2015年10月からテレビ東京系のバラエティ番組「ポケモンの家にあつまる?」にレギュラー出演中。
- 内藤瑛亮(ナイトウエイスケ)
- 1982年12月27日生まれ、愛知県出身。短編「牛乳王子」で学生残酷映画祭2009のグランプリを獲得。その後、「先生を流産させる会」「ライチ☆光クラブ」「ドロメ」2部作、dTVオリジナルドラマ「不能犯」など話題作を立て続けに手がけた。現在、長編自主映画「許された子どもたち」を制作中。