「コララインとボタンの魔女」「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」などを送り出してきたスタジオライカの最新作「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」が、11月13日に全国で公開される。ストップモーションアニメーションとして初めてゴールデングローブ賞のアニメーション映画賞を受賞した本作は、孤独な探検家とビッグフットのコンビが地球半周の旅に出る冒険譚。人形を1秒につき24コマ動かし続ける地道な作業に最新技術を掛け合わせ、ストップモーションアニメの限界点を常に押し上げてきたライカは、本作でも驚くべき進化を遂げている。
特集では、スタジオ設立から15年の歩みを振り返るとともに、5本の長編に込められたライカのスピリットを紐解いていく。次ページには新作「ミッシング・リンク」の魅力やメイキング映像に加え、「KUBO」でライカの魅力にハマったSKE48・高柳明音による推薦コメントも掲載しているのでお見逃しなく。
文 / 黛木綿子
2005年にウィルビントンスタジオの流れをくむ形で設立されたライカは、同年制作に携わった「ティム・バートンのコープス・ブライド」で名を上げて以来、5本の長編アニメーションを生み出してきた。そのすべてがアカデミー賞の長編アニメーション賞にノミネートされるなど高い評価を得ており、世界最高峰のストップモーションアニメスタジオとして確固たる地位を築いている。設立から15年の道のりを、各作品に宿るライカの精神とともにたどってみよう。
スタジオ名は、1957年にソビエト連邦によって宇宙に送られた犬ライカにちなんで名付けられた。インディペンデントであることの1つの証として、映画製作のメインストリームから外れた米オレゴン州ポートランドに本拠地を構えている。ちなみにCEOのトラヴィス・ナイトは、ナイキの創業者でありライカの所有者でもあるフィル・ナイトの次男。これまでライカのすべての長編作品でナイキとのコラボスニーカーが作られている。
少女のイマジネーションが作り出した
ダークな“もう1つの世界”
ライカの初長編を監督したのは、「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」で知られるヘンリー・セリック。ニール・ゲイマンの児童文学を映像化し、少女コララインが現実と“別の世界”を行き来して不気味なボタンの目の魔女と対峙するさまを描いた。ストップモーションアニメ初の3D映画として作られた本作では、3Dプリンタで作ったさまざまな表情の顔面パーツを入れ替える「リプレイスメントシステム」という革新的なアイデアを導入。「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の主人公ジャックは顔の表情が15通りだったのに対して、コララインは20万通りとその差は桁違いだ。
日本人のイラストレーター・上杉忠弘がコンセプトアートを担い、美しくもダークな雰囲気が立ち込めるパラレルワールドを生み出した。中でも制作陣のイマジネーションが爆発しているのが、光る草木が妖しげにうごめく庭のシーンだ。花の中心には卓球ボール、桜の花びらには25万個のポップコーンなど、身近な素材を使うアイデアも面白い。本作はアニー賞で3部門を受賞し、スタジオの名を映画界にとどろかせることになった。
©Focus features and other respective production studios and distributors.
- 「コララインとボタンの魔女」
- 発売中 / 発売・販売元:ギャガ
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[DVD] 税込1257円
映画愛と遊び心が満載!
冒険を恐れない少年少女の物語
2作目の舞台は、300年前に魔女狩りの現場となったと言われる町ブライス・ホロー。主人公の少年ノーマンは、ホラー映画好きで、死者と会話できる不思議な能力を持つ。周囲には変わり者扱いされていたが、あるきっかけで魔女の呪いから町を守る使命を帯び、同級生や姉、そしてゾンビたちと奔走することになる。共同監督と脚本を担当したクリス・バトラーは「グーニーズ」「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」など幼い頃に観た映画への愛をたっぷり込め、少年少女の冒険をユーモラスに描いた。ノーマンの携帯電話の着信音が映画「ハロウィン」のテーマ曲というのもグッとくる。ちなみにライカでは、毎年ハロウィンにガチンコ勝負の仮装コンテストを開催しているそう。公式サイトの会社案内をのぞいてみると、ゴーストメイクをしたまま働く猛者の姿も。
バトラーが「僕たちはストップモーションを約100年間束縛してきた限界に興味がない」と語るように、本作でもライカは冒険を恐れず、新たな制作方法を模索した。前作で使用した3Dプリンタを3Dカラープリンタにグレードアップし、肌のツヤ、酒焼けなど微妙な色の差を表現。ノーマンだけでも約8800個の顔パーツが作られ、150万通りの表情が可能となった。
©Courtesy of LAIKA Studios
廃品から発明品を生み出す
クラフト精神あふれるモンスターたち
これまでの2作で現代を舞台にしてきたライカが新たに挑んだのは、中世ヨーロッパ風の世界観。アラン・スノウの小説をもとに、“ボックストロール”と呼ばれるモンスターたちと、彼らに育てられた人間の少年の物語を紡いだ。駆除業者に狙われる彼らが息を潜める地下の世界から、権力者が暮らす丘のてっぺんの屋敷まで、上下にぐんと広がる街の風景が楽しい。ボックストロールたちは街から廃品を持ち帰り、数々の発明品を生み出す。そのクラフト精神は、まさにライカのスピリットそのもの。実際、スタッフたちは本作のために2万点以上の小道具を手作りしたという。
劇中の登場人物たちが「もし自分たちの世界がちっぽけなもので、巨人が俺たちを動かしていたら?」とメタ的な空想話を展開するエンドロールにも注目だ。「俺がウインクするために彼らは丸1日掛けるんだよ。家にも帰らずちまちま動かしてる。働きすぎだ」など、キャラクターを通したスタッフたちによる“自分ツッコミ”が止まらない! ストップモーションアニメ制作の苦労を自虐したそのユーモアに込められたのは「だけどこの仕事が好きなんだ」という揺るぎない思いだろう。
©2014 BOXTROLLS, LLC. All Rights Reserved.
- 「ボックストロール」
- 発売中 / 発売・販売元:ギャガ
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[DVD] 税込1257円
折り紙に命を吹き込む少年が
試練の果てに“物語の力”を知る
日本を舞台にした長編第4作の主人公は、三味線の音色で折り紙に命を吹き込む少年クボ。両親を亡くした彼はサルとクワガタをお供に、闇の魔力を持つ祖父との因縁に立ち向かう。黒澤明の「七人の侍」「赤ひげ」や葛飾北斎、歌川国芳の浮世絵など日本の伝統文化を徹底研究して作り上げられた本作は、スタッフいわく「日本へのラブレター」。その熱意が伝わったのか、日本でも口コミで話題となり動員10万人超のヒットを記録した。
美術や衣装へのこだわり以上に日本のファンの心をつかんだのは、クボが数々の試練を乗り越えた先で“物語の力”を知るというエモーショナルな展開だ。本作で監督デビューを果たしたのは、これまでプロデューサーとして製作に携わってきたCEOのトラヴィス・ナイト。「僕たちの任務は、大胆でほかと違った不朽の物語を伝えること。世に送り出す意味のある作品、そしてアニメ業界を確実に前進させる作品でなければならない」という彼の信念は作品にも反映されている。ナイトは本作をきっかけにハリウッド大作「バンブルビー」の監督に抜擢され、今度は人形ではなくロボットに生命を吹き込むこととなった。
なお、この年ライカは長年進化させてきた3Dプリンタの印刷技術が認められ、アカデミー賞科学技術賞を受賞している。
©2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.
- 「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」
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