恋愛リアリティショー「未来日記」のシーズン1がNetflixで配信されている。
約20年前にTBSのバラエティ番組から生まれた企画が、Netflixシリーズとして再始動。“これから起こることが書かれている不思議な愛の日記”を渡され、その指示に従って行動しなければならない2人は、果たして恋に落ちるのか? シーズン1では24歳の料理人・若松拓斗と、19歳の大学2年生・仲宗根真愛が過ごす日々がつづられる。
本特集ではライター・青柳美帆子のレビューを掲載。恋愛リアリティショーの楽しさの根っこにあるものとは? それを起点に「未来日記」の魅力を紐解いていく。
文 / 青柳美帆子(レビュー)
「日記」によって導かれる恋
年齢を重ねてくると、身の回りで恋愛の話がぐっと減ってくる。女友達と集まっても、プライベートの話となると、家族の話や仕事の話が多い。学生時代、放課後のファミレスやお泊まり会で交わしたような「誰が好きなの?」みたいな話は遠くなりにけり。でも、恋愛の話をしてるときにだけ得られる栄養って確かに存在している。
恋愛リアリティショーは、現代日本ではかなり減ってきた「恋愛をしてもいいと思っている人たち」と「恋愛してもいい空間」を用意して、恋をしてもらうものなのだと思う。仲を深めさせるため、もしくは引き離すために、さまざまなルールやイベントが設定される。
そのルールやイベントによっては、恋愛リアリティショーに「ドロドロ」「バトル」「修羅場」というキーワードが紐付くことがある。そういう作品ならではの楽しさもあるが、恋愛リアリティショーの楽しさの根っこにあるのはきっと、人が恋愛をしているときの一生懸命さを浴びること。毎回更新される「友達の恋の話」を聞くような感覚だ。
そんな“出発点”を思い出させてくれたのが、TBSテレビとNetflixが共同制作した恋愛リアリティショーのシリーズ「未来日記」だった。
本シリーズに出演するのは、北海道出身の24歳料理人・拓斗と、沖縄県出身の19歳大学生・真愛。拓斗はちょっぴりムキムキで「いいお兄ちゃん」という印象。真愛は明るい笑顔と、くるくる変わる表情が魅力的。友達が「この子と付き合うことになりました!」と紹介してくれたら、「おっ、めっちゃいい子そうじゃん!」と言いたくなるような男女だ。
「未来日記」には、「日記に書かれた『未来』に従う」という1つのルールがある。オーディションで選ばれた見知らぬ男女に届けられる1冊の日記。恋に落ちることと、最後には「永遠の別れ」があること──というふたりの「未来」が書かれている。日記はデートのたびに渡され、ふたりはそれぞれ日記に書かれたことに従わなくてはならない。
出身地も生活圏も違い、今回の企画がなければ出会うことがなかっただろうふたり。彼らに日記が渡されるところから「未来日記」は始まる。
「横浜を訪ねたあなたは運命の相手と突然出逢う」──。
日記は、ふたりに渡されるものもあれば、片方にだけ渡されるものもある。本シリーズでは、最初に真愛にだけ渡される日記「どんなに気持ちが動いても、未来日記が終わるまで彼に『好き』と伝えてはいけない」の存在がニクい。日記によって出会ったふたりは、日記によって翻弄されていく。
「お題」から「物語」へ
最初に「おっ、こういうことをやってくるのか!」となったのが、エピソード2に登場した日記だった。日記のおわりは「満開のひまわり畑でキス。ふたりにとって大切な場所がまた1つ増えた」。そのためふたりは、デートの最初からキスを意識してぎこちない。
エピソード1で初めて出会って、初めて話して、日を改めてデートをしたばかり。まだ「初めまして」から一緒に過ごした時間は24時間もないだろう。視聴者としては「まだキスは早いんじゃないのか……?」とそわそわする。しかも自分からしたいと思ったキスではなく、番組が用意した「お題のキス」なわけだから。
ふたりは北海道のひまわり畑に向かうが、途中仕込まれたトラブルが発生。2km以上の道のりを、動かなくなった車を押していかねばならなくなった。たぶんふたりの頭の中では、「これを乗り越えたら、キスか……」という期待と不安がぐるぐる回っていたと思う。
ところが、ふたりがたどり着いたのは、「ひまわりが1本も咲いていないひまわり畑」だった(この一面の緑の絵のインパクトがすごい。笑ってしまうほど緑である)。それもそのはず、撮影時期は7月。畑の手入れをしている女性が「ひまわりの時期は8月」と教えてくれる。
とても日記が指示する「満開のひまわり畑」ではない。頭が真っ白になっていそうな拓斗に真愛が告げる言葉がすごくよかった。
「今日じゃなくてちゃんと満開のひまわりを目の前にしたときにちゃんと(キスを)したい」「そのとき(満開の時期)にまたここに来て、ふたりで……っていう約束をしたいです」。
なんと機転が利いているんだ……! 「未来日記というスタッフからのお題」を、「ふたりの約束」に変えてくれた瞬間。ここに来て、この作品は「未来日記に従う」ではなく、「乗り越える」面白さを味わうものだとわからせてもらった。SEKAI NO OWARIによるテーマソング「Diary」が歌い上げるように、まさに「二人の物語」になっていく。
「普通だったら付き合ってるのに」の絶妙さ
本来出会わなかったはずのふたりだが、お互い「この相手に恋ができるといいな」という気持ちでやって来て、かつふたりとも嫌味がない気持ちいい男女なので、急速に打ち解けていく。お互いのからかい合うようなコミュニケーションがほほえましい。初めて会った日に「ヒゲの男性が好き」と言われてからというもの、律儀にヒゲを伸ばしている拓斗の姿など、「かわいいやつだなー」と言いたくなるようないじらしさもある。
DAIGOらのスタジオトークでも再三、「普通だったらもう付き合っちゃうよね」と言われるように、これが番組でなければエピソード2くらいで「付き合ってみようか」「うん!」で終わりかねない。
ところが「未来日記」のルールによって(なんせ、真愛は「好き」と伝えてはならないミッションを背負っている)、ふたりは接近しきらない。しかも未来日記のコンセプトである「未来日記で出会ったふたりは、未来日記で別れることが決まっている」によって、恋をしても別れなければならないという予感がある。この「でも、どうなるかわからない」という緊張感ともどかしさがクライマックスまで続くのが、「未来日記」の意地悪な魅力だ。
前半の山場になるのがエピソード3「真夏の初雪」。エピソード1、2と同様に、デート中のふたりに日記が届き、ある試練が課せられるのだが……「えっ、こんなことある? この先どうするの!?」と、スタジオトークのメンバーも視聴者も絶句する展開が待っている。結果的にこのエピソード3があることで、恋愛リアリティショーを見慣れている視聴者にとっても最後まで「読めない」シリーズになったんじゃないだろうか(観た人みんなに「3話どう思った?」と聞いてみたい……)。
撮影中、真愛は友達にたくさん拓斗との関係についての相談をしたという。我々は彼女の友達ではないけれど、その声が聞こえてくるようだった。8話まで観終えたとき、「いい恋バナを聞かせてくれてありがとう……!」とふたりの肩を叩きたくなる、そんな作品だ。