クイーンは味噌ラーメンを食べていても美しくあってほしい(はやみね)
──アニメーションで動いて言葉を発するクイーンはいかがでしたか?
山本 クイーンはお茶目だけど、芯が通っていて信念がある。そのギャップが素敵ですよね。実際に動いてしゃべるクイーンは、僕の中ではイメージ通りというか。原作を読んだときに頭の中で勝手にクイーンが動き回っていたんですが、それがそのまま投影されたみたいで。だから意外性とかではなく、ここまで再現できるんだ!という驚きがありました。
──クイーン役の大和悠河さんは宝塚歌劇団出身で、今回が声優初挑戦でした。試写会の舞台挨拶では、はやみねさんもご本人を前に太鼓判を押されていましたね。
はやみね クイーンは自分なりの美学を大事にするキャラクターなんですけど、例えば味噌ラーメンを食べていてもかっこよく美しくあってほしいんです。大和さんは魅力的なオーラがあり、いろいろお話しするうちにお茶目な面も見えてきて。まさに“リアルクイーン”やなと思いました。
──クイーンはどのようにして生まれたキャラクターなんですか?
はやみね 夢の中に出てきたんですよ。夢水清志郎、モナミ(「モナミは世界を終わらせる?」)、クイーンの3人が。ちょうど「夢水清志郎」シリーズを書いとった頃で、探偵VS怪盗ってロマンがあるよな、やっぱり怪盗が必要やなと思っていたんです。そのときクイーンが(夢に)現れたんですけど、国籍、性別、年齢とあらゆることが不明で──。いまだにクイーンに関しては自分もまだよくわからないことが多いです(※クイーンは「いつも心に好奇心(ミステリー)!」内の「怪盗クイーンからの予告状」で初登場した)。
山本 本当に怪盗のように現れたんですね!
はやみね そうなんです。夢水、モナミ、クイーンは本当に個性的で。モナミは動かしやすいというか、勝手に動いてくれるキャラクター。一方で夢水とクイーンは怠け者だから、よっぽど興味のある事件が起きないと自ら動かない。でも事件や獲物さえ与えれば、原稿の最後まで勝手にどんどん進んでいってくれるんです。
自分たちが好きだと思うものを届けたい(山本)
──ミステリー作品としての「怪盗クイーン」の面白さについてもお話しいただけますか?
山本 思考の誘導がすごく上手で。怪しいぞと思う不自然な瞬間がところどころにあって、考えるフックにはなるんですけど、それを追いすぎるとまんまとだまされる(笑)。原作の叙述トリックがアニメーションでうまく機能しているので、そういえばそうだった!とあとから気付かされるはずです。
はやみね 大変ありがたいですが……自分は一応ミステリーを書く人間を名乗っているんですけど、この作品はトリックがちょっと弱かったというか。ツッコミどころが多かったなあと映画を観て反省しました。
──はやみねさんは、どのように物語を作られるのでしょうか? 先にトリックを考えてから逆算するのか、それとも「こういう事件を起こしたい」と構想を練ったうえでトリックを考えるんですか?
はやみね 順序としては、不可能な事件を先に設定することが多いです。あと自分はうかつな部分が多いので、普通の人が普通に通り過ぎるような場面で「え、なんで!?」とだまされてしまうんです。そんなときに、なんでだまされたんやろと考えたら、思い込みや勘違いに起因していると気付きました。だから自分がだまされそうな要素をもとにトリックを考えます。
──山本さんもご自身で謎解きを考えていらっしゃいますよね。どんなときにひらめくのですか?
山本 僕の場合、日常生活の中にあるものをいつもと違う側面から見たときに思いつきます。
はやみね いつもの自分の視点と変えてみるわけですね?
山本 はい。例えば信号待ちをしているとき、信号機はどれも同じ順番に色が並んでいるから、その規則性を生かして暗号っぽいものを考えてみたり。みんなが答えを知ったときに納得できるように、日常の中から題材を見つけ出すことを意識しています。でもミステリー小説と謎解きクイズでは作る難易度が全然違うので……!
はやみね (メモを取りながら)いやあ勉強になりますよ! あまりこういう話をする機会がないから、教えてもらえるのはうれしいですね。
──はやみねさんとQuizKnockさんの活動において、分野は違えど何か共通点があるのかなと思いまして。山本さんの中で思い当たるものはありますか?
山本 難しいですけど、我々はクイズや謎解きを使ってみんなに面白い世界を知らせたい気持ちがあって。自分たちが本当に好きで面白いと思うものを届けたいという気持ちは通じる部分かなと思います。はやみねさんの作品を読むと、ミステリーが本当に好きなんだろうなというのが伝わってきますし、作り手の信念というか、みんなにも楽しんでもらいたいという思いを感じます。
はやみね 楽しさを知ってもらいたいというのは、ほんまにそうです。自分もそういう気持ちで書いているから、子供らが「面白かった!」と言うてくれるのが何よりの報酬です。だから「怪盗クイーン」のアニメをきっかけにミステリーが面白いと思ってくれたら最高。10年、20年前に原作を読んでいた人が今は親になって、自分の子供に「昔お母さんお父さんが読んどったんよ」と話してくれるのもうれしいです。
はやみねかおるに山本祥彰から質問!
──貴重な機会ですので、山本さんからはやみねさんにお聞きしたいことがあれば。
山本 この場をお借りして質問させていただくのは恐縮なんですけど……はやみねさんの作品には共通して“覚めない夢”というキーワードがあると思うんです。でも昔と今の僕では捉え方が違うというか。小さい頃は“覚めない夢”ってすごく怖いイメージだったんですけど、今は案外怖くないんじゃないかと思って。はやみねさんは“覚めない夢”が怖くないと思ったことはありますか?
はやみね そうですね……プロになって5年目ぐらいから“覚めない夢”が頭の中にずっとこびり付いているんです。「人間死んだら終わり、あらゆる苦痛から解放されて喜びも何もなくなる、無に帰る」と思っているから、もし死んだ先に“覚めない悪夢”のようなものがあったらものすごく怖いと思います。“覚めない良い夢”ならうれしいですけどね。“覚めない夢”を良い夢にするか、悪夢にするか。自分はできるだけ、みんなが“覚めない良い夢”を見て読書を終えられるようにしたいと思いながら書いています。
山本 ありがとうございます。もう1ついいですか? お答えできればでいいのですが。名前って自分を表現する大事なものだと思うんですけど「はやみねかおる」という名前を選ばれた理由を教えていただけますか?
はやみね これは“漢字王”の山本さんに説明するのも恥ずかしいんですが(笑)。「はやみねかおる」を漢字で書くと「勇嶺薫」なんです。音読みすると「ゆうれいかおる」ですよね。自分は「幽霊」というあだ名で呼ばれていたんで、そこから取ったんです。幽霊がここにいるよ、幽霊がおる、ゆうれいかおる……しょうもないですね(笑)。でも子供向けの賞をいただいたとき、このペンネームだと子供たちは読めないと言われたんで、ひらがなにしますかってことに。そんなんで今は「はやみねかおる」でやらせてもらっています。
山本 “幽霊”や“夢”、どこか現実的ではないみたいな通じるところがありますね。
はやみね 単純に自分の体がものすごく丈夫で、けがをしてもすぐ治ったんですよ。最初は「不死身やな」とか言われていたんですけど、そのうち「あいつ死んどるんじゃないか?」となって、いつの間にかあだ名が「幽霊」に変化していった感じです。
山本 そんな背景があったとは(笑)。
はやみね すんません、しょうもない話で(笑)。でも自分をもっとも表してくれる漢字が「勇嶺薫」だなと思います。
プロフィール
はやみねかおる
1964年生まれ、三重県出身。三重大学教育学部を卒業後、小学校の教師を経て作家になる。「怪盗道化師(ピエロ)」で第30回講談社児童文学新人賞に入選。「名探偵夢水清志郎事件ノート」「都会のトム&ソーヤ」「少年名探偵 虹北恭助の冒険」などのシリーズのほか、「バイバイ スクール 学校の七不思議事件」「ぼくと未来屋の夏」「帰天城の謎 ~TRICK青春版~」などの作品を手がける。
はやみねかおる 講談社 (@hayaminekaoru30) | Twitter
山本祥彰(ヤマモトヨシアキ)
1996年6月1日生まれ、埼玉県出身。早稲田大学先進理工学部に在学中より、クイズを題材とするWebメディア・QuizKnockのメンバーとして活動を始める。YouTubeのほか「東大王」などのクイズ番組でも活躍。2022年に漢検1級を取得し、「QuizKnockの漢字王」と呼ばれる。2022年7月1日には、QuizKnockが作る周遊型謎解き「謎解きガイドブックシリーズ」第3弾が東京・兜町にて開始予定。