第23回文化庁メディア芸術祭「海獣の子供」渡辺歩 / 五十嵐大介インタビュー|アニメとマンガ、監督と原作者が語る「海獣の子供」たちの関係

双子の兄弟だと思っています

──実は渡辺監督から五十嵐先生への質問をお預かりしていまして。

あら、なんでしょう?

──まず単刀直入に、アニメ版の「海獣の子供」を楽しんでいただけたでしょうか?と。

「海獣の子供」

映画自体は本当に楽しめたんですけど、正直に言うとあのクオリティで観るなら自分の原作じゃないもので観たかった(笑)。観ていてふとしたときに反省が始まってしまうんです。「原作のこのセリフ、別の言い回しがよかったかな」とか、雑念が……。なので、没頭できるまでに何度か劇場に通ったんですよ。

──そうだったんですね! 何度もご覧になっていかがでしたか?

素晴らしい映画を観せてくださって本当に感謝しています。制作期間が長かったという点も、映画にとっては幸せなことなんじゃないでしょうか。スタッフさんたちの努力が形になり、評価されてよかったなと思います。

──監督も喜ばれると思います。次の質問ですが、先生にとってアニメ版の「海獣の子供」はどういう存在になりましたか?

前に監督にもお話したことがあるんですが、原作があってそれを映画にしたというよりも、共通の物語の種があって、それをマンガにしたら私の「海獣の子供」、アニメにしたら渡辺監督の「海獣の子供」になるという、兄弟みたいな感じですね。

──監督は原作を超えることはできないから、弟と言ってくれるならうれしいとおっしゃっていました。

そんな! 双子の兄弟だと思っています。

──ぜひとも監督に伝えさせていただきます!

もっと視野や表現の幅を広げていきたい

──先生の制作作業はフルアナログだったかと思うんですが、最近はデジタル作画ツールを選択する作家も増えていますよね。先生が手描きを選択されている理由はどういう点にあるんでしょう?

「海獣の子供」第5巻より。 ©五十嵐大介/小学館

チャレンジしたいなとは思っているんですけど、今自分が選択している技法で思った通りのものができていないので、それをもっと研究したいなという理由が大きいですね。もしかしたらデジタルにしたほうが自分の思っている表現に早くたどり着くかもしれないですけど、今やっている方向性でもっと見えるものがあるんじゃないかなと思って続けています。

──先ほど今後のマンガはどうなるのか、というお話が出ましたが、これからのクリエイターに期待することや、ご自身が挑戦したいことがあればお聞かせいただけますでしょうか。

多分、これからの若いクリエイターからは私には思いもよらないものが出てくると思います。自分に関しては改めて勉強したり、取り組み方を見直したりしたいですね。もっと視野や表現の幅を広げていきたいと思っています。

──先生は絵本も手がけられていますが、これからマンガ以外の作品にも挑戦されるということでしょうか?

マンガに限らずいろんなことをやってみたいですが、チャレンジしてはマンガに戻ってくるような形かもしれませんね。慣れで描いてしまわないように気を付けてはいるんですけど、やっぱりマンガ的な描き方が身に付いているので、そこをもう一度崩していくというか、別の表現が探せたらいいなと思っています。


2020年3月30日更新