「前田建設ファンタジー営業部」小木博明×佐久間宣行インタビュー|感動するって聞いてない!“和製ジャスティン・ビーバー”も驚いた、熱いお仕事ムービー

コント集団みたいな空気(佐久間)

──完成披露試写会などでも、キャストの皆さんがとても楽しそうな現場の雰囲気を語ってらっしゃいましたが、小木さん、撮影はいかがでした?

「前田建設ファンタジー営業部」

小木 本番が始まる前にとにかくみんなで練習したことを覚えています。僕が一番歳上なのでみんな練習に付き合ってくれるんですよ。そうやって、「ああしたほうがいいこうしたほうがいい」ってみんなで作り上げていくうちにチームワークがよくなってきました。ファンタジー営業部の5人がいいチームに見えているとしたら、それは練習の賜物なんです。

──小木さんが撮影終了よりも早い時間に予定を入れて、巻いて終わるようにしたというエピソードを小耳に挟んだんですが……。

小木 巻くために練習したっていうのもあります。

佐久間 (笑)。なんか劇団というか、コント集団みたいな空気ありましたよね。あれは、裏でめちゃくちゃ練習してたからなんですね。

小木 そう! あとはリハーサルとかドライで動きを付けていくんですけど、演技は本番を撮るときには完全にできあがっているんですよ。

佐久間 なるほどなるほど。

小木 だから、舞台っぽい感じがあるかもしれないですね。

佐久間 舞台で言うと、もう4公演目ぐらいのリラックスした雰囲気でしたもん(笑)。みんなが遊びを入れられるぐらいの余裕ができた状態で、本番を撮ってるんですね。

小木 そうそう。だからみんなけっこうアドリブも入れたりしてるんですよ。なにしろ4公演目だから。でも僕以外はみんな役者さんだから、「こんなに練習したことない」って言われました。

──ものすごい練習量だったんですね……! 佐久間さんにお伺いしたいんですが、芸人としての小木さんと、役者としての小木さんのそれぞれの魅力を教えていただけますか?

佐久間 芸人としての小木さんは付き合いが長すぎてなんとも言えない……(笑)。

小木 なんとも言えないって何!?(笑)

佐久間 小木さんは基本優しいです。優しくていろんなことをよく見ているから、現場のことを考えて逆張りして、あえて強いことを言ってくれるんです。芸人としての自分の撮れ高よりも、人一倍現場をよく見て「これが必要でしょ」とか言ってくれるし、求められる以上のことをしちゃうときもあるんですけど(笑)。「ゴッドタン」は爆発力がある劇団ひとりと、何でもできる矢作さんがいて、たまたまいいバランスでできたからこんなに長く続いてると思うんですよね。

──なるほど。

佐久間 役者としての小木さんは、まず顔がかっこいい。

小木 うん、俺も思った。

佐久間 矢作さんもよく言ってますけど、イタリア人みたいで日本人にあまりいない顔なんですよ。フォルムと顔が芸人っぽくなくて、かっこいい。だから小木さんが動くとめちゃくちゃ面白いんですよ。小木さんってもともとバク転できる人ですから。サッカー部のストライカーで運動神経もあるし、そもそも身体能力がある人が太ると面白いですよね。

小木 (笑)

俺ってアートだな(小木)

──小木さんはキャストとして、佐久間さんは観客として、それぞれの目線でお好きなシーンを伺いたいです。

リモート対談中の小木博明。

小木 冒頭のキャストが出てくるシーンですね。自分が映画に出ていることが少し恥ずかしいっていう気持ちもあったんですが、英監督がいつも「いいよー! よかったよー!」って乗せてくれるので、撮影中はあんまりモニターをチェックしていなかったんですよ。でも完成した映像を観たら、俺ってこんなに画に映えるんだ……!って。英監督が僕にひと目惚れした理由がわかりましたよ。

佐久間 (爆笑)

小木 「俺、こんなにかっこよく映るんだ」っていうのを知らなかったんですよね。矢作もよく自分のカメラで俺を撮ってくれるんですけど、「小木が入ると画が強くて、ほかのものを食っちゃう」って言うんですよ。オープニングでも俺が一番輝いている。英さんがそれぐらいかっこよく撮ってくれたんですよ。

──冒頭映像は作品公式サイトでも公開されているんですが、何回も観たいぐらいかっこいいですよね!

小木 かっこいいですよねー。俺を使うってこういうことなんだと思いましたもん。実は、自分の顔に少しコンプレックスがありましたから。

──そうだったんですか?

小木 ネガティブなものじゃないですけど、映画の重要な役どころで出ても大丈夫かな、画的に弱いんじゃないかなと思っていたんですよ。でも今回、俺が映るとアートっていう1つの要素が増えることに気付きました。俺ってアートだな、と。

佐久間 俺ってアート!(笑)

小木 それぐらい画が強くておしゃれになります。

──(笑)。佐久間さんはいかがでしたか?

佐久間 仕事のモチベーションがなかった人たちが、やりがいを見つけていく中盤のシーンが好きですね。会社員としてシーンの1つひとつに熱くなりました。ファンタジー営業部の仕事だけじゃなくて、社会人としての壁にぶつかってる人たちが仕事に情熱を傾けてる人に出会って、自分がやったことが認められる喜びを見つけていくシーン。泣けましたね。

「前田建設ファンタジー営業部」

小木 うんうん。

佐久間 あとはクライマックス。あそこはバカバカしい部分も含めて英さんのよさが全部出ていて、熱くて笑えるシーンでした!

──クライマックスはすごかったですね! 私の話で恐縮ですが、中盤から「下町ロケット」「陸王」といった池井戸潤先生原作のドラマを観ている気分になってきたんです。

佐久間 確かにそういう雰囲気もありますね! 池井戸先生原作のドラマも好きなんですけど、「感動させるぞ」という物語だから、もちろん泣けるじゃないですか。でもこの作品はバカバカしいオープニングから始まって、「えっ、感動するって聞いてないんだけど!」と思わせるからさらに熱くなるんですよ。

エンタテインメントは意味のあるもの(佐久間)

──佐久間さんと小木さんといえば「ゴッドタン」でのタッグが有名かと思います。佐久間さんは「ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE」シリーズでは監督も務められましたのでぜひお聞きしたいのですが、バラエティにおける演出家と芸人の関係は、映画の監督とキャストに近いものがあるのかなと思いました。実際はいかがですか?

リモート対談中の佐久間宣行。

佐久間 もちろん作品によるとは思いますが、僕は少し違うと思っています。僕の場合だと、キャスティングの時点で演出がもう終わっているようなものなんですよ。「この人がよさを発揮してくれたらそれでいい」と思う番組をけっこう作ってきたので、カンペは出すけど、現場で「ここはこうなんだよ!」っていう直し方をするタイプじゃないですね。映画監督って自分のイメージを具現化していく仕事だと思うんですけど、僕は自分の遊び場で想像を超えていってくれるものを見たいタイプなんです。

──もしまた映画の監督をする機会があるとしたら、次はどんな作品にしたいと思いますか?

佐久間 笑いの方法論を使うとめちゃめちゃ怖いものを作れるかなと思っているので、サスペンスをやってみたいですね。それか、めちゃめちゃバカバカしくて熱いコメディ。だから「前田建設」の雰囲気はけっこう好きでした。

──本作には「『意味のないこと』に本気で取り組んだ熱きサラリーマンたちを描く」とキャッチコピーが付けられていました。「マジンガーZ」というフィクションを相手に奮闘し、実際に制作せずとも実物を作れるぐらいの見積書を完成させようとするドイやアサガワたちの挑戦は、空想で楽しさを作り出すエンタテインメントの世界にも通じる部分があるのではと思います。バラエティ番組制作の第一線で活躍されている佐久間さんに伺いたいのですが、エンタテインメントは人の生命には直接関わらないものなのに、なぜこれほどまでに人々に求められるんでしょうか?

「前田建設ファンタジー営業部」

佐久間 エンタテインメントにできることはいろいろあると思うんですが、僕は想像させることだと思っていて。本も映画も、何十人何百人の天才が叡智を絞って1冊の本や、2時間の映画にするじゃないですか。そうやってできた作品には、自分の人生経験だけだったらたどり着けないものが詰まっていると思うんですよ。だから、優れたエンタテインメントって人の痛みや自分と違う価値観まで想像させることができて、それを読者や観客の人生経験に還元できるんです。想像力を育てるっていう点では、エンタテインメントは意味のあるものだと思っています。

──なるほど。最後となりますが、今回のBlu-ray / DVDで初めて「前田建設ファンタジー営業部」に出会う人もいるかと思います。お二人はどんな人にお薦めしたいでしょうか?

小木 とにかくサラリーマンの人に観てほしい! がんばる気力をもらえて、元気になれる作品だと思います。

佐久間 タイトルと全体のイメージからこの映画を「ただのコメディ映画」だとなめてる人はまだたくさんいると思うんですよね。でもこれは、めちゃくちゃ熱いお仕事ドラマなので、自分の仕事に悩んでる人とかキャリアの分岐点にいる人、学生だったらこれからどういう仕事しようかなと思う人にとっても、熱くなれる間口の広い映画ですね。気軽に観てくれたら、ハードルを越えると思います。