映画ナタリー PowerPush - 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」
長き沈黙を破り伝説のシリーズが復活!ジョージ・ミラーが語る新たなマスターピース誕生までの軌跡
「AKIRA」に触れて、日本のアーティストが同志に思えた
──前田真宏さんはどういう経緯で起用したんですか?
自分がアニメーションを手がけるようになってから、以前にも増して日本のアニメやマンガの優雅さと効率と美意識に影響を受けるようになった。前田さんを「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のデザイナーに起用したのもそういう理由だ。とても楽しく協業できたし、素晴らしい仕事ぶりを見せてくれた。前田さんは天才だと思うから、彼と「マッドマックス」のアニメを作りたいと思っていたんだが、予定が遅れたりワーナー側の体制が変わったりして実現に至らなかった。それで今回の実写版で協力をお願いしたんだ。
──あなたはインタビューで大友克洋の「AKIRA」にも言及したことがありますね。
私はオーストラリアのアウトバックにある田舎町で幼少時代を過ごしたから、娯楽は映画とマンガしかなかった。よくお絵描きしたり絵の具で遊んだりしたね。医学の道に進み医者になったが、その後結局は映画を作ることになった。それで「マッドマックス」を作ったわけだが、おかげで日本に行くことができた。「AKIRA」をはじめとした日本のアニメやマンガに初めて触れてピンときた。日本のアーティストたちが同志のように思えたんだ。「AKIRA」に至っては、私だけでなく、世界中の人に影響を与えている。「マトリックス」のウォシャウスキー姉弟やクエンティン・タランティーノらもそうだね。
──どういう部分で影響を受けたんでしょうか?
「AKIRA」は世界観を作る上でもストーリーを語る上でも、何よりもビジュアルを大事にしている。「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でもそこを意識していて、「荒野だからといって、美しくできないわけではない」とスタッフに伝えた。車の部品に捨てられたゴミが再利用されているという設定であっても、まるで宗教的な意味を帯びているかのように美意識が感じられるデザインにしてある。この美意識は人類が太古から持っていたものだと思う。技術のない旧石器時代の原始人だって、素晴らしい洞窟壁画を描いているくらいだからね。私はそういう美意識を日本のマンガやアニメから学んだんだ。
「マッドマックス」は中毒性のある映画
──逆に日本にも「マッドマックス」の影響を受けたマンガやアニメがたくさんあることを知っていますか?
「マッドマックス」の影響を受けた作品の名前までは知らないが、そういうものがあることは聞いているし、見たこともある。とても光栄なことだ。日本人のアーティストに影響を与えることができたとしたらうれしいね。今は情報の行き来が昔より簡単になり、さまざまな文化の美意識が溶け合うようになってきた。とてつもなく面白い世の中になったと思うよ。
──映画大国とは言えなかった70年代のオーストラリアから生まれた「マッドマックス」が、これほど世界中で愛された理由はなんだと思いますか?
皆が共鳴したのは、ジョゼフ・キャンベルの著作「千の顔を持つ英雄」に見られる古典的な英雄神話と通じるものがあったからだろう。「スター・ウォーズ」も「千の顔を持つ英雄」にインスパイアされている。つまり同じような神話がさまざまな文化圏で脈々と語り継がれてきているということだ。「マッドマックス」も英雄神話だ。壊れた英雄だけどね。
──普遍性のある物語だったということですね。
その通りだ。フランスでは「車の西部劇」と言われた。スカンジナビアでは「マックスは孤独なバイキング戦士」と例えられた。1980年に日本に行った際には「マックスは侍のようだ」と言われたことを覚えているよ。当時の私はまだ外国のことをあまり知らなかったから、多くの文化圏に同じような神話の原型があるということに驚いたね。今のアクションヒーローやスーパーヒーローもローマ神話やギリシア神話の神や半神を模したものと言えるだろう。
──気が早いですが、また3部作になる予定は?
この映画が成功したらもちろん検討する。ストーリーをあと2つ考えないとね。ただ、しばらくはアフリカの砂漠での撮影はやりたくない(笑)。本当に大変だったから、ようやく完成に漕ぎ着けてほっとしているところなんだ。ただ、観客の皆さんにとっては、一度観たら、この世界やキャラクターたちが夢にまで入り込んできてまた観たくなる、そんな中毒性のある映画になっているはずだ。抵抗できないと思うよ。
砂漠をフルスピードで疾走する改造車、狂気に満ちたキャラクター、そして2時間ノンストップで繰り広げられる壮絶なアクション。「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が、日本の観客に“中毒”症状をもたらす! まずは予告編を観て、マッドな気分を盛り上げよう。
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」2015年6月20日より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほかにて 2D/3D & IMAX3D公開
核戦争後、水も石油も枯渇寸前となった地球。愛する妻子の命を奪われ、砂漠をさまよっていた元警官のマックスは、暴力で民衆を支配するイモータン・ジョーの手下たちに捕われる。髪を刈られ、刺青を彫られ、奴隷の証である焼印を押されたマックスだが、ジョーの右腕である女将軍フュリオサの謀反に乗じて脱出に成功。マックスは、フュリオサ、ジョーの子供を産むために集められていた美女たちと共に逃避行を始めるが、ジョー率いる大軍が背後に迫ってくる……。
スタッフ
監督・脚本・製作:ジョージ・ミラー
キャスト
マックス:トム・ハーディ
フュリオサ:シャーリーズ・セロン
ニュークス:ニコラス・ホルト
イモータン・ジョー:ヒュー・キース・バーン
吹替声優
マックス:AKIRA
イモータン・ジョー:竹内力
エレクトス:真壁刀義(新日本プロレス所属)
日本版エンディングソング
MAN WITH A MISSION×Zebrahead「Out of Control」(ソニー・ミュージックレコーズ)
ジョージ・ミラー
1945年オーストラリア生まれ。医大に進学し医師となるが、映画コンクールで入賞したことをきっかけに、映画の道へ。1979年に「マッドマックス」で長編監督デビューを飾り、「マッドマックス2」「マッドマックス サンダードーム」と次々にヒットを飛ばす。その後、ハリウッドに進出しさまざまな作品の製作や監督を務め、90年代以降は「ベイブ」「ハッピー フィート」などのファミリー向け映画を手がける。70歳を迎えた2015年、ずっと企画を温めてきた「マッドマックス」シリーズのリブート作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でバイオレンスアクション映画に回帰した。
2015年6月15日更新