長回しの本番は計5回、3Dへの不安と啓示
長編デビュー作「凱里ブルース」でも後半40分間のワンカットを実践していたビー・ガン。しかし限られた予算で制作した前作では、技術的な部分から満足のいく結果を得られなかったという。
そして「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」で再び長回しに挑戦。さらに主人公の旅路を前半とは異なる質感にするため3Dでの表現を選んだ。ビー・ガン曰く「すべてを事前に計画し万全を期す必要があった」という3Dワンカットの撮影は、広大な美術セットが組まれた凱里の郊外で行われている。
撮影直前まで大きな不安を抱えていたが、ウォン・カーウァイ作品で知られる照明のウォン・チーミンの存在が支えになった。ビー・ガンは「彼が照明を準備するや否や、私は再び啓示を受けたように感じました。何も妥協する必要がないことを知らしめてくれた」と、その多大な影響を明かす。
撮影監督は計3人がクレジットに名を連ねており、3D部分の撮影は「裸足の季節」で知られるフランス人ダーヴィッド・シザレが担当。基本的にルオの行動を追っていく長回しだが、徒歩はもちろん、トロッコやバイク、リフト、空中浮遊といった移動シーンを流れるようなカメラワークで捉えていく。本番は計5回のテイクが重ねられ、最後のショットが本編に使用された。3Dのイメージを「単なるテクスチャー」「からくり」とも語っているビー・ガンの真意とは。ぜひ主人公と一緒に映画館で眼鏡を掛けて、新しい3D映画を体験してほしい。
なおコロナウイルスの影響により、観客へ3D眼鏡を貸与するシステムの映画館では、当初予定していた3D上映が中止となった(2020年2月28日現在)。2D版では画面が明るく保たれるため、ビー・ガンこだわりの美術セットのディテールをより細部まで堪能できるという利点がある。上映の詳細は映画の公式サイトで確認を。
また「凱里ブルース」も4月18日より全国で順次公開される。
自身の故郷である貴州省凱里市での撮影にこだわり、その土地の気候や風土、地形を巧みに映画の中へ取り込むビー・ガン。彼の「撮影している場所の雰囲気をキャプチャーしたい」という言葉の通り、現場を捉えたスチール写真にも単なる美術セットとは言い難い雰囲気が充満していた。
ビー・ガン
「“3Dによる長回し撮影”という技術面で直接参考にしました」