2017年に短編映画「そうして私たちはプールに金魚を、」で日本人監督として初めてサンダンス映画祭短編部門グランプリに輝いた長久允。彼の長編初監督作であり、すでに海外映画祭で3つの賞に輝いている「ウィーアーリトルゾンビーズ」が、6月14日についに日本公開される。本作は、両親を亡くし、火葬場で出会った13歳の少年少女4人が、心を取り戻すためにバンドを結成する青春音楽映画だ。
ナタリーでは、本作の公開を記念した特集を3ジャンルにわたって展開する。映画ナタリーでは、劇中バンドLITTLE ZOMBIESのマネージャー・望月役を務めた池松壮亮と、長久の対談をセッティングした。サンダンス受賞後に「僕は映画界に無視されているのでは……」と嘆いていた長久と、そんな彼の才能に惚れ込んだ池松。長久の特殊な映画作りについてはもちろん、2人の少し変わった幼少期についてもたっぷり語り合ってもらった。
取材・文 / 浅見みなほ 撮影 / 南阿沙美
なぜみんな、この人を放っておくんだ(池松)
──本作は、「そうして私たちはプールに金魚を、」(以下、「金魚」)で、サンダンス映画祭短編部門グランプリを受賞した長久監督の最新作です。池松さんは、「金魚」や長久監督の存在をどのタイミングで知りましたか?
池松壮亮 存在は知っていたんですが、公開当時「金魚」を観ていなかったんです。公開1年後くらいに配信サイトで観ましたね。人に薦められたんですけど、その人の目を信じてなかったので(笑)。
長久允 ええ!(笑)
池松 普段から僕、自分の目で観ない限りは、他人のお薦めを信じない人間なんですよ。でも「金魚」を観たとき、本当にド肝を抜かれて。なぜみんなこの人を放っておくんだ、おかしい!と思いました。
──サンダンス受賞後、監督自身が「映画界に無視されているのでは……」とおっしゃっていたんですよね。そこからどのように本作の製作に至ったのでしょうか?
長久 「金魚」のあと、やはりその……さほど映画業界からお声がけがないまま過ごしていたんです(笑)。そんなとき日活のプロデューサーさんからある原作を映画化しないかというお話をいただいたんですが、もっと違うことがしたいなと思って。
池松 (笑)
長久 そこで「代わりに、僕が考えている作品があるんですけど」と強引に提案しました(笑)。するとお金集めの調整などもうまくハマりそうということだったので、正式に作らせていただくことになりました。やっぱり僕は、誰かの物語の翻訳みたいなことをやるよりは、自分が伝えたいメッセージもたくさんあるので、オリジナルにこだわりたかったんです。僕は広告会社で働いているんですけど、2年前に育休を取っていた頃、2カ月くらいでバーっと書いたシナリオがすでにあったので、それを映画にしようと思いました。
──「金魚」は2012年に埼玉県で起こった事件にインスピレーションを受けて作ったそうですが、今回も何かモチーフがあるのでしょうか?
長久 2、3年前、ロシアに“青い鯨”というコミュニティが存在したんです。そこで、子供たちにSNSで毎日指令を送って、次第に絶望感を高めて自殺させてしまうという事件が起きて。それに影響されて、世界中の若い子たちが自殺してしまっていることがショックでした。そこで何か解決できないかなという使命感が芽生えて、絶望的な状況でも絶望を選ばない子供たちの話を書きたいという思いから、頭の中にバーっとストーリーが生まれたんです。結局自分の人生を投影することでしか書けないので、青い鯨からは少し離れて、自分の幼少期の思い出を入れながらシナリオを書きましたね。
大人でも子供でもない、僕に一番近い役(長久)
──池松さんは今回、主人公の少年少女が結成する劇中バンドLITTLE ZOMBIESのマネージャー望月役で出演されました。参加することになった経緯を教えていただけますか。
長久 最初から望月役をぜひお願いしたいと思って、脚本をお渡しました。
池松 そうですね。「金魚」を観てから、長久さんが長編を撮るという噂が流れてきたとき、それはそれはワクワクしたんですよ。こんなに喜ばしいことはないし、どういう作品を撮るのかすごく興味があって。そこで自分の名前が挙がっていると聞いたんですが、それでもフラットな目線で脚本を読もうと努めました。そうしたら、まあ面白くて。かつ、僕が最初に読んだ脚本、まあ長くて。
長久 (笑)。そうだね、最初はちょっと長かったかも。
池松 その段階で、ぎゅっと凝縮されるだろうなということはわかっていたんですけど。それで、こんなに面白いことをやろうとしているんだったら、ぜひ出演したいと思いましたね。
長久 キャストの方々は、すべて「この役はこの人!」と決め打ちでお願いしましたね。特に池松さんにお願いした望月という役は、大人でも子供でもない、僕に一番近い役でもあるんです。池松さんを見ていると、何かをあきらめているような雰囲気もあるし、上手にヘラヘラと笑ってやりすごせる人のような気もするけど、本当は曲げたくないものが奥のほうにあって……という性質を感じて。それは僕にも近いような気がしたので、脚本を書きながら望月役は池松さんしかいないなと思っていました。
──実際にお会いして、お互いに共通点を感じましたか?
池松 共通点というか、思った通り、自分の感覚にいちいち響いてしまう何かは感じました。やっぱりこの人は間違いないな、という直感というか。撮影期間は1週間程度でしたが、面白かったですね。
デフォルトで孤独だから、寂しいとか知らない(長久)
──二宮慶多さん演じる主人公ヒカリのキャラクターも、かなり監督の経験が反映されているそうですね。
長久 そうですね。LITTLE ZOMBIESの4人は全員、自分の思っていることの切り分けのような存在ですが、その中で一番僕自身に近いのはヒカリ。僕の両親は2人とも健在なんですが、ずっと共働きで、朝から晩まで家にいなかったので、幼少期の僕は月島の高層マンションの1室で1日中ゲームをして過ごしていて。ロケで使った部屋は、僕が当時住んでいた部屋の隣のマンションが借りられたんですよ。だから窓抜けに、僕が住んでいたマンションが見えるんです。
池松 ええ、すごいなあ。
──ヒカリは両親を事故で亡くしても泣けないような、“心を失った”13歳ですよね。監督もそんな時期があったのですか?
長久 客観的に見たらそうかもしれないけど、当時は楽しく過ごしていましたよ。劇中でヒカリが「1人だから、もともと。デフォルトで孤独だから。“寂しい”とか知らない感情って感じ」と言うんですが、それは当時の僕が本当に思っていたことで。毎晩暗くなってから、大きな窓の前でパントマイムの練習をしたりして、すっごい楽しかったですよ。
池松 (笑)
長久 家に両親や兄弟がいたらそうやって過ごせないので、「自分は恵まれているな」と思っていました。僕はそうやってポジティブに生きてこられたので、“生きる秘訣”を伝えるなんて言ったらおこがましいですけど、観てくださった方にもそういう考え方を知ってほしくてセリフに使いました。
次のページ »
大人の嘘を、早い段階から見抜いてしまっていた(池松)