好きな人のために涙を流すことが、まだわからない(森)
──森さんはオーディションで裕理とその娘・颯香役に抜擢されました。
岩井 この子がいいなと思ったんです。ついこの間まで大分の学生さんだったけど、物怖じせずにアドリブもかましながら自由に演じていて。逸材だなと思いました。
森七菜 恐縮です。オーディションには悔いが残っていて絶対に落ちたと思っていたので、岩井組に参加できることになってうれしかったです。野良犬ではなくてリードを付けたまま走り回っているというか、岩井さんがいるから迷子にはならないという安心感がありました。確か、私から何度か「これはどういう気持ちなんですか?」と相談したことはありましたね。
岩井 ラブレターを渡すシーンだよね。
森 そうです。好きな人のために涙を流すことが、まだ私にはわからなくて。どういうことなんでしょう?と岩井さんに相談しました。
岩井 そのときはなんて言ったんだっけ?
松・広瀬 (笑)
森 「その人と一生会えなくなるわけじゃないけど、大切な思い出とか、楽しく過ごせるであろう“これから”がなくなってしまうことを想像してみたら?」とアドバイスをいただきました。それを踏まえて神木(隆之介)さんのお顔を見たら悲しくなって。岩井さんにまんまと乗せてもらえました。
松 まんまと(笑)。
岩井 最初は迷っていたけど、ぐっと気持ちが入っていましたね。その様子を見ていて、女の子が振られるシーンをこんなにシリアスに撮ったのは初めてだなと思いました。我ながら残酷すぎるだろうと。
ロマンチストじゃないとドキッとする作品は生まれない(広瀬)
──キャストの皆さんから見て、岩井さんはどんな監督なのかをもう少し聞かせてください。岸辺野瑛斗役の降谷凪くんは「監督にオモチャでいたずらをした」と話していて、現場はさぞ和やかだったのではと思いました(参照:「ラストレター」で降谷建志とMEGUMIの長男・降谷凪が俳優デビュー飾る)。
松 彼(降谷)が和やかな空気にしてくれていたんですよ。
岩井 自由だったよね。
森 私は凪くんと一緒に宿題をやりました。懐かしいな。……岩井さんは面白い方! 無口なイメージがあるからこそ、ぽっと出た言葉にみんなの意識が集まるんです。私もそういう人になりたいなと憧れるし、たまに陽気なときもあってギャップが面白い。
広瀬 私は作品の印象が強く影響しているのかもしれませんが、淡いロマンチストな方なのかなと感じます。そういう部分がないと、こんなにドキッとする作品はなかなか生まれないだろうなと。でもお会いすると、あれ? 違ったかな?と思うこともあって。文章と、対面でお話するのとでは印象がかなり違うのって不思議ですよね。唯一無二の存在だなと思います。
松 物を書く人特有の記憶力のすごさもあるかも。昔、どこで何があったかをはっきり覚えているんです。そういえば昔、作品を執筆しているときは誰ともしゃべらずに、籠の中の鳥みたいな日々を過ごしていると聞いた覚えがあります。だから人と適宜に会ったりしゃべったりしながらがんばってほしいです(笑)。
岩井 応援ありがとうございます(笑)。
──では最後に、選びきれないとは思いますが、岩井監督が考える松さん、広瀬さん、森さんのベストシーンを教えてください。
岩井 思い入れの強いシーンは本当にたくさんあります。個人的に「この映画は面白くなるな」という気がしたのは、裕理がワンちゃんを連れて帰ってくる場面での家族のやり取りかな。この3人がフル出演しているし、裕理の母役の木内みどりさんも合いの手がすごく上手で。セリフなんだけどアドリブみたいに半分笑いながらしゃべっていたりして、撮影していて楽しかった。ここからどんどん話がよくなりそうないい画とお芝居が撮れたなという手応えがあって、好きなシーンですね。