第89回アカデミー賞6部門、第74回ゴールデングローブ賞7部門の受賞を誇るミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」。そのシネマ・コンサートが2月に愛知、東京、大阪、福岡で開催される。
2017年に日本公開された「ラ・ラ・ランド」は、現代の米ロサンゼルスを舞台に、女優志望のミアと、ジャズミュージシャンのセブ(セバスチャン)の恋と夢を描く物語。エマ・ストーンがミア、ライアン・ゴズリングがセブを演じ、「セッション」「ファースト・マン」「バビロン」のデイミアン・チャゼルが監督を務めた。
映画ナタリーでは、映画好き芸人・こがけんと、映画評論家・松崎健夫の対談を実施。「ラ・ラ・ランド」をシネマ・コンサートで観るからこその魅力や、劇中の好きな楽曲、いまだに発見があるというこだわりが詰まった演出、クラシックの名作映画へのオマージュなどについて熱く語ってもらった。
取材・文 / 脇菜々香撮影 / 間庭裕基
「ラ・ラ・ランド シネマ・コンサート2024」SPOT映像公開中
「ラ・ラ・ランド シネマ・コンサート2024」とは?
2017年に日本公開されたミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」を、大スクリーンでの上映と、オーケストラおよびジャズバンドによる生演奏の音楽で体感できるイベント。日本では2017年、2018年、2021年にも開催されている人気プログラムで、今回は愛知、東京、大阪、福岡の4カ所で公演が行われる。
東京フィルハーモニー交響楽団にジャズアンサンブルが加わった演奏陣を指揮するのは、劇中の音楽を手がけ、第89回アカデミー賞の作曲賞を受賞したジャスティン・ハーウィッツ本人。彼が自らタクトを振る貴重な公演となる。
とにかく楽曲のパワーが圧倒的(こがけん)
松崎健夫 こがけんさん、「ラ・ラ・ランド」のシネマ・コンサートが2月8日から全国で開催されるとのことです。2021年のときはコロナ禍でお客さんの収容人数が制限されたり、全国開催ができなかったみたいで、満を持して全国でのシネマ・コンサートになります。
こがけん 素晴らしい! 東京で2デイズ、名古屋、大阪、福岡も……いいですね。
松崎 シネマ・コンサートって、生演奏を聴きながら映画を観て、音だけすごくリアルというちょっと不思議な感覚になるのが特徴なんですけど、今回のシネマ・コンサートがすごいのは、「ラ・ラ・ランド」の音楽を作曲したジャスティン・ハーウィッツが自らタクトを振るんです。
こがけん それは今までと違うんですか?
松崎 実際にハーウィッツが来日して指揮をするっていうのは2回目ですが、今やハリウッドの大物ですよ。
こがけん デイミアン・チャゼル監督の作品以外であまり曲を作らないじゃないですか。謎めいた人でもありますから、映画ファンは大興奮ものですね。
松崎 いい観方かはわからないけど、映画を観ずにハーウィッツを見ててもいいぐらい(笑)。
こがけん 彼はもともと脚本も書いていたじゃないですか。だからなのか、作り方が独特ですよね。普通は脚本が仕上がって、映画がほぼできてから曲を作り始めるところを、ハーウィッツは脚本を書き始めると同時に曲も書き始める、脚本が訂正されたら曲も訂正する。一言で言うと無駄が多そうって思っちゃうんですけど、掛けている時間が違うんですよね。
松崎 だから音楽と映画がすごく同期している。脚本に合わせて、映像になったときにどうなるかってことを考えながら作っているというのが大きいんじゃないかなと思います。
こがけん ですよね。演者が演技しなくても今何が起こっているのかわかるぐらい、キャラクターの心情の変化も解像度高く音楽に落とし込んでいるすごさがあります。あと僕が思うのは、曲によっては、歌がない部分のメロディーの存在感が歌の部分と同じぐらい印象が強いんです。とにかくどれも楽曲のパワーが圧倒的で、(公開当時)映画館で観終わったあとすぐ、サントラを買いました。
チャゼル監督の奇抜な演出にしびれる(松崎)
松崎 映画っていろんな始まり方がありますが、ハイウェイでのオープニングシーンは「この映画はミュージカル作品ですよ」って宣言してるようなシチュエーションだと思うんです。また、各シーンでいろんな音楽が流れるのもいいですよね。主人公はジャズミュージシャンを目指しているけど、劇中の音楽はジャズだけじゃなくて、パーティのシーンでa-haの「テイク・オン・ミー」とかも入る。こがけんさんが好きな曲はありますか?
こがけん パーティに行くシーンの「サムワン・イン・ザ・クラウド」がめちゃくちゃ好きです。Aメロ・Bメロ・Cメロが歌で、一番印象の強いサビのようなところが音だけなのは、びっくりして鳥肌が立ちました。あと、最初のハイウェイの曲(「アナザー・デイ・オブ・サン」)とベースラインが変わらないじゃないですか。ちょっと味付けを変えてこれだけ印象を変えていけるハーウィッツの底力を見たなっていう感じがしましたし、明るい「アナザー・デイ・オブ・サン」をしっとりした感じにアレンジするパターンなんかはよくあると思うんですけど、どっちも“陽”なのがすごい。
こがけん 「オーディション」って曲もめちゃくちゃよくて。ミア役のエマ・ストーンの声の表情がハンパじゃないです! 映画自体に起承転結があるのに、曲の中にも起承転結があって、これはやっぱりハーウィッツがそもそも脚本家でもあるからこそできることじゃないかなと。あれほど曲に起承転結があるのって、作品によっては邪魔です(笑)。
松崎 主張しすぎるってことね(笑)。でも聴いてみると、あんばいがちょうどいい。僕は、ラストのくだり。セリフがないのに、曲(「エピローグ」)だけで主人公の2人がどう思っているかがわかるし、何も説明してないけど観客に“もしかしたらあったかもしれないもう1つの現実”ってわからせるのがやっぱりすごい。
こがけん 「ラ・ラ・ランド」を観てない人でもこのシネマ・コンサートは絶対に楽しめると思うんです。そのぐらい楽曲が素晴らしい! だってみんな、バラエティ番組とかどこかしらで曲は聴いてますからね。
松崎 ミュージカルっていうジャンルにちょっと躊躇するような観客がいたとしたら、純粋にラブストーリーとしても観れるし、ニッチな映画好きな人だと、デイミアン・チャゼルという監督の奇抜な演出にしびれると思う。さまざまな要素があることが魅力だと思います。
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この映画は“ハリウッドの神話”みたいな話(こがけん)