「空母いぶき」西島秀俊×佐々木蔵之介|日常が突然崩されたら?“全員エキスパート”の24時間描く群像劇

蔵之介さんの演技から思いが伝わる(西島)

──お二人は久しぶりの共演ですが、顔を突き合わせて演じてみて「相手が自分のこんな芝居を引き出してくれた」と思った点はありましたか。

西島秀俊

西島 蔵之介さんが新波をガチッと作ってくれたので、僕は“何を考えているかわからない男”を思いっきり演じられました。どうやったら戦いを回避して平和の道を選べるかを模索し続ける新波は、人間味にあふれていて映画を観た方が一番感情移入できる人物。一方の秋津は何かを見通している男ですが、周りにはそれがなんなのかわからない。各キャラクターに光が当たっていく中で秋津という人間も浮かび上がってくる、そういう役を作らせてもらえた気がします。

佐々木 秋津艦長と新波副長は“平和を守ること”という目的は一緒だけど、その方法論や行動がちょっと違うんですよね。秋津は読めない、見えない! だから新波は、感情の振幅を激しく作ったほうが対照的に見えるのではないかなと思いました。

西島 蔵之介さんがとにかく戦闘を回避するという軸を作ってくれたから、僕は逆に「戦わなければ守れないものがある」という秋津の思いをしっかりと表現できました。ほかのみんなはどこか「秋津はもしかしたら戦争がしたいんじゃないか」と感じる瞬間があるけど、新波だけは常に秋津のことを信じている。その思いが蔵之介さんのお芝居から感じられたので、僕は国を背負う覚悟とともに戦うキャラクターを演じることができました。

「空母いぶき」 「空母いぶき」
佐々木蔵之介

佐々木 秋津は結論しか言わないし過程を教えてくれないんですよねえ。「戦闘機乗りにはわかるんだ」と去られても、わからんなと(笑)。

西島 そうですね(笑)。ちなみに空自の方はずっと1人なわけではないよとここで明言しておきます。この物語では「1人で戦っている」と言われているだけで。

佐々木 そうそう。秋津と新波はもともと同じ防大で切磋琢磨してきて、空自と海自に分かれて進み、いぶきで艦長と副艦長になった。そんな2人がライバル的ではなくお互いに尊重しあっているところを見せられたらいいなと考えました。だから2人だけで話すところは限られたシーンにしたほうが面白いんじゃないかなと。

西島 廊下のシーンだけでしたね。

佐々木 そうだね。あの場面では、2人が役職の上下に関係なく同期として話せた気がする。

あんなに関西色の強い護衛艦が!(佐々木)

──「空母いぶき」は、覚悟を持って自分の責務を果たそうとする人たちの物語だなと感じました。ほかの護衛艦の乗組員や政府関係者、一般市民が過ごす1日も描かれる群像劇的な要素もありますが、いぶき艦内以外のパートをご覧になっていかがでした?

「空母いぶき」より、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦・いぶき。

西島 護衛艦や潜水艦は、艦長のキャラクターの影響なのか全然気質が違うのが面白い。それぞれのカラーがすごく出ていましたね。

佐々木 あんなに関西色の強い護衛艦があったとは! ずっといぶきにいたからわからなかった。

西島 (笑)。この作品はみんなが「戦争をしない」という強い思いのもとに動いていて、変に足を引っ張る人がいない。全員がエキスパートでそれぞれのベストを尽くしながら現状と戦う様子がリアルで心惹かれました。政治パートやコンビニのシーンも、僕らの日常が崩されるとこういうことになるんだとリアリティを感じます。物語のためにキャラクターが作られていないのがこの作品のよさですよね。

佐々木 誰も戦争をしたいと思っていないし、みんなが自分の立場で“最善”を考えているのがよくわかったよね。(コンビニの店長を演じた中井)貴一さんは貴一さんで、あのコンビニで本気で平和を考えてますからね。メッセージカードに込められた彼の思いも感じるし。それにしても24時間をこんなに多角的に見せてもらって、いい映画でした!(笑)

左から西島秀俊、佐々木蔵之介。
「空母いぶき」
2019年5月24日(金)全国公開
ストーリー

20XX年12月23日未明、国籍不明の軍事勢力が日本の最南端沖で突然の発砲。日本の領土の一部が占領され、海保隊員が拘束される事件が発生した。午前6時23分、日本政府は初の航空機搭載型護衛艦・いぶきを中心とする護衛隊群を現場に向かわせる。このあと、日本はかつて経験したことのない1日を迎えることになる。

スタッフ / キャスト

監督:若松節朗

脚本:伊藤和典、長谷川康夫

原作・監修:かわぐちかいじ「空母いぶき」(小学館「ビッグコミック」連載中 / 協力:惠谷治)

出演:西島秀俊、佐々木蔵之介、本田翼、小倉久寛、髙嶋政宏、玉木宏、戸次重幸、市原隼人、深川麻衣、中井貴一、藤竜也、佐藤浩市ほか

西島秀俊(ニシジマヒデトシ)
1971年3月29日生まれ、東京都生まれ。1994年に「居酒屋ゆうれい」で映画初出演。以降もドラマ、映画と幅広く活躍している。主な出演作は「Dolls(ドールズ)」「CUT」「劇場版 MOZU」「クリーピー 偽りの隣人」「散り椿」「人魚の眠る家」など。公開待機作に「任侠学園」がある。出演ドラマ「きのう何食べた?」が現在放送中。
佐々木蔵之介(ササキクラノスケ)
1968年2月4日生まれ、京都府出身。大学在学中から劇団・惑星ピスタチオのメンバーとして活躍。2000年にNHK連続テレビ小説「オードリー」で注目を浴び、以降はドラマ、映画、舞台と幅広く活動している。2005年には自身がプロデュースを務める演劇ユニットTeam申を立ち上げた。公開待機作には「居眠り磐音」「峠 最後のサムライ」「記憶屋」、「嘘八百」の続編がある。