映画ナタリー Power Push - NON STYLE井上裕介が語る、「心が叫びたがってるんだ。」
新しくて懐かしい青春映画の魅力に“超ポジティブ芸人”が迫る
スペシャルドラマ化が決まり今なお高い人気を誇るテレビアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(以下「あの花」)。同作の監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀が集結した劇場版オリジナルアニメーション「心が叫びたがってるんだ。」(以下「ここさけ」)が公開される。学校行事のミュージカル作りを通し、自身の“本当の気持ち”と向き合っていく高校生男女を水瀬いのり、内山昂輝、雨宮天、細谷佳正が演じ、音楽をクラムボンのミト、横山克が担当。乃木坂46による新曲主題歌が作品を彩る。
映画ナタリーでは、「あの花」ファンを公言するNON STYLE井上裕介にインタビューを敢行。「あの花」への思いから、「ここさけ」の物語やキャラクターに対する感想、スタッフへの願いなど多岐にわたる話題をポジティブに語ってもらった。
取材・文 / 伊東弘剛 撮影 / 辺見真也
予想を超えるオリジナルアニメーション
──井上さんはアニメがお好きだと伺っているのですが、好きな作品を1本挙げていただけますか。
お世辞ではなく、「あの花」ですね。
──それはどうしてですか?
僕はアニメだけじゃなくてマンガも大好きなんです。だから「好きなアニメ」と聞かれたらマンガ原作の作品じゃなくて、原作のないオリジナルアニメーションの名前を挙げたいんですよ。そうすると「あの花」が真っ先に思い浮かぶんです。
──「あの花」を観始めたきっかけは覚えていらっしゃいますか?
なんだったっけ……たしか、Twitterでフォロワーの人がおすすめしてくれたのがきっかけだったと思います。
──観始めてすぐにハマったんでしょうか?
初めは「ベタベタのラブコメなのかなぁ」と思っていたんですよ。幽霊として蘇ったヒロインのめんまに、主人公のじんたんが振り回されているシーンが多くて。それで、家の中で仕事をしつつ“ながら観”してたんですね。でもテレビアニメの4話、5話目ぐらいからかな、いい意味で自分の予想を超えてきて「よし、いったん仕事は置いとこう」と思うぐらいハマってました(笑)。
──どのような部分が井上さんの予想を超えていたのでしょうか?
作品の始まりは、ラブコメ的と呼べるような、ベタベタな展開を予想していたんです。少年と幼なじみの幽霊のドタバタな恋愛を描いて「どこかのタイミングでめんまが生き返ってじんたんと幸せになるんでしょ?」とか思ってたけどそうじゃないみたいだ。しかも一番しっかりしていると思ってたゆきあつがすごいことになってる(笑)。
──ゆきあつの展開には驚かされますよね(笑)。「あの花」だとゆきあつがお好きですか?
ゆきあつも好きですけど、一番はめんまですね。もう本当にかわいい。後輩にこの作品を薦めることがあるんですけど、めんまがかわいいという話になりますね。あとはやっぱり“超平和バスターズ”のメンバーの“仲がいいからこそ思いを伝えられない”という感じは、30代の僕にも胸に迫るものがありました。
懐かしくて新しい物語
──その「あの花」のスタッフが手がけた「ここさけ」をご覧になった感想はいかがでしたか?
本編を観る前から、メインキャラクター4人が青空を背に並んでいるポスターを見ていたんです。それが「好きだー」と叫んでいるように見えて。「ベタベタな青春恋愛モノなのかな?」と思って少し不安だったんです。
──またですか(笑)。
でも本編を観始めたら、本作でもいい意味でその予想を裏切られて。恋愛の要素はもちろんありますけど、思春期の女の子や男の子が成長していく過程が自然に描かれていて。人間ドラマとしてうまい作品だなと思いましたし、大きな1つのストーリーに4人の小さな物語が合致していくところがすごくスリリングでした。
──たしかに、僕もキャラクターの成長を自然に受け入れていました。
10代の心の機微が丁寧に切り取られているなと。そういう意味で、懐かしくもあり新しくもある青春映画だと思いますし、忘れていたピュアな気持ちを思い出しました。
──忘れていた気持ちですか。
素直な気持ちを相手に伝えられず、悩んだり、葛藤したりしている主人公たちが、ミュージカルの制作を通して変わっていきますよね。その姿を観て「思ったことは声に出さないと伝わらない」というシンプルな事実に改めて気付かされました。
──そうですね。それはこの作品の根底にあるメッセージなのかもしれませんね。
お笑いでもそれは一緒で、いくら頭の中で考えても声に出さないと誰も笑ってくれない。だから発信することの大切さということを再認識しました。
「あの花」のヒロインはかわいい、「ここさけ」のヒロインはズルい
──「あの花」ではヒロインのめんまがお好きということでしたが、本作のヒロイン成瀬順はいかがでしたか?
適切な表現かはわからないですが……順ちゃんはズルいなと思いました。
──ズルいですか?
幼い頃の何気ない一言で両親を離婚させてしまい、玉子の妖精に呪いをかけられて、周囲に心を閉ざさざるを得なくなって、可哀想な女の子だと思うんです。でも物語の終盤の行動に対して「あれ!?」って思いませんでしたか?
──ミュージカル発表日の話ですか?
そうです。10代の人は感情移入できるかもしれないし、僕より年配の方はもしかしたらかわいいと思うのかもしれない。すごく人間的な、魅力的なキャラクターではあるので。だけど僕は、わがままだなと思ってしまいましたね。
──僕はかわいいと思う派でしたが……。では井上さんが一番好きなキャラクターは誰ですか?
仁藤さんです!
──仁藤菜月。チアリーダー部のキャプテンで、“ふれあい交流会実行委員”を嫌な顔一つ見せず務める優等生ですね。
仁藤さんはいろいろなことを陰でケアしているじゃないですか。ユーティリティプレイヤーとしての働きが本当に素晴らしくって(笑)。人と人とをつなぎあわせるこの人がいたからミュージカル作りが成立していたと思う。
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ストーリー
幼い頃、何気なく発した言葉によって家族がバラバラになってしまった少女・成瀬順は、突如現れた“玉子の妖精”に二度と人を傷つけないようおしゃべりを封印されてしまう。高校2年生になってもトラウマを抱えたまま、周囲に心を閉ざしていた順だったが、ある日担任の城嶋から、「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命される。同じく城嶋によって選ばれたのは、やる気のない少年・坂上拓実、チアリーダー部の優等生・仁藤菜月、野球部の元エース・田崎大樹らクラスメイトたち。最初は実行委員を辞退しようとした順だったが、彼らとの交流を通し少しずつ変化していく。そんな中、城嶋の思惑により交流会の出し物がミュージカルに決定。歌なら声を発せられる順は主役に抜擢され、楽曲の作詞も務めることに。周囲の協力を得て、すべてが順調に動き出して迎えた発表前日、順はある光景を目撃してしまい……。
スタッフ
- 原作:超平和バスターズ
- 監督:長井龍雪
- 脚本:岡田麿里
- キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀
- 音楽:ミト(クラムボン)、横山克
- 主題歌:乃木坂46「今、話したい誰かがいる」(Sony Music Records)
- 制作:A-1 Pictures
キャスト
- 成瀬順:水瀬いのり
- 坂上拓実:内山昂輝
- 仁藤菜月:雨宮天
- 田崎大樹:細谷佳正
- 城嶋一基:藤原啓治
- 成瀬泉:吉田羊
井上裕介(イノウエユウスケ)
1980年3月1日、大阪府生まれ。中学、高校の同級生である石田明とNON STYLEを結成し、兵庫県・三宮駅付近の路上を中心に漫才を行う。2000年、baseよしもとのオーディションに合格、プロデビューを果たす。2006年、第4回MBS漫才アワードで優勝。以後多くの漫才コンクールで新人賞を獲得する。2008年、活動拠点を東京に移す。同年、M-1グランプリで優勝し、4489組の頂点に輝く。2015年3月、日めくりカレンダー「まいにち、ポジティヴ!」が発売された。