神尾楓珠主演の“文科系哲学恋愛映画”「恋は光」を映画解説者・中井圭がレビュー、試写アンケートも公開

秋★枝の同名マンガを小林啓一が実写化した「恋は光」が6月17日に全国で公開される。本作は“恋する女性が光って視える”という特異体質の大学生・西条と、同じ大学の女子3人が「恋とはなんぞや?」と探究しながら不思議な四角関係を築いていく“文科系哲学恋愛映画”。神尾楓珠が西条に扮し、西野七瀬、平祐奈、馬場ふみかも共演した。

本特集では、映画解説者・中井圭がレビューで「恋は光」の魅力を考察。さらに試写に参加した大学生のアンケート結果も発表する。同年代から見た本作の輝き、そして彼らがそれぞれ導き出した“恋の定義”とは? なお特集最後にはヒコロヒー、宇垣美里ら著名人から寄せられたコメントも掲載しているのでチェックしよう。

文 / 中井圭(レビュー)

映画解説者・中井圭 レビュー

「恋とは何か」に正面から肉薄する哲学映画

恋とは何か。人類が何世紀、何世代にもわたって考え続けた疑問だ。しかし未だに答えは出ず、だからこそ今も興味が尽きない。この疑問は、映画でも考察されてきた。中でも、近年は、マーク・ウェブ監督作「(500)日のサマー」(2010年)が特別だろう。同作は「運命の恋」の存在をめぐる物語。偶然出会った女性サマーを運命だと信じる青年トムが、紆余曲折の末に「運命の恋」の真実にたどり着く。おしゃれでポップに彩られた描写ながら、生々しく突きつけられる恋のリアリティがビターな、恋愛を考察する傑作であった。あれから12年。日本にもようやく、恋とは何かという本質的な疑問に正面から肉薄する、恋愛哲学映画が登場した。それが小林啓一監督作「恋は光」である。

「恋は光」より。左から神尾楓珠演じる西条、西野七瀬演じる北代。

「恋は光」より。左から神尾楓珠演じる西条、西野七瀬演じる北代。

本作の主人公、西条(神尾楓珠)は、恋をしている女性が光って見える特異体質だ。その彼が、同じ大学に通う東雲(平祐奈)に片想いらしき感情を抱き、彼女との交換日記を通じて「恋とは何か」という壮大な疑問を考察することになる。通常の恋愛映画は、どうやって片想いの相手と両想いになるのかを主観的かつドラマチックに描くことが多い。しかし本作は、恋をしている女性が光って見えるという特殊な設定により、そもそも恋とは何なのかを定義するフローが加わることで、感情を分析して他者との関係性を客観的に見つめる点が新しい。片想いは自分の話でありながら、どこか他人ごとのように見つめる違和感が、通常の恋愛映画ではありえない独特のユーモアに繋がり、恋愛哲学映画として本作をユニークなものにしている。

左から神尾楓珠演じる西条、平祐奈演じる東雲。

左から神尾楓珠演じる西条、平祐奈演じる東雲。

この特異な設定を活かすのが、小林啓一監督の語り口だ。自ら脚本も書く彼の作品は、会話が秀逸。4コマ漫画を原作に持つ前作「殺さない彼と死なない彼女」(2019年)でも、異彩を放つ台詞の応酬に絶妙なリズムと真実味を与えていた。そして本作では、虚構性と現実感を接続し、見事に着地させた。やたら堅苦しい、まるで武士のような口調で会話する漫画的な西条と東雲に対し、西条にずっと片想いをしている北代(西野七瀬)と他人の恋人を奪うことに生き甲斐を見出す宿木(馬場ふみか)は、すぐそこのカフェにいそうなほど現実的な存在感がある。実写では成立しがたいこのキャラクターの組み合わせを、違和感なく生き生きと提示するのは、小林監督の手腕だろう。この化学反応の結果、北代を演じた西野七瀬は、過去最高の演技で観客の心に迫る。きっと観客は「恋とは何か」を考察しているはずが、いつの間にか北代に恋をしてしまうだろう。

左から神尾楓珠演じる西条、馬場ふみか演じる宿木。

左から神尾楓珠演じる西条、馬場ふみか演じる宿木。

西野七瀬演じる北代。

西野七瀬演じる北代。

そして最後に。本作には、インディーロックデュオのShe & Himの楽曲“In The Sun”や“Sentimental Heart”が使用されている。このShe & Himのヴォーカルは、俳優のズーイー・デシャネル。そう。彼女は、序盤に言及した恋愛哲学映画の先達「(500)日のサマー」で、主人公が“運命の相手”と信じるヒロイン、サマーを演じている。She & Himの楽曲採用は、恋とは何かを哲学する映画として、最もふさわしい目配せにちがいない。

プロフィール

中井圭(ナカイケイ)

映画解説者。WOWOWの映画情報番組「映画工房」に出演中。試写プロジェクト「映画の天才」で代表を務めるほか、学校プロジェクト「偶然の学校」では代表、Webメディア「あしたメディア」では企画を担う。

「恋の定義」論争を繰り広げる4人は…

神尾楓珠演じる西条。

西条(神尾楓珠)

恋する女性が光って視えるという特異体質の大学生。恋愛とは無縁の生活を送っており、“恋の光”をとにかく邪魔なものだと感じている。

西野七瀬演じる北代。

北代(西野七瀬)

西条に密かに片想いをしている幼なじみ。西条からは「光っていない」と言われており、幼なじみポジションから抜け出せない。

平祐奈演じる東雲。

東雲(平祐奈)

携帯を持たず、インターネットサイトも見ない浮世離れした文学少女。文学や古典作品を読み漁りながら“恋”というものを知ろうとしている。

馬場ふみか演じる宿木。

宿木(馬場ふみか)

他人の彼氏を奪いたくなってしまうタイプで、北代の彼氏だと勘違いして西条に猛アプローチを仕掛ける。